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23.01.14
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災害列島の作法に学ぶ 復興まちづくり



先週に引き続き、公益財団法人リバーフロント研究所の土屋信行さんに「災害列島の作法に学ぶ 復興まちづくり」について伺います。

土屋さんはもともと東京都の職員で、ゼロメートル地帯の町を水害に強い町に作り直すプロジェクトなどに関わってきた、災害に強いまちづくりのプロフェッショナル。その土屋さんが10年に渡り復興アドバイザー役を務めたのが宮城県女川町です。

―――女川では復興まちづくり以外でも、先人たちの叡智が次世代の命を救った事例があったそうですが。

「女川町の女川原発建設時に説明会が地元で行われた時、お年寄りから『なんでその山を削って原発をつくるんだ。その山は千年も前から何度も洪水が起きた時地域の人たちが逃げていた高台だぞ。何度も洪水があってもその山は崩れることがなかった。そんな安全な山をわざわざ崩して原発を低い場所に作るなんてとんでもない』と何人ものお年寄りが説明会でご発言してくださったそうです。それを聞いた東北電力の人たちは否定するのではなくよく調べたら、歴史的にも本当に安全な場所だったことから、設計を変えて高台に女川原発を作ったんです。実際には冷却水を海から汲み上げないといけないから少し維持管理費は高くなりますが、でもそれが安全をもたらすんだという古い言い伝えをお年寄りたちから聞いたことで、それを受け入れて原発が作られたおかげで、東日本大震災のとき女川原発は見事に耐えてメルトダウンには至らなかったんです。」

―――ということは、もしその時にお年寄りの方たちがその発言をせずに、東北電力の当初の計画通りに原発を作っていたら、津波をだいぶかぶっていたという位置だった?

「そうです。実際には14.8メートルのところに女川原発は作られていて、その高さまで津波はきていますから、もしもっと低い位置だったら完全に福島原発と同じような状況になっていたと思います。」

―――古くからの先人たちの知恵が伝えられるというのは後世の人たちの命を守るのにすごく大事だということを証明したような事例ですね。

「古い言い伝えには無視できない大切な知恵が詰まっています。地名には危ない場所を言い伝えるものもたくさんありますよね。蛇土手とか蛇崩とか、梅田なんかも今は花の“梅”の字を使っていますが昔は田んぼを埋めた「埋田」という字が使われていたんです。ここは危ない場所だよということを示しているんです。こうした地名は変えるのではなく言い伝えの一つとして残して欲しいと思います。」

防潮堤はレベル1、住まいはレベル2
―――まもなく震災から12年経ちますが、昨年、岩手・宮城・福島の3県が公表した「最大級の津波が発生した場合の浸水想定」に驚かれた方も多くいらっしゃると思います。その発表によると、災害公営住宅や避難所の多くが浸水にさらされる恐れがあると。これはどういうことなんでしょうか?

「東北の復興については1つの基準が復興庁から示されました。短い年数、100年〜200年に一度繰り返し起こる津波を「レベル1」という高さで考えましょう。それから今回の東日本大震災のように千年に1回起こる大地震による津波の高さを「レベル2」と分けて町づくりをすることになりました。防潮堤に関しては「レベル1」の津波を防ぐ高さにしましょうということで、今回の東日本大震災の津波より低い高さに作られています。で今回被災3県が示した最大級の津波の浸水想定はレベル2の津波の高さなんです。そうなるとそもそもレベル1でつくられている町がほとんどですから、沈む場所も出てきてしまう。だから今回の見直しの計算で急に沈む場所が出てきたわけではなくて、復興のときから一定程度沈んでしまうということを織り込んで復興のまちが作られています。女川も商業施設はレベル1のゾーン、住む場所はレベル2の高台にしましょうと分けているんですね。
だから大事なのは、「今までの想定を超えてしまう」ということを忘れてはならない、ということなんですね。この町は、こういう想定でつくられたということを知っていただいた上で、それを超える津波も来るかもしれない、その時はどこへ逃げようかというふうに「知って恐れて備える」そして「最後には逃げる」ということを視野に入れておけば、安心して楽しい暮らしが出来る。東北はいつもそれを忘れてはならないと思います。」

高台避難の教訓を伝える「津波伝承復幸男」(女川町)
―――この「忘れない」ってこと、どんどん時が経ったときにどうやって忘れないようにしたらいいか、これも大きな課題ですよね。

「そういう意味で女川は、250メートル走ると必ず高台に行けるように道路設計ができています。それを普段から忘れないために女川町は坂道を駆け登る『復幸男』というお祭りにして、毎年コースも変えて『逃げる』祭りを続けています。それから海岸線に隠しこんだといわれる防潮堤の一か所は、防潮堤が見えるように裸のコンクリートを見せているんです。そうやって危ない場所に暮らしながら安全という安心をどうやってつくっていくか。まさにそれが東北の震災の経験であって、それが次の世代に伝える作法だなと思います。」

防潮堤を隠し込んだ国道
今回のお話、さらに詳しく知りたい方は、土屋さんが書かれた新刊『災害列島の作法』でご覧いただけます。

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