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21.03.18
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花と酪農、葛尾村に響く復興の足音


全国各地の災害被災地の「今」と、その土地に暮らす人たちの取り組みや、地域の魅力をお伝えしていくプログラム、「Hand in Hand」。今回のテーマは、

『花と酪農、葛尾村に響く復興の足音』

福島県の東部の町の復興の歩みと「今」を伝える、シリーズ、「あれから10年、復興が進む福島を行く」の、葛尾村編です。


ダイジェスト動画はこちらから


福島県の浜通り地方、標高が高い阿武隈高地に位置する葛尾村は、東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所の事故により、避難指示が出された自治体の一つ。事故後、全村民が村外に避難しましたが、2016年6月、帰還困難区域を除き避難指示解除になり、現在、3割程度の方が村に戻って生活を再開しています。

震災前は農業や酪農、畜産が盛んだった葛尾村。原発事故による避難指示の解除後、どう農業を再開していくかが課題となっていました。ほかの農産物に比べて、風評被害の影響を受けにくいということで、浪江町のトルコギキョウや、先日番組でもお伝えした川俣町のアンスリウムなど、花の栽培が、震災後に福島県東部の各地で取り組まれていますが、そのうちの一つが、葛尾村の胡蝶蘭です。

2017年に葛尾村の農家が農業法人「かつらお胡蝶蘭合同会社」を設立。胡蝶蘭の栽培をはじめました。商品名は「ホープホワイト」。2018年には、復興大臣賞や、埼玉県鴻巣市で開催された花きについての「平成30年冬季品評会」の洋蘭の部で銀賞という栄誉ある賞を受賞しています。

当初、社員4人で事業を始めましたが、現在はパート従業員を含め、19人で胡蝶蘭の生産・販売に取り組んでいます。「かつらお胡蝶蘭合同会社」メンバーの栽培農家、杉下博澄さんに、お話を伺いました。

◆◆

――名前がホープホワイト。この名前に込められた思いはどんなものなんですか?

「もちろん“ホープ”は希望、“ホワイト”は白。うちの会社を立ち上げて4年。ここ葛尾村で胡蝶蘭栽培というのは初めての試みではあったんですが、自分たちが故郷に農業再生というアプローチの仕方で復興に寄与したいと、そういう思いから始めました。自分たちにとっての希望になりうるという点、あとはお祝い事を中心に使っていただくような花ですので、贈られた方、手元に届いた方、それぞれの思い、そこに希望という形を強く感じていただきたいという、その2つの理由から「ホープホワイト」という名前を付けています。

――もらった方とか、贈り物で届けられた方とかからはどんな声が届いていますか?

「やはり多く寄せられるお声というのは、とても花が大きくて、見栄えのするものだという風に褒めていただくことが多いです。特にこの標高もありますし、東北の地ということで、夏場の温度管理に関しては、アドバンテージがあります。本来はしっかりと陽の光も当てて大きな花にしたいところを、暑さ対策のためにあえて遮光をしなければいけないという状況が、他の南のほうの産地に比べると少なくなるので、しっかりと陽の光を当てて育てることができます。結果、やっぱり大振りな厚みのある花を育てることがしやすいというのがうちの強みではあります。また今までやったことのない胡蝶蘭栽培ということをこの葛尾村で始めた、その事業そのものに関心を持ってお声を寄せていただく方もたくさんいらっしゃいます。

――でも、なんで葛尾村で胡蝶蘭の栽培をスタートさせようと思われたんですか?

「やはり、一時避難区域ということで住民が誰もいないような状態になりまして、現在そういったところは解除されまして、帰村者や、あるいは移住、定住という形で交流人口の増加等も考えていかなければいけない。そんな中ですけれども、従来の農業が再生するという選択肢もあったんですが、やはり我々がその事業を始めようとした当初というのは、原発事故の影響、またそれに伴う風評による影響なんていうのも総合的に加味しなければいけないような状況ではありましたので。じゃあどういう形であればたくさんの方にこの地でつくった生産物を受けいれてもらえるだろうかという観点から、施設園芸という形で外的要因とは一線を画して、作物に適した環境で生育させるという、そういう営農の仕方ですね。あと花にはいろんな意味合いとかありますので、自分たちの思いであったりとか、人の言葉、思いを伝えるものを作っていきたいなと。で、それを地場の産業として生業として定着させていきたいな、そういう思いから花。当然新しい営農スタイルというかたちで生業を確立していくのに、しっかりとした安定した生計を立てられる形をとっていきたかったので、収益性の高いもの、高単価なものというかたちで徐々に候補を絞っていって、この胡蝶蘭栽培に辿り着いたというのが経緯です。」


「まあ自分の出身地ではあるんですが、私自身が農業を営むという選択をするつもりは、もともとはなかったんですよ。震災当時は別の業種ですね、一会社員として、外勤めをしておりまして。住んでいるところも近隣の田村市船引町にアパートを借りて生活をしていたんですけれども。震災と原発事故で避難生活がその後あったんですが、そのあたりから自分の生まれ故郷に立ち返って、考えるということが多くなりまして。ある冬の日にですね、村の様子を見に来たときに、住民が誰もいなくなってしまった中で、自分たちの生まれ育った家があったりとか、もともと肥育農家だったので、肉牛を飼っていた牛舎なんかもあったんですが、そういったものが朽ち果てていくという様子をまざまざと見せつけられた時に、この状態を自分自身で承服できないという、そういった思いが強くなりまして。そこから改めて自分にこの地でできることは何かないかと考えること、じゃあやっぱり
その農業再生というかたちで貢献したいと。まあそこから始まってますね。自分の故郷でもう一度
生活をするという環境を整えるところに、足跡を残したいという、その思いが根底にあります。」

◆◆

こう語る杉下さん。創立から4年目を迎えた「かつらお胡蝶蘭合同会社」は、企業間贈答、BtoBが主要なマーケットになっており、去年の春先には目標とする収益ラインにはたどり着いたものの、コロナの影響で一時は苦境に立たされている時期もありましたが、いま立て直しをはかり、当初想定していたよりは遥かに小さい損益で抑える形に今年度は着地できそうということでした。

現在19人が胡蝶蘭栽培に取り組む「かつらお胡蝶蘭合同会社」。大学生のインターンを受け入れ、ホープホワイトをPRする企画を一緒に考えたり、海外からの特定技能実習生も受け入れているということです。雇用と関係人口増加に寄与し、そしてハウスの見学も受け入れているとのこと。これほどたくさんの胡蝶蘭を一度に見る機会は植物園でも見られない光景なので貴重です。

大ぶりで花びらに張りがある見事なその胡蝶蘭、葛尾村の「ふるさと納税」の返礼品にもなっています。もちろんネットでも購入出来ます。「ホープホワイト」のページをチェックしてください。


「花と酪農、葛尾村に響く復興の足音」。杉下さんももともとは牛を飼っていた農家さんだったということですが、次にご紹介するのは、故郷で酪農を再開された、「佐久間牧場」の3代目、佐久間哲次さんです。

震災前、「佐久間牧場」は約130頭を飼育する大規模酪農家でしたが、原発事故によって避難を余儀なくされ、避難指示が解除された2016年、村に戻って酪農を再開しました。ここまでの道のり、そしてこれからについて、佐久間さんに伺いました。

◆◆

「3月11日に震度5強の地震があったんですが、地震の影響はほぼ無くて、その後、原発事故がおきて、全村避難になったんです。牛はここにおいたまま、村の人達と一緒に避難をしたんですが、その後は、福島市にある体育館で生活しながら、ここに牛の世話をしに通ってたんですけど、それも、“牛をどういう風な形にしろ処分しなさい”ということになったので、6月の終わりまでに仔牛も親牛もすべて行き先を決めて。親牛に関しては、“線量を測って全部食肉処理をしてください”という村と国の方針になったので、それに従ってうちらは6月いっぱいでここを離れました。それから、ずっと仮設の生活をして、平成28年6月に村は一部の地域を除いて解除されたので、もし牛を飼ったときのために牛のエサになるようなトウモロコシとか牧草の試験栽培をやりながらいたんですけど、28年の12月に原乳の出荷制限が解除になって、それから牛を飼う準備をしようと。ただもともと原発の事故の前からある牛舎を使う場合は、牛舎をほぼ水洗いするくらい除染をして、線量を測って、国の基準を三回合格しないと牛を入れてはダメというような基準があったので、それをクリアするためにだいたい半年くらいかかって、それからやっと牛を入れていいよというOKがきたんですけど、それが平成30年の7月の終わりくらい。それで9月に初めて、7年半ぶりにここに牛が8頭だけもどってきて、それから牛乳を捨てながら、放射性物質の移行検査というのを約4ヶ月間やって、ずっとND(不検出)を続けるというのがまず出荷制限の解除のルールでもあるので、それを12月いっぱいまでやって、やっとOKになったので、平成31年の1月11日からここで牛乳の出荷を再開しました。

――長くかかりましたが、必ずここに戻ってきて再開するんだという思いに揺らぎはなかったですか?

「いやそれはありますよ。いつ解除されるかというのも見通しはついていなかったので。牛と接していない生活というのが6年も7年もなったので、それこそ今さら再開して本当にできるのかなという思いもずっと持ちつつ、ただそれこそこの牛舎もそうなんですけど、自分たち家族で手作りして建てた牛舎で、あと畑とかもやっぱり苦労してうちのじいちゃんが戦後開拓で入って、開拓した場所だったので、やっぱりそういうものをそう簡単に捨ててもいいのかという思いもあったんで。まあウチの父親からすると、別にここの土地に縛られる必要はないという話はされてたんですけど、でもうまくいくにしろいかないにしろ、チャレンジしないで終わるよりは、チャレンジしたいなという思いもあって。あとはやっぱり自分たち、この40代の人間がここを捨てたら、あとはウチの父親の世代の60代後半から70代半ばの人たちが、いま帰村しているのがほとんどなので、その人たちに村を背負えなんていっても、これはなかなか酷な話なので。やっぱり自分らがここでやっていくのは大変なんですけど、率先してやっていって、で周りの人たちがそれを見て、何かを感じてくれて、戻ってきてくれる人たちが増えてくれれば、それはそれで支えにもなるのかなと。勝手な思いですけど。」



放し飼いでのびのびと飼育されている牛たち。酪農を再開した時はわずか8頭だったのが、今はなんと約180頭!(震災前を超えています!)

今はさらに飼料などを育てる農地を開拓中の佐久間さん。将来はチーズなどの乳製品も手掛けてみたいとお話しされていましたが、実は、一番大切な原乳についても、嬉しい出来事があったんだそうです。

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「まあおいしい牛乳を作るのに努力しているので、みんなに美味しいと思ってもらえることを信じて毎日世話をしているんですけど。福島県のJAグループなんですけど、そこの乳質改善コンクールというのがあるんですけど、最優秀賞をとらせてもらって、実は、去年再開して、2年目も最優秀賞、2年連続でとらせてもらったんです。なので、一応美味しい牛乳だと信じて(笑)。」


「Hand in Hand」、福島県の東部の町の復興の歩みと「今」を伝える、シリーズ、「あれから10年、福島の被災地を行く」。今日のテーマは、「花と酪農、葛尾村に響く復興の足音」。

葛尾村では、佐久間さんの牧場をはじめ、5月頃には、「クリムゾンクローバー」と呼ばれる紅色の花を咲かせるクローバーが一面に咲き誇る景観が、村のあちこちで見ることができるそうです。開花情報などは、村の復興交流館「あぜりあ」でも発信しているということです。

◆◆

ここでプレゼントのお知らせ。今日はその「葛尾村復興交流館あぜりあ」で購入しました、葛尾村産のお米、「ひとめぼれ」(2キロ入り)を3名様にプレゼントします。


ご希望の方は、このホームページのメールフォームからご応募ください。応募の際、下記のクイズにお答え頂きます。

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【問題】

Q:食品の出荷制限は、放射性物質を含む食品による内部被ばく(健康影響)を低減させるために必要な措置ですが、チェルノブイリ原発事故(1986年)と東京電力福島第一原子力発電所の事故とでは、事故後の対応などが大きく異なりました。その違いはなんでしょうか。

A:①チェルノブイリ原発事故では、全ての食品の流通を停止させて健康影響を防いだ。
  ②東京電力福島第一原子力発電所の事故で空気中に放出された放射性物質量は、チェルノブイリ原発事故の1/2だった。
  ③東京電力福島第一原子力発電所の事故では、住民の避難指示や農産物等の出荷制限を速やかに行った。


ヒント:タブレット先生の「福島の今」の、マンガ『この空の下で』(著:桜沢エリカ)巻末資料にあります。
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メールに答えの番号を書き添えたうえ、「葛尾村のお米希望」と書いてご応募ください。番組の感想や、本日ご紹介した、葛尾村の皆さんへの応援メッセージもお待ちしています。頂いた応援メッセージの一部は、復興庁の〔Hand in Hand レポート〕でも、個人情報を伏せてご紹介させて頂きます。是非たくさんのエールをお待ちしています。

復興庁とともにお届けしてきた、「あれから10年、復興が進む福島を行く」。今回の放送でシリーズの最終回となります。先日、震災から10年を迎えた福島県。その中で復興に向けて様々な取組を続け、前に進んでいる方たちをフォーカスしてきました。聞き逃してしまった方は、復興庁HP「タブレット先生の福島の今」から、動画やレポートもご覧になることができます。

ぜひ福島の「今」を知って、これから先も、福島に思いを寄せて頂けたらと思っています。番組でも取材を続けていきます。

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来週の「Hand in Hand」は、福島の復興・再生に向け、環境省と学生たちが連携して取り組む活動にフォーカス。今月行われた大熊町での慶大生による「聞き書き」活動、神戸大生による「記憶の街」ジオラマ作りを紹介するほか、環境省主催の論文コンテスト「チャレンジアワード」にもスポットを当てます。来週もぜひ聴いてください。

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