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25.12.05
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令和7年8月豪雨で被災した熊本県八代市のい草農家・東家聖治さんを訪ねて


激甚災害にも指定された8月の記録的な大雨。とくに九州では複数の場所で観測史上1位を更新する降雨量となり、熊本・鹿児島では大雨特別警報が発令。広い範囲で浸水被害、土砂災害が発生しました。

今回取材したのは、この大雨の被害を受けた地域の一つ、熊本県八代市。お話を伺ったのは、畳の材料となる「い草」作りと、畳の材料「畳表」の製造をしている、東家聖治さんです。

八代市は全国一のい草の生産地として知られていて、東家さんはお父さんの代から60年続くい草農家。畳表の「聖和表」というブランド名は全国的にもその名を知られるほど。

そんな東家さんに、8月の豪雨とそれからのことについて伺いました。

◆◆

「だいたい八代は6月・7月の梅雨で少々の雨が降ると、田んぼギリギリぐらいまで水位が上がるんですよ、毎年。だから少々降っても“まあ大したことないだろう”と思っていたんですけど、8月10日の夜、夕方ぐらいからぽちぽち降り出して、深夜になって雷がずっと鳴って、寝ている間に携帯に“避難してください”のコールが何回も何回も入ってきまして。ただその時はまだ屋敷にも道にもぜんぜん水はなかったんです。

朝ごはんを食べて、8時半ぐらいに雨はもう止んでいたんですけど、だんだん水位が上がってきて、こっち(家の敷地)も10センチぐらいまで水が来ていたんですよね。“このくらいだったらまだどうもないや”と思っていたんです。むかし経験したことがあったので。
川とかが溢れているわけじゃないんですよ。この大きい川、大鞘川があるんですけど、海沿いに排水ポンプがあって、海が満潮になるとふだん動いている排水ポンプが止まるようになっているらしいんです。後で聞いた話ですが。それで水の抜け所がなくなって、この町内はうちが一番低いので、水が溜まっていったんです。
それから隣町からも流れ込んできて、“これはやばい”と思って、家族に“避難センターに行った方がいいよ”と伝えて、トラックを玄関先までバックさせて妻と母親を乗せて避難しました。

そのあと、もうじゃんじゃん水が道を越えてきて川みたいになってきて。そこ(家の前)は約1mくらい高低差があるんですけど、そこを田んぼから水が乗り越えてくるなんてことは、うちの母親も“こんなことは初めてだ”と言っていました。家は大丈夫でしたが、小屋の機械類はすべて水没しました。

まずは泥水の濃さを見ました。真っ赤な水だったら“もう最悪だ、枯れる”と思っていた。ただ、山沿いはけっこう赤い濁り水になっている所もあって、うちの方はまだ水の色が薄かったんです。“これだったらいけるかな”と思って、1週間ぐらい様子を見ながら水の入れ替えをしたりしました。

い草は、サイクル的に言うと、12月から3月の間に畑に植えて、それを8月に“苗”としてまた植えて、今度は11月・12月に収穫用の本田(ほんでん)に植えるんですよ。2回株分けして、その2回目を収穫用にするんです。だから約2年弱かかります。ちょうどその時期はまだそんなに面積を植えていない段階でしたが、水に1日・2日つかったりして泥水が茎に付いて光合成できなくなって枯れたり。汚れた茎には水圧の強い洗浄機でバーッと吹きかけて汚れを落としたりした。でも生き返っても苗が弱くて、根の張りが悪く、肥料を今まで以上に与えたり、酸素供給剤を与えたりして、お金を使いながら苗を育てている状態です。

そして弱った苗のほかに、乾燥して袋詰めしていた、い草の原草が約4割近く水没しました。それと製品もやられたんです。畳表(ござに編み込んだもの)になって保管庫に入れていた数十枚、水没して売り物にならなくなりました。

それをSNSに投稿したんです。そしたら“濡れていない部分は使えないか”という問い合わせがあって、それを取りに来てもらって、ミニ畳を作ったり手提げを作ったり。助かったです。捨てるだけだと思っていたので。“全部廃棄処分になるところだったのを救えてよかった”と言ってもらいました。

全国の畳屋さんが心配してくれて、本当に嬉しかったです。」



2年弱もの時間をかけて育てられるい草。今回の大雨は、育成中のい草の苗のほか、収穫済みのい草、そして畳の材料となる「畳表」が被害を受けました。そしてそれ以上に頭を悩ませたのが農業機械の被害です。特殊な機械で今は製造していないものも多く、修理や買い替えなど、完全復旧にはまだまだ課題が残っているそうです。

そしてい草農家は年々減っていて(最盛期4000軒⇒現在200軒/全国)、今回の被害で廃業する農家もいるのではないかと東家さんは危惧をつのらせています。

しかしその一方で、今回の豪雨で“八代がイグサ生産日本一”と知った人も多かったことから、東家さんは、“この機会に、畳のある暮らし、畳の気持ちよさを知って欲しい”という願いについてもお話しされていました。東家さんいわく、畳は3年に一回、長くても10年に一回は変えた方がよいそうで、新しい畳ならではのあの清々しい香りを多くの人に感じてほしい!とも仰っていました。

ちなみに東家さんの作るい草は、土作りからこだわり、完成した畳はツヤ・香りが良く、とても長持ちするのが自慢とのこと。そのい草から作られる畳表は「聖和(しょうわ)」というブランド名で全国の畳屋さんに出荷されています。

東家聖治さんのインスタグラム

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