
避難所運営のDX化へ 能登の避難所ヒアリングで見えてきた課題

9月は「防災月間」です。そこで今回は災害時の避難所や仮設住宅に関する最新の情報をお伝えします。
“災害への備え”というと水や食べ物の備蓄をイメージしがちですが命を守るために身を寄せる避難所の状況、そして自宅が住めなくなった場合の仮の住まいがどうなるのか、シミュレーションしておくことも必要です。
今回お話を伺ったのは、災害時の“仮住まい”の問題に詳しい専修大学 ネットワーク情報学部の佐藤慶一教授。去年から川崎市多摩区と大学の連携事業で、学生たちと共に『防災DX』をテーマに取り組んでいます。
「避難所でどんな課題があるのか、まずは輪島を訪ねて避難所の情報管理をヒアリングしたところ、かなり大変なことがわかりました。いろんな物資が届きますが、例えば2Lの水が1400箱、マスクが何十パック、トイレットペーパー、台車、ラジオなどを一つずつ数えて黒板に書き出し、どこに何があるかを整理し、「欲しいけどないものリスト」が日ごとに更新される。それを何百人もの避難所利用者に聞き取りながら、ほぼアナログで管理していました。それをDXで便利にできるようにしたいと取り組んでいるところです。
一方で、だいたい9割ぐらいの人はスマホを持って避難していて、お年寄りもガラケー含めて、ほぼ全員持っています。マイナンバーカードを持って逃げる人は少ないですが情報端末はかなり多くの方が携行しています。
物資管理だけでなく「どこの誰が来ているのか」を整理するのも大変なので、事前に住民名簿を準備して、避難訓練の時にシステムを動かしておけば、いざという時にピッとスキャンするだけで楽に管理できるはずです。
やはり首都圏は人口が多く、在宅被災者もかなりの数になると思います。一方で、物資が集まるのは避難所なので「自宅にいるが水だけ取りに行く」「食事だけ取りに行く」人も出てくるため、相当混乱を招くと思います。避難所にいる人も在宅の人も、情報を一元的に管理できる仕組みが必要です。いきなり大きなシステム導入は難しいですが、避難所開設訓練や通常メニューに「情報管理」を加えて、話し合ったり準備をしていくことはできるはずです。
手軽にできるところで言えば、LINEは多くの人が使っています。能登でヒアリングするとお年寄りもみんなLINEを使っている。日本独自ですごく良いツールだと思うので、ただやり取りするだけでなく、機能追加もできるシステムなので活用できればと思っています。いずれLINEの人たちにも相談してみたいと思っています。」
避難所の運営は地元の住民が担うことが多く、LINEの地元グループなどしっかり繋がっておくことも大事な“備え”となりそうです。
また佐藤教授は、これまでの大きな災害を経て、避難所や仮設住宅は以前に比べて「どんどん進化している」と話します。
「災害ごとに少しずつ良くなり、過去にこんな取り組みがあったから次もやろう、今回は新しくこういうことをやろう、と次第に広がってきています。避難に関しては旅館やホテルの活用、二次避難、体調の悪い人を早く安全な場所に移す取り組みも本格的に進みました。
仮設住宅についても、いずれそのまま住宅として使えるよう、基礎をしっかり作った木造仮設を建て、将来的に公営住宅として住み続けるタイプのものがありました。
また輪島では地震後に豪雨災害があり、一部の仮設が浸水する事態がありましたが、これは限られた用地の中でやむを得ず建設した経緯がありました。その後は2階建ての仮設住宅が結構な数で建てられました。これは非常に貴重な前例です。今後は比較的安全な場所に最初から2階建ての仮設住宅を多く建てれば良い、という発想につながります。能登での豪雨とその後の対応は、今後の仮設住宅政策にもしっかり反映されていくはずです。その意味で、能登は非常に学びが多く、参考になる場所だと考えています。」
能登半島地震のニュースは報じられなくなってきていますが、能登の被災者の暮らしに改めて目を向けることも大事な“備え”になってきそうです。
