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22.05.12
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阿蘇タカナードと阿蘇ひつじ 誕生物語


今回は“ひつじで阿蘇の草原を守ろう”と取り組む、「阿蘇さとう農園」のレポートです。

阿蘇といえば、人の手で作られた草原、そして、あか牛をはじめとした牧畜が有名ですが、この阿蘇の素晴らしい風景と暮らしが「ずっと続きますように・・・。」と挑戦を続けるのが、阿蘇さとう農園です。その1つが、阿蘇の伝統野菜「阿蘇高菜」を使ったマスタード、その名も「阿蘇タカナード」。そしてもう1つが、阿蘇のシンボルでもある“草原”を守るためにはじめた、「阿蘇ひつじ」を使った取り組みです。

今回は、阿蘇が大好きで、これまで農業に関わってこなかった人たちも巻き込んで様々なアイデアで挑戦を続ける30代女性、「阿蘇さとう農園」の佐藤智香さんにお話を伺いました。


―――阿蘇のカルデラの北側、阿蘇さとう農園にお邪魔しています。阿蘇五岳、畑も見えて阿蘇ならではの景色!そして佐藤さんがおつくりになっている阿蘇タカナード、我が家は切らしたことがなくて。

「ありがと〜ございます!切らしたことがないなんて初めて伺って、とても嬉しく思います。」

―――阿蘇さとう農園は2014年にオープン。佐藤さんはその前はクルマのデザイナーを?

「デザイン部なんですがデザイナーさんが描いた絵を粘土で立体化するモデラーという仕事をしていました。大阪の会社にいました。」

―――それがなぜUターンされて阿蘇に戻ってきたんですか?

「もともと祖父祖母が農家でしたが、きっかけになったのは東北の東日本大震災と、翌年阿蘇地域も被害を受けた豪雨災害と、立て続けに日本が災害にあったのを受けて、帰って力になれないかと勝手に考えてUターンしました。
最初は私もいろんな野菜を作ってみて、いま8年目で阿蘇高菜と草原を使った牧羊が大きな柱になっていくかなとわかってきたところです。」



―――高菜はお漬物のイメージですが、「タカナード」ではなぜ葉っぱではなく種を使おうと?

「新規就農1年目に高菜も作付けをしていて、自分で漬物に加工して販売したんですよ。収穫も漬物も作って販売してみて、葉っぱの収穫期がとても短くてその瞬間に取らないといけないことに気づいたんです。それからお漬物を販売すると、だんだん食卓から減っていて、地元で安く販売されていることを知って、これはちょっと農家としては採算が難しいと気づきました。なので私が着目したのがタネなら収穫時期が長いんですよね。手摘みじゃなくて機械でも収穫できることも見込んでいたので、タネを食用に使えれば阿蘇高菜はもっとたくさん栽培して後世に残せるという期待をマスタードを作り始めました。」

―――でもどうしてタネをマスタードにしようと思ったんですか?

「たまたま夕飯時にテレビを見ていたらマスタードづくりの番組があったんです。マスタードは原料が菜種とお酢と塩だとわかって。だったら高菜も同じ部類じゃないかと思って、隣で食事していたばあちゃんに聞いたら「昔、ばあちゃんのばあちゃんが、からしがないときに高菜のタネばすりつぶしよった」という話を受けて、高菜も辛味をもっているのでその特性に気づいて、これこれこの味!と嬉しかったのは覚えています。

それでマスタードを作るようになって周りの農家からもタネを買い取るようになりました。まわりの農家さんも葉っぱの収穫だけでは時期が限られるので、それが終わったらすき込んでしまう状況だったので、どうにか畑の高菜を作る面積を減らさないでほしいということで買取を初めて、いまはたくさん集まるようになっています。」

―――農家さんにとってもありがたいし、良い循環になりますよね

「私もそういう助けになればと思っていました。どうにか今作っている方で時期をずらしていろんな形で収入にもなることもしてみたいと思っています。」

阿蘇の営みを千年先へ、と2014年にスタートした「阿蘇さとう農園」。そんな中、阿蘇タカナードの商品化が実現したきっかけは、6年前の熊本地震でした。熊本地震を受けて、復興のために特産品を作って阿蘇の地域を盛り上げたい!と商品化を急ピッチですすめたそうです。

(Photo by 阿蘇さとう農園)
阿蘇さとう農園が今力を入れて取り組んでいるのが、「阿蘇ひつじ」の放牧です。

「私が新規就農して阿蘇高菜に関わることで地域の課題ってたくさんあるんだなと逆に気づかされたんですね。阿蘇高菜は高齢の農家さんしか作っていなくて、次の世代にどうにか受け継いでいかなきゃいけないということが分かりましたし、次に草原の部分は毎年住民総出で野焼きを行って人為的に維持している、それが1000年続いてきたという背景があって。草を食べる動物を放牧して少しでも野焼きの労力を軽減できないかなと思って、さとう農園は2年前に羊を導入しました。もともと地元にあった大学で阿蘇の草原を維持するのに羊と牛と一緒にやっていくのが良いんじゃないかという研究がされていたんですけど、なかなか実際に取り組む農家さんがいなくて、いま私たちと6軒くらいのグループを組んで阿蘇で羊を放牧して草原を維持していこうと取り組み始めました。」

―――なぜ羊も一緒だと良いんですか?

「牛と羊とでは好む草が違うらしいんですよ。羊も同じ牛の仲間なので体の構造は似ているんですけど、好む草が違ったり行動もちょっと違ったりするので、うちでは羊を飼い始めていて、近くのNPOさんで赤牛を飼育してらっしゃるところがあるんですが、それを預かって羊と赤牛を一緒に混牧という形で多様性の中で共同生活をしてもらっているんです。本当に仲良くお互い助け合って暮らしている姿が本当に仲睦まじくて、それでやっぱり羊と牛、人間も含めて一緒に暮らすことで草原を維持できるんじゃないかなと、すごくワクワクしています。」




阿蘇さとう農園のひつじたち、この春は出産ラッシュで12頭のひつじが生まれたそうです。


「うちで飼っていた羊毛でフェルトを作ってみました。毛刈りは全部の羊が1年に1度必ずやっています。意味合いとしては、羊は人間と一緒に暮らしてきたからこそ毛が発達したと聞いていて、やっぱり人間が毛刈りをしてあげることで羊は体を維持できていると学んでいます。なので、羊を飼うという事はやっぱり人間がちゃんとケアをしてあげて暮らしていく必要があると思っています。」

―――佐藤さんが思い描く、この先のさとう農園の未来は?



さとう農園が育てたひつじのお肉を、タカナードや高菜漬けを添えていただきました〜!これ涙が出るくらい最高に美味しかったです!

ちなみにお肉については、南阿蘇の地獄温泉「青風荘」をはじめ、すでに県内のフレンチレストランなどでコース料理として提供されています。

さいごに、阿蘇さとう農園のこれからの夢を伺いました。

「阿蘇地域をずっと維持していくための兼業農家さんや、農家じゃない人が農業に関われるようないろんなモデルを作れたら良いなと思っています。草原にはたくさん牛や羊が放牧されている姿が理想ですし、畑も耕作放棄地にならないくらいみんなが農業を盛んにやっていろんなものを作っている状況が理想なので、そこに対してできることをやっていきたいなと思っています。阿蘇地域に関しては年に1度の野焼きがあったり地域の人が担っている部分がすごく大きくて、地域の景観を維持することに住民の方が多くが関わる必要があるので、そこにただボランティアだけじゃなくてやっぱり収益を生むような活動をしつつ、地域を維持できて景観を維持できる仕組みが必要だなと考えて行動に移しています。」

阿蘇さとう農園 公式サイト

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