
川俣町、新たに芽吹く希望の花・アンスリウム
全国各地の災害被災地の「今」と、その土地に暮らす人たちの取り組みや、地域の魅力をお伝えしていくプログラム、「Hand in Hand」。今回のテーマは、
『川俣町、新たに芽吹く希望の花・アンスリウム』
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今回の「Hand in Hand」は、福島県の東部の町の復興の歩みと「今」を伝える、シリーズ、「あれから10年、復興が進む福島を行く」の、川俣町編です。
福島県の中通りに位置する川俣町は、東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所の事故により、避難指示が出された町の一つ。町の南東部・山木屋地区が居住制限区域、避難指示解除準備区域に指定されていましたが、2017年3月にすべての避難指示区域が解除され、約半数の住民が山木屋に戻り、生活を再開しています。
そんな山木屋地区では、いま花の栽培が、地域の営農再開の起爆剤として、期待を集めています。東日本大震災による原発事故によって避難指示が出された地域では、避難指示の解除後、どう農業を再開していくかが課題となっていました。浪江町のトルコギキョウをはじめ、葛尾村の胡蝶蘭など、花の栽培は、ほかの農産物に比べて、風評被害の影響を受けにくいということで、地域の営農再開の起爆剤として期待され、生産者はそれぞれの品種を、地域の新しい名産品にしようと意欲を見せています。
そんな中、川俣町でいま栽培が進められているのが、南米原産の花、アンスリウムです。栽培農家11軒でつくる、「川俣町ポリエステル媒地活用推進組合」が、日本一の産地化を目指し、取り組んでいます。もともとトルコギキョウのブランド産地でもある川俣町。アンスリウムは、2015年に近畿大などの支援を受けて試験栽培が始まりました。土ではなく古着をリサイクルしたポリエステル媒地を使うという、珍しい栽培方法で行われています。
組合には30~80代の幅広い年代の生産者が所属。国内で流通するアンスリウムは大半が輸入品ですが、自動で水や肥料を与えるシステムも駆使し、年間50万本の生産を目標に掲げています。そんな川俣町のアンスリウム。栽培農家の中でも若手の一人、現在33歳の、「Smile farm 谷口」代表、谷口豪樹さんにお話を伺いました。
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谷口 アンスリウムは国内だとなかなか珍しい花なんですけど、熱帯植物で、ハワイとかには道端に生えているくらいなんですけれども、日本ではなかなかない花です。
高橋 多分皆さん見たことあって、ハートの赤い光沢のあるちょっとおしゃれなカフェにある植物ですよね。
谷口 そうですね。ハワイの方では Heart of Hawaii というくらいです。向こうだと、バレンタインデーという形でアンスリウムを送るという風習もあるくらいです。
高橋 さっき道の駅で見た時もいろんな色が花束になっていて、それでとてもお安くて、500円とかでこれは買って帰らなきゃと思いました。
谷口 どちらかというと高級な花という形にはなるので、やっぱり普通では買えないというか。でも、せっかく福島の復興の花という形なので、なかなかこの川俣町は特に山木屋という地区は、皆さん来られない方も多いので、来ていただければ恩返しというか、そういうので価格をすごく安くさせて頂いています。
高橋 アンスリウムの魅力って、育てている谷口さんからはどんなところだと思いますか。
谷口 作っていて思うのは、ものすごく花持ちがいいんです。1ヶ月とか、長い人だと2ヶ月。なかなか切り花でそういう花ってないんです。なのでそこが魅力です。あとここのハウス自体が土を使わないで、服の繊維をリサイクルしたポリエステル繊維というものを使っているんですね。やっぱり福島の土壌汚染対策とか風評被害にならないようにというのでアンスリウムを作っているんです。
高橋 手に持たせていただきますけど、ふわふわの綿みたいな。これで育つんですか。
谷口 これで育っちゃったんですね。肥料の成分とかは一切ないので、肥料は自分の中でデータを作って、でそれが一度成功すると、もう来年再来年とずっと同じことが作れる。今までの土を使った時に、今年うまくいっても来年は連作障害と言って、肥料がどんどん溜まっていく障害があるんですね。それでやっぱりうまくいかなかったというのがあったんですけど、これはもう洗濯みたいに水をもんでもらって、そうすると全部肥料が流れてくれるので、また同じ作物をずっと作れるんです。
高橋 今、ここではどのくらいの量出荷されているんですか。
谷口 ここのハウスに8,000株の株があるんですけど、大体年間を通して3万本から4万本かなと。
高橋 事業の方は、順調ですか。
谷口 1年目はアンスリウムって何?から始まったんですけど、それがやっと3年、4年目になってきて、少しずつ川俣のアンスリウムだね、というのが広まってきたなと思いますね。
高橋 でも、今は本当にコロナ禍で、なかなか結婚式だったりイベントがないという中で、お花の需要というのがどうなのかなとなると思うんですが、コロナの影響ってありましたか。
谷口 ありますね。やっぱり売上的には本当に半分以下ですね。もう出荷すれば赤字だというのが、やっぱり去年続いて。でも、それがあったきっかけで、僕は全国の方にアンスリウムをプレゼントみたいな形でキャンペーンをしていろんなことに送ったんですね。それがやっぱり「すごいね」「頑張ってるね」とか逆に励みになって。それが今やっと回復してきたなというのがありますね。
谷口さんを含む「川俣町ポリエステル媒地活用推進組合」が手掛ける、この“ポリエステル培地”を使ったアンスリウム栽培、ジャブジャブ洗えることで、肥料蓄積による連作障害を避けられるという利点のほか、使用済みの衣類の繊維を使うことで、リサイクル、CO2削減、SDGsへの貢献、人工土壌なので虫が沸きにくいなど、メリットが多いのも特徴です。
お話を伺っている谷口さん、代々続く農家さんかと思いきや、じつは、埼玉県のご出身で、川俣町へは震災後に移住されたのだそう。その経緯、そして実際に住んでみて感じる川俣町の魅力なども、伺ってみました。
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谷口 ずっと転勤族という形でいろんなところを転々としていたんですけど、福島に来た時に、福島ってすごいいいところだなと思って好きになっちゃって。次、また転勤の話が来たんですけど、「もう仕事を辞めます」とやめちゃったという感じですね(笑)。
高橋 ちなみに前職はどういったお仕事だったんですか。
谷口 前職はゴルフ関係で、ゴルフを教えたりとか。そういうのをやっていました。
高橋 アンスリウムのアの字もないですね。
谷口 全くないですね(笑)。
高橋 でもそれだけ福島がいいと思ったのは、どういったところなんですか。
谷口 やっぱり人の良さというのがあったんですけど。最初は人見知りがあったんですけど、仲良くなるにつれて、1日休むだけで「どうしたの?」「何かあったの?」みたいな形で、すごく家族みたいに心配してくれたんですね。すごいあったかいなと思って、同時にやっぱり福島に来て復興関連で何かできないかなというのは思っていたので。それが、こういう風な事業と組み合わさった時に、もうこれだな!と思ったんです。
高橋 この山木屋地区でお仕事をされるようになったのはどうしてなんですか。
谷口 奥さんの実家が川俣町の山木屋地区というのもあって。福島の市内で奥さんと出会って結婚した流れだったんですけど、お父さん達がお花農家というか、農業をやられていて。僕はサラリーマンの時に、ちょっと忙しい時に手伝いをしたという経緯で、それですごいかっこいいなというのがきっかけになったというか。
高橋 でも、山木屋地区は震災後原発事故の影響で避難指示も続いていたと思うんですが、それについての不安というのはどうでしたか。
谷口 不安はやっぱりありましたね。福島に転勤になった時に、埼玉の家族から「行かない方がいいんじゃないか」というのがありましたね。実際、農業を始めた時に友達に「農業を始めたよ」と言ってもやっぱり「福島のものは送らないで」と言われたのも正直な話です。でも、それでもやっぱりここが好きで、お父さんたちも避難してすぐ菊を避難場所で始めたんですね。そういう風に頑張っている方もいらっしゃったので、それは何とか払拭したいというのがあったので、不安というよりは悔しいという気持ちの方が強かったですね。また、お米を去年から始めたりもしてたんですけど、お米も全量検査するんですね。で、絶対大丈夫だよという安全があるので、それを地道にやるしかないなと思って。で、やっとだんだん福島の物っていいんだね、大丈夫だね、とやっとなってきたかなと今思ってますね。
高橋 実際に川俣で生活をされてみて、こんないいところがあるよと、たくさん発見されたと思うんですけれども、知らない方もいっぱいいらっしゃると思うので。どんなところが魅力ですか。
谷口 純粋に農業の経営者として思うところは、この山木屋地区というのは標高が500mを超える高冷地なんですね。それにしては雪がそこまで降らないというか、やっぱり自然界に恵まれたところなので。関東だと8月に出すものがこっちだと逆に9月、10月とか時期をずらせるというメリットがすごくあるので、そういう面白さと言うか、他にない強みになるというのがこの地区の良さ。あとはやっぱり自然の強さ。水も綺麗だし、(星も綺麗で)夏とか天然のプラネタリウムができるくらいで。冬は山木屋天然リンクというのもあるので。
高橋 田んぼがリンクになっているんですよね。
谷口 そうです。だからなかなかないですね。そういうのがすごく魅力的ですね。
高橋 美味しいお米、フルーツ、魚、福島の魅力は数々ありますが、じつは「花」もあったんですね。
谷口 そうなんですよ。
高橋 今、ハウスを見せていただきましたけれども、今後はもっと規模を広げようとか思っていらっしゃいますか。
谷口 そうですね。今年から組合関係なしで私の事業なんですけど、ここからすぐ近くに約2,000坪の敷地を借りたんです。そこにはハウスが3棟あって、アンスリウム狩り、イチゴ狩り、きゅうりの農業体験と。あとは、これはちょっと今交渉しているんですけど、そこにキャンプ場を作ったりとか、いろんなものが全部体験できるような施設というのをこれから作ろうというので、今絶賛頑張っています(笑)。
高橋 将来、こうなっていったらいいなということはありますか。
谷口 自分で決めているものとして、新しい農業の選択肢を増やすという考えがあって、やっぱり農業って汚いとか儲からないとか、そういう風に職業ランキングで全然上位に来ないですよね。でも、そのイメージを変えて、スーツで農業ができたりとか、デートスポットで農業行く?とか、そういう風なイメージに変えたいというか。それで後継者も増やして、皆さんが農業に携わる瞬間というのを僕は繋いでいきたいなというのがありますね。やっぱり人を増やしたいというか、ぜひ川俣町に来て、アンスリウムでもいろんなものでも見てもらいたいな、というのがありますね。
「Hand in Hand」、福島県の東部の町の復興の歩みと「今」を伝える、シリーズ、「あれから10年、福島の被災地を行く」。今回のテーマは、「川俣町、新たに芽吹く希望の花・アンスリウム」。
3棟のハウスを借り、今後はアンスリウム狩り、イチゴ狩り、きゅうりの農業体験などが楽しめるファームをつくる、そしてキャンプ場も。取材に伺った時も、そのハウスでは大学生や若いスタッフたちが何人か、整備に汗を流していました。“人を増やしたい”という谷口さんの願いは少しずつ実を結び始めています。
今年5月にはそんな施設の一部がオープン予定で、現在プロジェクトの実現へ向け、クラウドファンディングも開設しています。アンスリウム狩り、ぜひ体験してみたいですね。
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さてここでプレゼントのお知らせです。
今回は谷口さんが丹精込めて育てたアンスリウムの「アレンジメントフラワー」を、川俣町山木屋地区の「Smile farm谷口」から、直送で2名の方にプレゼントします。
(参考写真/内容は発送時の開花状況によります)
ご希望の方は、このホームページのメールフォームからご応募ください。応募の際、下記のクイズにお答え頂きます。
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【問題】
Q:自然豊かで静かな川俣町ですが、年に一度、国内最大の音楽祭「コスキン・エン・ハポン」が開催され、全国から多くの愛好家やプロの演奏家が町を訪れ賑わいます。コスキン・パレードでは、〇〇の衣装で着飾った団体が町を練り歩きます。〇〇にあてはまるのは次のどれでしょうか。
A:①南米
②日本
③江戸
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ヒントは復興庁のサイト「タブレット先生の『福島の今』」にある「ふくしま旅スゴ」の中通りエリア(中通り2)にあります。ぜひ福島県59市町村の映えスポットの写真を集めるすごろくゲームにも挑戦してみてください。
クイズのヒントは、「タブレット先生の福島の今」の中にある「ふくしま旅スゴ」の中にあります。
メールに答えの番号を書き添えたうえ、「谷口さんのアンスリウム希望」と書いてご応募ください。番組の感想や、本日ご紹介した、川俣町の皆さんへの応援メッセージもお待ちしています。頂いた応援メッセージの一部は、復興庁の〔Hand in Hand レポート〕でも、個人情報を伏せてご紹介させて頂きます。是非たくさんのエールをお待ちしています。
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来週の「Hand in Hand」は、宮城県女川町で行列のできるラーメン店を営む、ある移住者のお話し、お届けします。来週もぜひ聴いてください。