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22.06.23
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ハリウッドが選んだカメラレンズメーカー『シグマ』の会津工場を訪ねて


今回のテーマは、「ハリウッドが選んだカメラレンズメーカー『シグマ』の会津工場を訪ねて」。福島県磐梯町に生産拠点を持つカメラレンズメーカー「シグマ」の代表、山木和人さんにお話を伺いました。

現在公開中のトム・クルーズ主演映画『トップガン マーヴェリック』は、実写撮影にこだわってCGをほぼ使わず、撮影に1年以上をかけたという迫力あるその映像が話題となっていますが、じつはこの撮影で使われたのがシグマ社製のシネレンズでした。

創業60年を超える「シグマ」ですが、シネレンズの参入は実は2016年。カメラのレンズと映画などで使われるシネレンズはノウハウも価格もまったく違うもの。このジャンルでの歴史の浅い「シグマ」のシネレンズがハリウッド大作の撮影に選ばれたのは大きなサプライズだったとも言えます。このサプライズを呼び込んだのはひとえに「シグマ」の技術力によるものですが、その根幹にあるのは、他メーカーが製品を海外生産に移行するなか、一貫して福島県磐梯町で製品を生産してきた“ものづくりへのこだわり”です。

そんな福島県が世界に誇る「シグマ」の歩み、“ものづくりへのこだわり”と、その背景にある“会津人気質”とは。

【今回のダイジェスト動画はこちら】
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「シグマ」の会津工場を訪ねて。
シグマ社の創業は1961年。東京に「有限会社シグマ研究所」を創立したのが始まり。光学機器製造メーカーとして頭角を現し、国内トップクラスのレンズメーカーに成長。現在はデジタル一眼カメラ用のレンズを主力に、デジタルカメラ本体の開発・製造も手掛けています。

本社は神奈川県川崎市ですが、唯一の生産拠点が磐梯町の「シグマ会津工場」。起業当時は東京に製造工場を構えていましたが、縁あってシグマ創業者である山木さんの父がリクルートのために磐梯町を訪ねたとき、町の方たちの熱意や勤勉実直な会津地方の方たちの気質にふれ、リクルートではなく“工場設立”を決めたといいます。そして1973年に操業を開始。現在は製品に関わるほぼすべての製造、加工、組み立てを、この会津工場と、東北を中心としたサプライチェーンにより構成、国内一貫生産体制をとっているという事です。

新型コロナウイルスの影響でいま世界中の企業でサプライチェーンの見直しが進んでいますが、海外から安い部品を調達したり海外に工場を作って生産する方式が、長く製造業のトレンドになっています。ところが「シグマ」はそうしたトレンドには目もくれず、国内の自社工場での生産、さらに材料や部品の調達も国内という“国内一貫生産”にこだわってきました。

その“ものづくりへのこだわり”、「シグマ」2代目代表、山木和人さんに伺いました。

◆◆

山木)ほとんどの大手の会社さんは、工場をまず「オフショアリング」と言って海外に出して、そして調達のネットワークを世界中に広げてグローバルネットワークを作って、一番安いパーツをいろんな国から調達する、というのが主流になっていますけれども、当社はこの会津でものづくりをして、サプライヤーさんもこの地域にあるということです。その一番のポイントはやはり、ものづくり、そして品質に対するこだわりというところなんです。現代的なモノっていうのは、ほとんどのモノがだんだん半導体に集約されていて、スマートフォンでもテレビでも、基板とパネルさえあればモノができてしまうというのが主流なんですけれども、当社が作っている映像用のレンズというのは、いまだに大体一本のレンズに15枚〜20枚くらいのガラスがあって、これを本当に精度良く磨いて光軸すべてをきちっと合わせ、メカパーツも精度良く加工して精度良く組み立てないと、映像の解像度が高くなかったり歪んだりするんですね。なのでその一つ一つのパーツを精度良く作る、精度良く組みあげるという技術には、やはり国内で生産するのが一番だと。まあものづくりをする上で色んな考え方があると思うんですけれども、当社としてはいたずらに規模を追うのではなく、とにかく世界最高の品質を追求する、その意味ではやはり国内で生産をし、福島県を中心に、昔から東北地方に20年、30年、中には40年くらいお付き合いのある協力企業さんがいるんですけれども、そういった信頼関係のもとで最高の品質を目指すというのがもっともいい道だと思っています。

高橋)今おっしゃっていた、最高品質を目指すというところでは、会津人気質?という関係もあるのかな?というのは山木さんご自身も感じていらっしゃいますか?

山木)大変感じますね。やはり自然が厳しいところですので、これは想像ですが、昔からやはり季節のいい時にきちっと作物を耕して、それを貯蔵して冬に備える。今でも雪が降ると地元の方は朝早く起きて雪かきをして、お隣のところまできちっと雪かきをして会社に出るということで、自然と規律正しい生活が身についていると思うんです。例えば品質の追求にはやはり日頃の生活とか、あるいは伝統的な規律ある生活というのが非常に影響しているんだなと思います。

高橋)じゃあその「シグマ」の最高品質のレンズには、会津人の気質というのがすごく大事な要素になってきている感じがしますね。お話を伺っていますと。

山木)間違いなくあると思います。

高橋)福島県というと、やはり忘れてはいけないのは「東日本大震災」。福島県第一原発の事故があって、国内もそうですし、特に海外からは「福島」という言葉に対してのネガティブなイメージが拡がってしまったところがどうしてもあって私も悔しかったです。会津は浜通りと距離があるので事故の影響を受けることはほとんどなかったと思うんですが、やっぱり風評だったり、何かほかの影響はシグマさんにはありましたか?

山木)当社が作っているのは工業製品ですので、農産物や海産物ほどの影響は受けませんでしたが、やはり多少の影響はありました。ヨーロッパのある取引先から“放射能が大丈夫なのか?”とか、“ちゃんと検査して問題ないという結果=エビデンスを出せ”と言われたこともありますし、あと当社の場合、精密な加工をするには、測定が重要なんですね。国内の有名メーカーの測定器も入れていますが、世界中、とくにヨーロッパの非常に高精度のものも入れています。原発事故の前は、頼まなくてもその技術者が正しく測定できるかチェックをしに来てくれていたんですが、事故のあと頼んでも来てくれなくなったとか、そういった影響はありまして、私も大変悔しく思いましたけど、まぁ遠く離れたところに住んでる方にとっては実態はよくわからないのは仕方ないのかなと思うしかありませんでした。

高橋)それはやっぱり時間の経過と共に改善していった感じでしょうか?

山木)そうですね。ここで元気に従業員が働いて、いいものを作っているということで証明してきたんだと思っています。2011年に地震がありましたけど、ドイツのケルンで、映像、写真関連の最大の展示会“フォトキナ”というショーがあって、これは2年に1回行なわれるもので、震災の後は2012年の開催だったんです。そこで私たちは新製品の発表と、当社のこれからの動きということで、主にヨーロッパ、アメリカ、アジアのジャーナリスト、大体250人くらいご招待してパーティーを開いて、私がそのプレゼンテーションをしたんですけれども、そこで会津工場の様子をビデオで流したんですね。働く人がどういう風に働いているのか、“私たち、こういう風にものづくりをしていますよ”と流したところ、非常にみなさん食い入るように見入って、中には目に涙を浮かべるような方もいて、ちょうどまだ震災で厳しい時で、世界中が「日本がんばれ」「日本大丈夫なのか?」という雰囲気だった時で、ビデオが終わったときに万雷の拍手、ステージを降りたあとも色んな人が寄ってきてくれて、“良かった、よかった”、“工場の人、頑張っているんだね”と。中にはインドのジャーナリストが、「私は工場で働いていたことがあって、その後、ジャーナリストになった。あの人たちの気持ちは私と一緒です」と、涙を浮かべながら言って頂いて。いろんな風評とかもあるけど、自信をもって、誇りを持ってものづくりを行えば、世界の人たちには通じるんだなと、その時思いましたね。








(「シグマ」会津工場にて)
会津地方の空間線量は現在、震災前と変わらない値。国が目指す目標値(毎時0.23μSv/年間追加被ばく線量推計値1mSv)を超える地区は確認されていません。

風評被害をたゆみない真摯なものづくりで乗り越えた「シグマ」。そんな「シグマ」のシネレンズが、現在公開中の映画『トップガン マーヴェリック』の撮影に使われたという事で、カメラの愛好家だけでなく多くの人に「シグマ」が注目されることになりましたが、その「シグマ」のシネレンズ参入は2016年。この分野では歴史の浅い「シグマ」に、どういう経緯で白羽の矢が立ったのか?その経緯についても伺いました。

◆◆

山木)これは私も大変驚いたんですけれども、『トップガン マーヴェリック』の撮影チームが編成されて、撮影に必要な機材をどうするか?ということが検討され、その中で、シーンによって求められるものが違いますが、今回のトップガンについては、非常に画質を重視する、質感の表現や、あるいは解像度の高い映像とかいう点で色んなメーカーさんの機材をテストして、その中で当社のレンズが一番いいとご判断頂いたようで、選ばれたという風に聞いています。

高橋)山木さんはその話が舞い込んできたとき、どう思われました?

山木)まず当然うれしかったですね。映画産業というのは撮影機材に対しては非常に保守的なところで、よく使われる機材というのは何十年とか100年くらい機材を作っている欧州のメーカーが強いんですね。当社も2016年に参入しましたけど、私としては20年〜30年くらいかけて地位を築いていければいいと、私が生きている間にどうなるか分からないけども次の世代で評価されればいいかなと思って始めたんですけど、こんなにも早く評価をいただいたのは嬉しかったです。一方で品質については自信がありました。当社もいろんなレンズを見ていますけれども、解像度や描写力については絶対に負けないという気持ちがあったので、逆によく見ていただいたなと。撮影スタッフの方には、本当に私たちがこだわって努力している部分をきちっと見て頂けたんだなと思いましたね。

高橋)もちろん会社としても大変喜ばしいことだったと思いますが、それこそ働いている工場の方々も喜ばれたんじゃないですか?

山木)もちろん当社の工場は非常に高い技術力を持った人たち、現代版の職人といってもいいような人たちばかりなんですけれども、とはいえ毎日ずっとレンズを磨いたりする中で、その商品がどういう製品になって、どんな風に使われているか、完全に知っているわけではないんですね。自分の作っていたレンズがどういう風に使われるかというのは皆が知っている訳ではない。そういった意味では『トップガン マーヴェリック』は非常に有名な映画で、自分が作ったパーツが入っているレンズが使われるというのは非常に大きな誇りであり、喜びであると思っていますので、そういった意味では非常にうれしかったですね。

高橋)実際に撮影された映像は見られたりしました?

山木)トレーラーはいくつかのバージョンがあって、けっこう色んなシーンを見ているんですが、“この場面は当社のレンズを使われたんだなぁ”と思うと非常に感慨深いものがあります。やはり非常に誇らしいことだなと思いました。※(インタビューした時はまだ公開前でした)

高橋)“メイドインジャパン”もそうですが、“メイドイン福島”というものへの思いはいかがですか?もっと海外の方に知って欲しいとか、それこそ福島の方にも“誇り”を持って欲しいとか思われますか?

山木)そうですね。日本にもいろんな地域があってそれぞれに魅力があると思いますけど、福島の方たちは地道に勤勉にいろんなことに取り組む。まぁ会津の方は頑固とも言われますけど、それだけ一つのことにこだわって何かを成し遂げようという気質があるように思います。これはたぶん伝統的なもの、文化的なものも大きく影響していると思いますが、だからこそ素晴らしいものができる。工業製品だけじゃなくて農産物や工芸品とかも本当に素晴らしいものがあるので、当社の製品をきっかけに・・・当社はメイドイン会津、メイドイン福島とことあるたびに言っていますが・・・そういうことを通して、世界中の方が知ってもらえると嬉しいなと思います。

高橋)今後もこの磐梯町でものづくりは続いていくと思いますので、代表としての決意、伺ってもいいですか?

山木)磐梯町で50年近くやってきていますが、当社の技術力も、この工場と人にありますので、この工場をさらに発展させていきたい。雇用を維持するという社会的責任もあると思いますので、まずはそれを守ると。ただそれだけではなくて、少なくともこの会津工場は映像用のレンズ工場としては世界的な技術を持った工場の一つであるのは間違いないと思うんです。それを圧倒的なレベルの工場にして、できれば世界中の人が羨望のまなざしで見るような、光学技術の中心地になるようなところになるまで、技術力を上げていきたいなという風に思います。


「ハリウッドが選んだカメラレンズメーカー『シグマ』の会津工場を訪ねて」。「シグマ」代表、山木和人さんのインタビューでした。

確かな技術力を持った“現代の職人たち”の手作業によって作られるシグマ社の製品たち。その品質を証明する一端が『トップガン マーヴェリック』でのシネレンズ採用です。映画はもちろん、これを機に「シグマ」の製品も是非チェックしてください。

トップガン マーヴェリック

SIGMA

【今回のダイジェスト動画はこちら】
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「シグマ」の会津工場を訪ねて。

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