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21.10.07
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佐賀県武雄市『千年夜市』の“おせっかい”


全国各地の災害被災地の「今」と、その土地に暮らす人たちの取り組みや、地域の魅力をお伝えしていくプログラム、「Hand in Hand」。今回のテーマは、

「佐賀県武雄市『千年夜市』の“おせっかい”」

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今回は先週に引き続き、佐賀県武雄市からのリポート。8月の豪雨で、住宅1700棟余りが床上・床下浸水するなど大きな被害を受けた武雄市。番組が取材を行なった9月末の時点でも、家屋の浸水被害がひどく自宅に戻れない方や、生活サポートが必要な方がいらっしゃいました。しかもこのコロナ禍では、ボランティアによる支援も人手が少なく、すべてが元に戻るには、まだ時間がかかる印象がありました。

その一方、まさに「共助」という言葉のとおり、地元の方々が力を合わせて、助け合う動きも起きています。それが今回お伝えする「千年夜市」という、町おこし団体による支援です。

この団体が取り組んだのは、浸水被害の影響などで日々の食事に困る住民のために立ち上げた非営利団体、「おせっかい配食」というもの。「千年夜市」実行委員長、永田裕美子さんのお話です。

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私は(住んでいるのが)駅の近くなので、まったく被害はなかったんですけど、水害があって1ヵ月が経っても、ご飯にまともに食べられていないとか、子どもさんが朝からカップラーメンを食べているというのを聞いてあまりにもショックで。そういったところにお弁当を“おせっかい”ながら配送できればと思って立ち上げました。それで一般の方たちに寄付のお声掛けをしたら支援して頂けるということで、また飲食店さんもずっとまん延防止措置とか時短要請ですごく疲弊している中で、“ちゃんと対価を払うんでご協力頂けませんか”と声をかけたら、すごく喜んでたくさんの方がご支援してくれて。SNSで発信したりするんですが、それを見ていた農家さん達が“きゅうりいりますか”とか“レンコンいりませんか”と寄付をしてくれたり、すごく良い形でつながって。たとえば毎日毎日畳を上げて掃除をしてということをしている中で、“ご飯つくる気力もない”とか、“5人家族でお弁当ひとつでも良いから届けて欲しい”といったことを言われたり、依頼した飲食店さんも、“野菜不足かもしれないから野菜をもう少し入れよう”とか“栄養を考えて作ろう”、“高齢者がいるんですか?”とか聞いてくれて、特別メニューを作ってくださったり、非常にありがたいですね。

―――コロナ禍だと人との接触が減ったり、疎遠になっていくイメージがありますけど、逆に、縁や思いやりで繋がっているんですね。

そうですね。こういった災害とか新型コロナウイルスとかで大丈夫なところはお金の支援をするとか、自分だったら何ができるかなというのを考えて頂く機会ができたというか。そういった意味では繋がりができていくのは良いことだと思います。

―――それと同時に、武雄のことも知って欲しいですね。

そうですね。水害のイメージが大きいので、武雄市全体が水に浸かっているイメージがあると思うんですが、それは本当にごく一部で、残りの方は普通の生活をしていて経済もちゃんと回っていますし、コロナが落ち着いたときにはぜひ遊びに来てほしいと思います。



(武雄のシンボル「武雄温泉楼門」。辰野金吾が設計し大正4年に完成。国の重要文化財に指定)

浸水被害のあった地域では復旧作業が続いていますが、ほとんどの場所は被災を免れ、通常の営みがありました。番組チームも夜に武雄温泉のお湯をいただきましたが、じつに良いお湯でした。

永田さんが実行委員長を務める「千年夜市」。福岡で生まれた、たくさんの提灯で夜の町を演出するナイトマーケットのこと。それを武雄市が受け継ぎ、町の名物として盛り上げようとしています。コロナ禍で実現はこれからですが、8月には疲弊した地域を元気づけようと、街なかに提灯が灯されました。

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武雄に「楼門」という武雄温泉のシンボルみたいな竜宮城みたいな建物があって、そこの前の通りに旅館がいくつあって。40年、50年前はそこに芸者さんが120人いたくらい、本当に温泉街で、「温泉通り」はそういう通りだったんですけど、時代もこんなですから空き家も増えてすごく暗いんですよね。コロナもあってまだ全然スタートもできていないんですけど、ゆくゆくはどこかに常設してアジアンマーケットみたいに屋台とかグルメストリートがあるよ〜という場所ができたら、観光客の方も喜ぶだろうし市内の経済の活性化の一助になればなと思っています。

―――台湾の夜市みたいな?

そうそう。あんなイメージです。で、コロナで旅館もお客さんがいないし、すごく寂しかったので、お盆にはそこにちょうちんを並べたら映えるだろうと思ってやる予定だったんですが、大雨でその週はできなくて。そして大雨の水害とコロナの時短営業でお店も9時までしか営業できず、なおさら真っ暗になっちゃって。なのでその翌週に、ゲリラ的に物干し竿に提灯を10個ずつぶら下げて、電柱にくくりつけて夕方6時に電気をつけて通りが温泉街風な感じになって。良いシナジーというか、よかったです。真っ暗だったのでとにかく明るくしたい、灯りをともしたいというだけでやったんですけど。


―――今後、こういう計画がある、とかお話しできることありますか?

武雄市民はほぼ8割位はワクチンを打ち終わる段階になるので、そうなってくると経済も回したいと思っていて、千年夜市も12月のクリスマスに提灯を灯して、ぱっと明るく楽しいワクワクするようなイベントができたら良いなと、いまそれを目指してやっています。

千年夜市HPより)

提灯で彩られた広場に屋台とテーブルが並び、食べたり飲んだり、縁日みたいな楽しげな場所・・・コロナ禍でこういう雰囲気とは遠ざかっていますが、こんな楽しい場所をつくり、それを先々は常設として武雄に根づかせようとしているのが「千年夜市」です。12月のクリスマスには夜市を実施したいといま計画を進めている最中。若者にも積極的に参加してもらおうと、“スケボーパーク”も併設したい”とお話しされていました。

そんな武雄での「千年夜市」を仕掛ける永田裕美子さん。じつは、Iターンで武雄に来られたのだそうです。

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9年前に東京から移住してきて。きっかけは、ちょうど武雄市の公立の図書館を蔦屋書店が運営するというニュースが出たとき、私はテレビ局にいて、変わった自治体だな、勇気あるというか英断だなと思って、そんなことをする市長は絶対におかしいぞ!と思って(笑)。それで市長が番組に来られたときに控え室に行って「武雄市に行きたいんです」と逆指名をして。そしたら爆笑しながら「いいよ」って言われて。そこから半年後に移住しましたね。

―――いろいろすごいですね。

ちょうど子どもが小学校に上がる時で、週三日ベビーシッターが来ていて、めちゃくちゃだったんですよ。で、小学校に上がる機会に、ちょっとこの世界から足を洗ったほうがいいんじゃないかなと思って。そういうことを考えているときに市長と会って、半年後には武雄に来ていました。最初は友達もいなかったけど、蔦屋図書館があるし、文化的なものが何かあれば生きていけるかなと。娘と二人でずっと蔦屋図書館に入り浸ってましたね。佐賀県民は打ち解けるまでにブラインドの隅から見ている感じはあるけど、でも仲良くなると「今日スナック行くけどいかんね?」って電話があったり(笑)、この田舎いいやん!みたいな感じで。でも東京から来ているので全然こっちの感覚が分からず最初は車も持っていなかったんですよ。自転車だったんです。住まいが西麻布で仕事場が六本木だったので。

―――西麻布から武雄ですか!

でも西麻布は焼き肉屋ぐらいしかないし物価も高いし(笑)。いまの方がよっぽど便利です。佐賀空港から成田に飛べば海外もすぐ行けるし、福岡空港も長崎空港も車で1時間くらい。アクセスもいいです。

―――逆に移住してきた人の目から、水害の恐ろしさを感じる部分はありますか?

もちろん恐ろしいし、2年前は亡くなった方もいらっしゃいますし、ボランティアをしながら見ていましたけど、よくいうと、すごく水害慣れしているというか。あんなにいっぱい降らなくても水に浸かるところがあったりして。でもすごく結束が強くて、自分たちで炊き出しをやったり助け合ってやっているので、復旧早っ!みたいな。でも“いつも浸かるなら引っ越せばいいやん”とも思って。私だったら引っ越すのに、きれいにしてカビを拭いて畳を干して消毒して、また水に浸かって。でも引っ越さないんですよね。よっぽどそこに愛着があるというか、代々受け継いでおられた土地だというのはわかるんですけど。でも皆さん意外と明るいんですよね。結構前向き、ポジティブなんですよ。そうじゃない方は引っ越されたり、移転されたりするんだと思うんですけど、前向きに復旧されている方々の明るさに救われるというか。



縁あって移り住んだ武雄市で、地域を盛り上げる「千年夜市」を企て、いまは被災した住民にお弁当を届ける「おせっかい配食」などのボランティアに汗を流している永田裕美子さん。

じつは取材のあと、万里恵さんと番組スタッフは、「おせっかい配食」の住民意向調査のボランティアに参加し、被災地域の住民の生の声を聞きました。代々守り続けた家や、建てたばかりの家が浸水したり、まだライフラインが復旧していなかったり。これはまだまだ復旧・復興に時間もお金もかかるのだろうということを感じました。


支援については、「ふるさと納税」を通じた支援という方法があります。1口2000円から/クレジットカードのみの受け付け/返礼品無し。「ふるさとチョイス」「ふるなび」などのサイトに窓口があります。

また永田さんたちが立ち上げた非営利団体「おせっかい配食」でも、「お弁当代」の寄付を募っています。食事に困る世帯や、コロナ禍の影響で疲弊する飲食店の支援にもつながる「おせっかい配食」。今のところPayPayでのみ受け付けていますが、こちらのQRコードで支援を募っています。



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来週の「Hand in Hand」では、武雄市と同じく8月豪雨で被害を受けた、福岡県久留米市のパクチー農家をレポートします。来週もぜひ聴いてください。

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