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23.12.29
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「福島第一原発+中間貯蔵施設+α視察ツアー」帯同レポート


東日本大震災から間もなく13年。廃炉へ向けた取り組みが続く東京電力福島第一原子力発電所では、「福島第一原発+中間貯蔵施設+α視察ツアー実行委員会」が主催する視察ツアーを定期的に開催しています。原発構内や周辺施設などを視察、現状や課題について伝え考えるワークショップも開催し、廃炉へ向けた現在地を正しく広めていく事を目的としています。

Hand in Handではこの「視察ツアー」の12月11日の回にリスナーと共に参加致しました。

後列左から2人目が福島県いわき市から参加の佐藤さん、3人目が東京から参加の土佐さん、4人目が福井県から参加の安野さん。安野さんは中学校で社会科を教えている先生でもあります。そして後列右から2人目は高橋万里恵さん。子育て中の万里恵さんは一般参加で駆けつけ、午後の意見交換会に参加されました。

一方、前列に陣取る若い女性たちは、ギャルマインドで新しい発想を生み出そうという団体「CGOドットコム」から参加された5人。寒風吹く視察ツアーのためほぼノーメイクということでお顔は伏せがちですが、“福島第一原発×ギャル×Hand in Hand”という異色のメンバーでの視察ツアーとなりました。

CGOドットコム


富岡町にある「廃炉資料館」に集合した一行は、まず東日本大震災とそれに伴う原発事故のあらましについて講義を受け、シアターでのビデオ上映を観覧。ここまでの経緯について予習をしました。そしてバスに乗り込み、一路、福島第一原発へ。


富岡町から国道を北上して大熊町へ。今は一部が避難指示解除となっている両町ですが、事故後の光景や、避難を余儀なくされた当時の様子など、車内でもいろんなお話を聞きながら、いよいよバスは国道を右折して福島第一原発構内へ。近づくにつれバス車内に設置された放射線の線量計の数字が徐々に上がっていきます。もちろん安全な数値の範囲内ですが。

構内ではまずバスの車内からの視察。ご案内頂いたのは東京電力福島第一廃炉推進カンパニーの大塚隆太郎さんです。

■福島第一原発

福島第一原発では原子炉内部に残る燃料デブリを冷やすため、及び雨水や地下水の流入によって高い濃度の放射性物質を含んだ汚染水が発生しています。これを複数の設備を使用して放射性物質を除去する浄化処理が行われていますが、まず「サリー」や「キュリオン」という装置でセシウムやストロンチウムを浄化処理。そのあと多核種除去設備(ALPS:Advanced Liquid Processing System)で、トリチウム以外の放射性物質が環境放出の規制基準を満たすまで繰り返し浄化処理されています。

(サリー吸着塔保管エリア)
(キュリオン吸着塔保管エリア)
(既設多核種除去設備)
(ALPS処理水サンプル)
こうして浄化処理されたものが「ALPS処理水」。

ちなみに繰り返し浄化処理をしても取り除けない放射性物質トリチウム=三重水素は、川や海など自然界に存在している物質。世界中の原子力施設でもトリチウムは生成されていて、それぞれの国がそれぞれの規制に基づいて海洋や大気などに排出しています。

福島第一原発では2023年夏からそんな「ALPS処理水」の海洋放出を始めましたが、国の定めた安全基準の40分の1、WHOの飲料水基準の約7分の1未満という、たいへん厳しい基準を設けて放出を行なっており、それは国際原子力機関=IAEAからも、“国際安全基準に合致し、人及び環境に対する放射線影響は無視できるほどである”という結論が公表されています。報道でも目に耳にされた方も多いと思いますが、そうした取り組みが行われている施設を間近に見ながら解説を聞きました。

現在、処理水の安全性を証明するために、海洋放出する処理水と同じトリチウムの濃度でヒラメとアワビが飼育されていますが、その様子も見学しました。

しかしここまで溜まり続けてきた処理水の保管タンクは約1000基。バス車内にいても敷地を圧迫しているのがよくわかります。



そしてバスは免震重要棟など構内のポイントを見学しながら4つの建屋が並ぶエリアへ。一つ一つ状況に応じて着々と廃炉への作業が進められていましたが、ここで一行はバスを降車し、その作業状況についてお話を伺いました。

(1号機建屋)
(2号機建屋)
(3号機建屋)
(4号機建屋)
4つの建屋の前の高台に設けられた展望台から、それぞれの建屋に合わせて作業が進められている様子を見学しました。

建屋をぐるりと囲む凍土遮水壁は建屋内への地下水流入量を低減。取り出しが必要な燃料プールの燃料棒は、3号機と4号機で取り出しが終了し、2号機は2024年度〜26年度、1号機は2027年度〜2028年度に取り出しを始める予定とか。そして2031年にはすべての燃料棒の取り出しを目指しているということでした。さらに2023年度内には初めての燃料デブリの取り出しが2号機で行われる予定ということ。安全な作業環境を徹底しながらも、廃炉へ向けたステップはまた一歩、歩みが進められます。

このポイントの放射線量は高いので時間を見ながらの見学でしたが、それでも周辺にはフェーシングが施されるなど環境が整えられていて、我々もマスクとヘルメットくらいであとは普段着のまま。作業員の皆さんも一部では防護服姿で作業されていましたが概ね通常の作業着で作業されており、構内の環境がかなり改善されていることも感じました(ちなみに番組スタッフはこれが3度目の視察。訪れるたびに環境の改善を実感しています)。




■中間貯蔵施設

福島県内の除染に伴って発生した土壌や廃棄物等を、最終処分までの間、貯蔵する施設。福島第一原発を囲む形で、大熊町と双葉町に整備されています。今回のツアーではそんな「中間貯蔵施設」も訪ねました。ご案内頂いたのは環境省福島地方環境事務所中間貯蔵部の服部弘さん。

約1300ヘクタールもの広大な敷地の大部分は民有地。1800人以上の地権者が、代々受け継いだ大事な土地を提供して施設整備が実現しています。“中間貯蔵”であり2045年3月までの県外搬出が法律で決まっていますが、とはいえそのあとの最終処分する場所は今なお決まっていません。



一行が立っているのはもともと農地だった場所に除去土壌を積み上げ、さらに汚染されていない土を乗せて15メートルも嵩上げされたという場所。放射線量が高くならないようこうした処置がなされ、年間1ミリシーベルトという年間追加被ばく線量に満たないようになっています。周辺の山や林は除染されていないため、この嵩上げされた場所の方が安全ということ。

帰還困難区域に指定されているため、すべての地権者は町外で生活していらっしゃいますが、長きに渡って故郷に戻れない決断を下さなければならなかった思いとはいかばかりか。参加者の一人が“他の場所ではダメだったんですか?”という素朴な質問をされていましたが、どこへ持っていっても誰かが辛い思いをする、そしてこの中間貯蔵を受け入れないと福島の復興が進まない、という判断から、反対していた住民が一転して土地の提供に合意されたということでした。



中間貯蔵施設の近くにある双葉町正八幡神社。平安時代に建立されたと言われる地元の氏神さまです。長く帰還困難区域の状態が続き、地震で倒れた鳥居が放置されるなど荒れ果てていましたが、避難生活を送る氏子たちが鳥居を再建、石碑を建てました。そこには、“長きに渡りこの地を離れることを強いられるが、再び人々の営みが蘇ることを願い、この鳥居を建立する”と刻まれていました。

帰還を願う住民と今後の汚染土の最終処分、そのあとの土地の再生。中間貯蔵施設にあるそうした背景、課題に向き合った瞬間でした。


■意見交換会

ツアーの最後は「東日本大震災・原子力災害伝承館」に隣接する「双葉町産業交流センター」で開催された“意見交換会”です。

参加者それぞれがツアーで感じたものや今後へ向けた思い、自分が何を出来るか、何をすべきかを語り合う場。迎えてくれたのは、環境省福島地方環境事務所中間貯蔵部の服部弘さんと、経済産業省資源エネルギー庁 廃炉・汚染水対策官原子力災害対策本部 廃炉・汚染水対策現地事務所参事官の木野正登さん。番組でも折に触れてお話を伺っている経産省のスポークスパーソンです。




ギャルの一人からは、サリーやキュリオンのフィルターなど高濃度に汚染された処分場所が決まっていないものを“宇宙に捨てたら?”といった素朴な提案が飛び出したり、多くの原発が止まっている中での未来のエネルギー政策への質問があったり、あるいは福井県から参加した番組リスナーからは長きに渡る廃炉作業の“後継者育成”についての質問があったり、侃々諤々それぞれが廃炉へ向かう現状への理解や考えを深めたひと時でした。

一般参加した高橋万里恵さんは、一部で“期間内に終わらないのではないか?”と言われる廃炉のスケジュールについて率直に質問。木野さんは、“まだ無い技術開発も含めて、まず40年で終わらせることを目指す。優先すべきは安全。そしてリスクを原発内に閉じ込め、地域に暮らしていた人々が安心して故郷に戻り、元の生活を取り戻すようにしていきたい”と答えてくれました。

原発事故で地域が分断され、廃炉へ向けてもまだまだ課題が多い今日の現状というのは、福島だけのものではなく日本に暮らす全国民の課題でもあります。3回に分けて放送した今回の視察ツアーレポートで聴取された方が自分ごととしてこの課題を受け止めて頂けたなら何よりです。


なお今回のツアーを主催した実行員会の中心、cocoonlabo桜井洋貴さんは、震災後、福島の復興に関わりつづけ、このツアーも無償のボランティアで実施しているという人物です。今後も視察ツアーをはじめ、様々な形で福島の復興であったり理解を深める提案をしていくと思われますので、よかったらFacebookのフォローをよろしくお願い致します。

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