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23.09.01
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8.15鳥取豪雨で被災した佐治町を訪ねて


9月1日は「防災の日」。今年は関東大震災から100年を迎えましたが、地震や豪雨による水害など近年災害が頻発する日本列島、私たちはその時、災害にどう向き合えばいいのか?

今回は台風7号による記録的な豪雨で大きな被害を受けた、鳥取県鳥取市佐治町からのレポートをお伝えしました。

8月15日に西日本を直撃した台風7号、とくに山陰地方は記録的な大雨となり、佐治町では24時間に降った雨の量が500ミリ超、1日だけで8月1か月分の平均降雨量の約3倍という大雨になりました。集落を流れる佐治川沿いでは道路や橋の一部が崩落。主要な道路が通行止めとなり、一時、孤立状態に。さらに電気、水道というライフラインも寸断されました。



スタッフが取材に訪れた8月27日現在、断水と停電は解消していましたが、崩落などによる道路の通行止め区間はまだ各所に残っていて、不便な生活はまだ続いていました。それに伴い、町のさまざまな施設や店舗の多くも休業を余儀なくされていました。

そんな施設の一つが、今回取材した「因州和紙伝承工房かみんぐさじ」。

この地域で1000年前から受け継がれる「因州和紙」という、書道用の和紙づくりの工房で、紙漉き体験などもできる施設です。

お話を伺ったのは職人歴47年。因州和紙職人の岡村日出正さんです。

◆◆

「今回の台風、はじめ“関東に行く”となっていたので、そんなに準備もしていないし、ここまで雨が降るとは思っていないから、“避難する”という感じではなかったです。前日の準備なんかも全然していないです。2020年に発生した大雨の時はみんな家にいて被害がなかったから、“だったら家の2階にいようかな”ということで、今回もみんな家で垂直避難。“台風だから何時間かしたら逃げていく”と思っていたんですが、朝からずっと土砂降り状態で、午後になって“これは大変なことになるぞ”と思い出して。隣のおじいさんも“音が怖いから”と、ウチのところに避難してきた。見に行ってみたら、谷がすごいことになっていて・・・川が流れる“ゴォー”じゃなく、石がぶつかる音、“ゴーン、ゴーン”と、大きな石と石がぶつかって地響きが伝わってくるような感じ。こんなに水が出たのは初めてで、私らも知らないし隣の96歳のおじいさんも“生きていて初めてだ”と言っていました。

アラートが出て“避難しろ”と携帯に入っていたが、そう言われても避難する場所がない。家を出たら橋に濁流、谷から土砂が流れてきて道路が半分埋まっているし、そこを通って避難場所へ歩いていかなければいけない。それはちょっとむずかしい。とにかく避難行動を取る場所がないんです。今回、山が崩れて道路が埋まったり、家が崩れて土砂が入ったというのはちょこちょこ聞きますが、うちらの部落は直接的な被害はなかったですね。

2020年の(豪雨災害の)経験がありましたから、ここ(工房)は倉庫に水が入らないように鉄筋を並べて準備をしました。倉庫と裁断所に少し水が入って、下(床)においてあったものはダメになりましたけど、そんなに思うほどではないのでモップで掃き出して撤去しました。パレットの上においていた原料などは大丈夫でした。

ここで作る紙は書道用紙なんですよ。書道家が使う紙。以前よりだいぶ少なくなったけど、全国的にちょこちょこファンがいて、“因州で作ったこの紙でないといけん”、“佐治町のブランドの紙なら心配ない”という声も頂いています。書きやすさ、にじみ具合、墨色、安心して使われている紙です。

紙漉き自体は、ここは川底に湧く伏流水を使っているので、水の調子を見て、はじめは水が濁っていて出来ませんでしたが、こないだ正常に戻ってきて試験的に紙漉きを再開しました。とにかく水は大事。雨が降っても台風が来ても、きちんとした水があれば仕事が出来ますが、今回の台風は機嫌が悪かった。紙漉きは再開しましたが、市からも“道路が通れないので休館しなさい”と連絡があって現在休館になっています。道路開通して10月に再開できればいいですが。

とにかくこの地域の課題は「孤立」。道路が一箇所寸断したら佐治はいつも孤立する。今年の冬も雪で電柱が倒れて孤立している。なので迂回路、山道ではなくもう一つトンネルでもいいから掘ってもらったら、なんとかなると皆が思っていますね。」


(流れ込んだ泥をかき出し、作業を再開している工房内)
(工房の脇には裏山から流れ出た泥水が流れ込み側溝もご覧の通り)
(岡村さんの田んぼにも土砂が流れ込みました)
和紙作りは水が重要。伏流水を汲み上げて、紙漉きに使います。伏流水は濁りが少なく、紙づくりに適した冷たい温度で、一年中安定しているということ。ふだんは恩恵を頂いている川の水、それが今回は“機嫌が悪かった”という事ですが、ようやく濁りもなくなり、和紙作りを再開できる状態に戻ってきたそうです。

ただ、お客さんを招いての紙漉き体験などのイベントは、道路の復旧次第。10月には再開できれば、ということです。

なお佐治町は今年1月も、大雪で電柱や木が倒れ、道路が使えず孤立状態になっています。つまり今年は2度、孤立を経験。なので住民は“迂回路を作って欲しい”と訴えています。



今回、岡村さんのお話で印象的だったのが、前回、「2020年の豪雨では避難しなくても大丈夫だった」という言葉。この気持ちがあったから自宅に留まっていたところ、想定を超える大雨で、アラートが出た時には避難場所へ行ける状態ではなくなっていました。実際に佐治町の指定避難所になっていた場所も川沿いにあり、土手が削れていました。アラートが出てから行くのは非常に危険な状態であったと想像できます。

早めの避難行動が重要なのはもちろんですが、こうした“想定外”が近年は各地で頻発しており、100年単位、1000年単位で地域の災害リスクを知って、行政だけでなく地域で住民の命を守る行動もいま求められています。佐治に限らず、災害リスクのある地域によっては、行政の指定ではなく地域に伝わる伝承で独自に避難場所を決め、避難訓練したり、実際に避難行動を取っている地域もあります。そうした、地域の災害リスクを知り、住民どうしで共有し、いざという時は行動する、という、“地域で地域を守る取り組み”も、いま非常に重要となっています。

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