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22.02.17
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名取市閖上 波の音が聴こえる酒蔵 佐々木酒造店


今週の舞台は、宮城県名取市の閖上。仙台の南に位置し、名取川の河口にある港町で、30年以上続く週末の「ゆりあげ港朝市」でも知られる町です。

2019年には名取川河口に新たに作られた堤防に「かわまちてらす閖上」という、様々なお店やフードコートも備えた商業施設がオープン、また災害公営住宅や学校、公民館なども完成し町は賑わいを取り戻しつつあります。

そんな閖上で、長年地元の方に親しまれてきた造り酒屋が、「宝船 浪の音」の屋号を持つ佐々木酒造店です。今年でなんと創業151年! 東日本大震災の津波で甚大な被害を受けましたが、8年という年月を経て、2019年10月に創業の地での酒造りを再開しました。


「ブクブクしていますが、これが発酵です。いままさにお酒になっているところです。地元名取のお米で作った純米酒のタンクですね。」

閖上の老舗酒蔵「佐々木酒造店」の酒蔵の中をご案内いただいたのは、5代目 佐々木洋さん。まずは閖上の歴史から伺いました。

「閖上という町は実はとても古い歴史があって、古くは西暦700〜800年くらいから文献に名前が出てくると言われております。漁村集落として栄えた町なんですけど、江戸時代には伊達藩の御用港として非常に賑わいのあった町だと言われています。なりわいとしては東側では漁業が盛んで、西側では農業も盛んだったことから、半農半漁町民文化があったと言われていました。獲れる魚種も非常に豊富で、昔だとヒラメやカレイ、カニ、また赤貝という高級な寿司ネタが獲れたり非常に食材豊富な町でございました。」


―――佐々木酒造の創業は?

「1871年、明治4年ですね。初代佐々木新助が、賑わいがあった町だから食材も豊富でたくさんの人が集まって仕事をしていましたし、船が出ればお酒を出す機会も増えるということで地元の文化に寄り添う形で造り酒屋が起こったんじゃないかと、私5代目は推察します。震災前はお祝い事や船が出る時、帰ってくるときに佐々木商店の酒「浪の音」を飲んで仕事の疲れを癒したり、お祝いの席やお弔いの席でこの酒を使っていただいていたと聞いております。」

―――そうやって当たり前に地元の方々に飲まれていた中で、あの震災があったんですね。

「震災の時私は、津波を見てから走って自分の酒蔵の屋上に逃げたんですけど、凄惨な状況にありながらも、20年かかるかもしれないけれど何とか自分たちの町、自分たちの文化、私のなりわいであるところの酒造りをこの町にもう一度再建してやろうという思いになりました。」

―――ご兄弟でやってらっしゃいますが、弟さんはどうでしたか?

「うちの弟とは3月11日の夜に1回だけ電話が繋がって、「ちょっと俺、生きられるかわからない。あとは何かあったら任せた」という連絡をしたんですが、何とか生き延びて翌日には会うことができて。自分は「佐々木商店を再建しようと思っている」と話をしたら、弟は間髪入れずに「兄貴がやるんだったらやろう」と。そこから酒屋を辞めるという選択肢はなくて。酒蔵の再建は、ゴールが先に見えたんですよ。自分たちの作った酒を飲んでくれる町の人たちがいて、お店があるというイメージが先にあって。そんな状況にするためにはどうしたらいいのかという迷路を、逆からたどるような感じですね。その中で、たまたま津波が来ても垂直に浮かんで、垂直に着地した酒が入ったタンクがあって、それを震災復興酒として発売するところからスタートしました。それが、佐々木酒造店は酒造りをあきらめないで必ずもう一度創業の地で復興するんだ、というメッセージでしたね。」

―――復興の道のりで困難だったことは?

「お水は名取川の伏流水を使っているんですけど、震災後に仮設蔵を立ち上げてさぁお酒を作るぞという時に、一度水の分析データを出してみたら、地震の影響で水質が変わっていたんですね。仮設の蔵を作っていざ酒を作るぞという時に水がないとなって非常に焦ったんですけど、名取市はせりの一大産地として有名で、せりは非常に水がきれいじゃないと育たない。水量も豊富じゃないとなかなか上手に育てられないということから、せりのお水はどうなんだろうと考えて、その水を分析してみたらやっぱりすごいきれいな良い水だったんですね。私の父が当時のせり農家組合長さんに話をして、酒造りのためにお水を分けていただくことになりまして、仮設蔵での酒造りが始まったんですね。いまもそのお水を使わせていただいて酒造りやっています。」

―――そういう意味では震災後は新しいお酒に生まれ変わったんですね

「そこがすごい大事なんですけど、お酒の鑑定の先生たちからは、「佐々木商店のお酒は被災前より被災した仮設蔵の方がおいしいな」と言われて複雑でしたね。(笑) 先生方は嘘を言わないし、真実をお話しいただいたと思って、「おいしくなったな」としみじみと言って頂いたのは嬉しかったですね。」

こうして佐々木酒造店は震災から8年半。2019年10月1日、地元のお米と地元の水を使った酒造りで閖上に戻ってきました。蔵開きではたくさんの人々に復活をお祝いされたと言います。

「お酒の銘柄が『宝船 浪の音』というので、波の音が聞こえるところで酒造りをして飲んでもらわないと、うちの蔵の物語や閖上の物語は遠く語り継がれないと思ったんですね。何とかやっぱり海のそばで酒を作りたいというのはずっと思っていましたね。」

―――地元の方は何かおっしゃっていましたか?

「皆さんに喜んでいただきました。やっと帰ってきたかと。波の音がもう飲めなくなるのがすごく心配だったという話を、同じ名取でも閖上以外の方々からもお話をいただいて、「やっぱり地元に酒蔵があることが私たちにとってひとつの誇りでもあるし、ご当地ものを発信するひとつの素晴らしいものだったんだ」という話をよくしていただいて、閖上だけじゃなくて名取の地酒なんだなと意識するようになりましたね。」

佐々木酒造店では代々、日本酒についてこんな哲学を持っています。それが・・・「地酒とは、地域の文化を液体化したものである」。これは、46歳の5代目・洋さんにも受け継がれています。


「宝船 浪の音」の純米吟醸『玲瓏』。宮城県産トヨニシキを使ったお酒。非常にフルーティーで切れのある食に合わせるお酒で、宮城県で有名な牛タンや蔵王クリームチーズ、トマトを使った酸味のある料理、洋風のプレートにも合わせられるお酒となっています。

「このお酒があの瓦礫の状況、あの歴史を経て復活してこの味になりました。この新しい酒蔵でも美味しいお酒を醸すことができるというのは非常に大きな成果だったと思います。」

お話にあった、名取のせりを使ったせり鍋と一緒にこのお酒が飲めたら最高です! ぜひ地元の旬の食材と合わせて現地でじっくり味わいたい、そんな佐々木酒造店「宝船 波の音」でした。


佐々木酒造店 公式サイト

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次回の「Hand in Hand」は、仙台のご当地グルメとして「せり鍋」という新しい食文化を広めた立役者、名取市のせり農家・三浦隆弘さんのインタビューお送りします。

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