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22.09.17
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令和4年8月豪雨、過去の教訓を生かした町


今回のテーマは、「令和4年8月豪雨、過去の教訓を生かした町」。山形県大江町、最上川沿いに位置する左沢の百目木地区を訪ねました。

東北や北陸を中心に大きな被害をもたらした8月3日からの大雨では、この最上川をはじめ各地で河川が氾濫。住宅被害は全国で約5000棟以上。農地、鉄道や道路などのインフラも大きな被害を受け、政府は自治体を限定せず「激甚災害」に指定しました。

今も各地で復旧復興へ向けた作業が続いていますが、一昨年7月にも豪雨で最上川が氾濫、住宅の浸水など被害が出たのがこの百目木地区です。ただし一昨年も今回も、この地区に人的な被害はありませんでした。そんな百目木地区の“地域で地域を守る取り組み”とは。

(最上川と左沢線の間に広がる左沢の町並み)
百目木地区には地域のランドマークとして親しまれる温泉、「あてらざわ温泉湯元旅館」があります。単純硫化水素泉の“つるつる美肌の湯”をもとめて、全国からファンがやってくるほど。“窓を開ければ最上川”という風景が自慢の一つでもありますが、百目木地区は最上川がヘアピンカーブのようにグッと蛇行している場所。眺めは最高ですが、その水害リスクの高い場所。じっさい一昨年も一階が冠水して、地下のボイラーが壊れ休業。この時は約3か月で再開しましたが、宿は今回もまた冠水して、2年足らずの間に再び休業となってしまいました。

「あてらざわ温泉湯元旅館」、女将の柏倉京子さんのお話しです。

◆◆

温泉が出来たのは昭和53年。硫黄も若干あって単純硫化水素泉といって、肌にツルツルっていう感じのやわらかいお風呂なんですけども、四方、月山も見える朝日連峰も見える、そばには最上川が流れてる、っていうのがここなんですけども、ただネックといえばやはり“水害”なんですよね、ここは。

8月3日はここはあまり雨降らなかったんですよ。だから“今回はあの2年前のような水害はならないよね”って楽観的な感じではいたんです。でもだんだんと心配な気持ちが湧いてきて、そして夜8時ごろ、区長さんはじめ“避難してください”っていう指示が出たんですけども、でもその時は“まだ大丈夫でしょう”なんて言って、まだそんなにざわざわっていう感じはなかったんだけども、10時過ぎにもう一回、“避難してください”と指示があったので、いちばん遅いくらいだったんですけど、町の「ふれあい会館」ってとこに避難しました。でもずっと眠れないし、“ちょっと歩いてそっちの方まで行ってみようかね”って言って、夜中の2時頃だったのかな、そこの前田川っていう小さい川があるんですけども、そこが内水氾濫から最上川の逆流からでいちばん溢れるんですよ。で行ってみたらやはり案の定、道が見えなくなるぐらいまで水が来てたので、地下にあるボイラー室が冠水してるのは確認しましたけどね。“やっぱりダメだったんだ”ってがっかりしましたね。まさかこの2年のうちにまた同じような被害になるとはちょっと予想してなかったので、本当にちょっと心が折れましたね。

でもやっぱりボランティアさんの人もいらっしゃって頂いて、もう泥はきからいろいろ炎天下のなか汗を流しながらやって頂いて、そのことを思うとやっぱりちょっと“もう少し続けなきゃいけないな”って、“ここでちょっと私辞めるわけにいかないなー”って、本当に辞めるっていう選択肢もあったんですけど、でもお客様からもやっぱり避難してる時でもメールとかLINE、電話とか、いろいろな励ましのお言葉頂いたり、“あ、こんなにも気遣って心配してくださってるんだな”って思うと、やっぱり続けようっていう気持ちは湧いてきたのは確かでした。本当にありがたかったですね。で、10月の頭を目処にして再開したいなと、今は思っています。




やはり川のそばに暮らしてる方達、心にあるのは水害。水に対して、“逃げないといけない、避難しなきゃいけない”っていうのは、身についてるわけではないけど、そうやって隣同士暮らしてきたので、教訓が生かされてるなと、何でも対応が早かったとすごく感じて、それだけは皆さん心に銘じていると思うんです。だから今回もこの辺の各お宅に区長さんが声かけてずっと回ってきてくださったし、2年前もそうでしたけど、怪我人も無かったし死亡者もなかった。やっぱり皆さん防災に対しての向き合い方も違ってきてるんだなあと感じましたけどね。


度重なってしまった豪雨災害ですが、この地域では河川の氾濫を意識することや、避難行動を積極的にとることが当たり前になっていて、一昨年も今回も人的な被害は無かったということ。

周辺を歩いてみましたが、川沿いには1階が庭や駐車場など抜けた空間、2階から上が居住スペースという作りになった家が多く、最上川の氾濫に対応した構造になっているのが印象的でした。

復旧も早く、すでに地域のボランティアセンターは閉鎖となっていますが、義援金については、町のホームページで「ふるさと納税災害支援寄附」を受付中です。

いま10月再開を目指して復旧作業中の「あてらざわ温泉湯元旅館」。再開になったら是非“つるつる美肌の湯”を訪ねてください。

そんな「あてらざわ温泉湯元旅館」柏倉京子さんのお話にもありましたが、8月3日の夜、町の防災担当者や地区長たちは、一軒一軒に避難を呼びかけて回ったという事。その避難を呼びかけて回ったお一人、百目木地区を含む左沢一区の区長を務める、柏倉正嗣さんのお話です。

◆◆

高橋)私が連れてきてもらったのは最上川沿いの8月に水害があった場所。この場所があの時どんな状況だったのか教えて頂けますか?

柏倉)3日はこの最上川の上流でものすごい雨が降ったんですが、こちらの方はそんなに雨が降らなかったんです。で、夜の11時半頃にそこの遊歩道まで水が来て、町の方から警戒レベル4(避難指示)が発令になったので、旧道沿いの人、あと県道沿いの家20軒ぐらいに伝えて歩きました。呼びかけたあと避難所に行ってたりしたので、そのあといつ浸水したのかとか状況は分からないんですが

高橋)朝方には浸かっていた?

柏倉)そうですね。あそこに青っぽい家がありますよね、あそこがいちばん早く水が上がるところなんですけど、

高橋)まさに最上川がグッと蛇行しているところですよね?

柏倉)はい、そこのところに電柱があって、2年前は地面から2.4m、昭和42年の羽越災害の時は2.8m、今回はだいたい2mぐらいまで行きましたね。2階も床上浸水。

高橋)この場所は皆さん水害に対する意識が高い地域ではある?

柏倉)そうですね。やはり今までも何回か避難してますし、水の怖さを知っていらっしゃいますからね。防災意識といいますか、自分を守る家族を守るという気持ちは非常にあると思いました。

高橋)今見ている限りでは堤防無いじゃないですか。堤防造ろうとか、高台に移転しようという話は出ていないんですか?

柏倉)そういう話し合いを何回か持って、この度、堤防を造ることに住民の方が同意して、2027、8年の完成予定で決まったばかりです。話は前前からあったんですが、2年前の水害があってそして今回。“50年に一回の洪水”のはずが余りにも頻繁に起きるので、堤防を作る以外に洪水を防ぐ方法は無いということになりました。ただ堤防は安心して暮らせるようにはなりますけど、素晴らしい景観のある所から移転しなければならない人も出てくる。この一区から出なきゃいけない人も出てくるだろうし、人がまた少なくなるのは寂しさがありますね。いま現在“100年に一度の大雨に対応した堤防”が規準なんだそうです。“1000年に一度”なんていう堤防は世の中にないということで。でも飯豊では今回“1000年に一度の大雨”が降りましたからね。安心して暮らせるようにはなると思いますけど安全なわけではないので、防災意識が必要なくなるという事ではないと思います。

(この家の2階まで床上浸水したということ)

昭和42年の羽越災害以降、何度も話し合われては、“景観を損なう”という理由で実現しなかった堤防建設の話が、先月の水害を受けて住民も賛同、一気にまとまって、具体化する事になりました。まだその規模や住民の移転についてはこれから詳細が話し合われ、生じる課題に対処していくことになるということ。

3方向から花火が上がる町の名物、今年で100周年を迎えた「水郷大江夏まつり灯ろう流し花火大会」を見る特等席である河川敷、またトンネルを抜けると蛇行する最上川の景色が現れる左沢線の車窓の風景など、ひとたび暴れると手が付けられない最上川ですが、この川こそが地域の自慢であると、区長の柏倉さん、女将の柏倉さんもお話しされていました。

どんな堤防を作るのかはこれから検討が進められますが、地域の誇りである“最上川の景観”を損なわないものであればいいなと思います。

そしてもう一つ、この百目木地区には自慢があって、それは全国的に有名な民謡、「最上川舟唄」誕生の地ということ。じっさいに“発祥の地”の石碑も建っていましたが、区長へのインタビューの最後に万里恵さんが無茶ぶりをして、“よーいさのまかしょ〜♪”と唄いかけると、区長も即座に、“えーんやこらまかせ〜♪”と唄い返してくれました。(区長、録音まわしてないとか嘘ついてごめんなさいw)


また区長に“左沢の自慢は?”と聞いたところ、“日本一公園”と呼ばれる「左沢楯山城史跡公園」から見る最上川を一望する眺望と答えてくれました。お話を伺ったあとに行ってみましたが・・・




壮大な自然の造形美というか見事な蛇行っぷりに驚かされました。ご覧の通りまだ茶色く濁りが残っていた最上川ですが、ふだんはきれいな青い水面で、どっちが下流か分からないくらい流れも静かなのだそうです。そうした風景はもちろん、のどかな左沢線の車窓の風景、そして10月に再開する「あてらざわ温泉湯元旅館」の美肌の湯をもとめて、ぜひ秋の行楽には左沢を訪ねて頂けたらと思います。

余談ですが近くの寒河江あたりでは“冷たい肉そば”が有名なのだそうです。出汁の聞いた鶏そばです。こちらもおすすめです♪

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