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23.12.01
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浪江町津島地区、12年ぶりに音を奏でた絆のピアノ


福島県浪江町の津島地区で10月21、22日に開催された「標葉祭り」。“標葉地域”と呼ばれる、大熊、双葉、浪江、葛尾の4町村が協力、特産品や伝統芸能をPRしようと浪江町の青年会議所が2009年に始めた秋恒例のイベントで、震災で休止となっていましたが、2018年に復活。今回は初めて津島地区で開催されました。

震災前には1460人が住んでいた津島地区。福島第一原発の事故の影響で全域が帰還困難区域となっていましたが、今年3月に一部の地域が避難指示解除に。「標葉祭り」には約40の飲食ブースなどが出店、2日間で約1500人もの方が来場する盛況ぶりとなりました。津島地区にこれほどの人が集まったのは震災後初めてのこと。


11月10日に放送した「標葉祭り」のレポートはこちら

祭りの目玉となったのが、廃校となっていた「津島小学校」から運び出して修理、調律したピアノのお披露目です。

今回インタビューをお届けしたピアニストの西村由紀江さんは、震災後、「スマイルピアノ500」という被災地支援プロジェクトを立ち上げ、ピアノを失った子供たちへ、全国から募ったピアノを届ける活動を続けています。

この日、お披露目されたピアノは、浪江町の小学生たちが“なみえまちのミライ”をテーマに描いたペインティングが施され、除幕の時は来場者の歓声と笑顔がはじけていました。音を聴く前から気持ちがわくわくするようなデザインです。




そんなピアノでの演奏を終えたあと、西村さんにお話を伺いました。

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「背中押してくれたのは一人の女の子です。2011年震災直後に陸前高田で家を失った女の子が報道番組でインタビューを受けていたの偶然見ました。もちろん住むところもない、そして寒い。大変ななか、彼女が“今欲しいものは?”って聞かれた時に“ピアノ”って答えているのを見たんですね。“この状況でピアノがほしいってのはどういうことだろう”ってすごく心をぐっと掴まれたような。で、“この子に届けたい!”って思ったところから色んな出会いがあって、そしてピアノのお届け活動が始まりました。はじめは無力感もすごく味わったんですよ。すぐ届けたいと思ってホームページでピアノを募集したら“ウチのピアノ使ってください”っていうお声を150台ぐらいもらったんですね。“よし、届けられる”と思ったんですけど、被災した人たちが欲しいものはピアノではないんですよね。まず住むところ食べるもの着るもの、生活のものが先で、最後にピアノだっていうことをまざまざと見せつけられたというか。結局その150台のピアノはその場では全然届けられなかったんですよね。“でもじゃあ何ができるか、じゃピアノそのものじゃなくてピアノの音を届けよう”ってところから、震災後3ヶ月で、南相馬、山田町、陸前高田、大船渡の学校を回った時に、“音楽でできることはあるんだ”って確信した、それがすごく強く記憶に残っています。でも続けようと思ったこと全然なくて、皆さんに“10年12年続けたのはなぜですか?”って聞かれるんだけど、続けてるんじゃなくて、どっか届けると、“隣の人も実は失くしたんだよね”とか、学校で先生にお届けすると“生徒さんでこういう人がいるんだけど”とか、口コミでどんどん広がっていくんですよね。“来年新しい家が建つから届けてくださいとか。そういうのがずっと繋がって、いつのまにか今に至ってるって感じです。」

―――今日西村さん、ピアノ弾かれていたので見ていないと思いますが、校歌のところで70歳くらいのおばあさんが半分泣きそうになりながら唄っていました。帰ってきたのか帰ってこようか迷っているのかわからないが、一つ大きなつながりの力になっていると感じました。

「そういう場に会えることが幸せですよね。これこそピアノが繋いでくれた縁ですからね。今日が本当にきっかけになればいいなと思うんです。まだまだ帰還困難の区域がようやく解除されて、パっと華やかにいくものではない。時間がかかると思うんです。だけど今日皆さんが来てくださったことをきっかけに、このピアノを中心として、少しずつ取り戻していってくれたらいいなっていう、そんな気持ちで今日は演奏してました。」


放送では西村さんのライブ演奏も一部お聴き頂きましたが、お話にあったように、今は廃校となっている津島小学校、津島中学校の校歌の演奏では、会場中が大合唱に。まだ津島地区に戻る住民の数は少ないですが、地域の絆をつなぐ光景がそこには確かにありました。

西村さん自身、この「スマイルピアノ500」の活動に携わるようになって、音楽との向き合い方が変わったというお話もされていました。震災直後に訪れた東北沿岸の町でのライブ演奏の際、家族を亡くして塞ぎこむ子供がいて、その子がピアノの音を聴いた途端、表情がかわり、会話することが出来たというエピソードを交え、“上手く弾こう”とか“売れるメロディーを作ろう”とか、そうした思いが消えて、“鍵盤一つ一つの音に心を込めるようになった”というお話もされていました。


この津島小学校のピアノは、現在「つしま活性化センター」に常設されています。じつはこのインタビューの翌月、西村さんたちは双葉町の双葉中学校に取り残されていたピアノも修復、お披露目イベントが行われ、こちらは現在、双葉町の「フタバスーパーゼロミル」に常設されています。

このほか西村さんの「スマイルピアノ500」の活動については、オフィシャルHPをチェックしてください。

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