半径3mの「世界観」ライナーノーツ
高いハードルを簡単に超えてきた。
というか高く飛びすぎてまだ着地してない、そんな感覚。


「僕はクリープハイプが好きで、これからもずっと好きだと思う。」
「世界観」を聴いてまず思ったこと。
1人のファンとして、これからもずっとファンでいてもいいと思うアルバムだった。
発売前からインタビューやレビューなど様々なところで絶賛されまくり完全にハードルが上がりまくっていた「世界観」だが、そんな高いハードルを簡単に超えてきた。というか高く飛びすぎてまだ着地してない、そんな感覚。

1曲目「手」。
おかしな言い方かもしれないが、このアルバムで唯一、クリープハイプっぽさが残っている曲。名曲「手と手」の続編だそうです。初めて聴いたときはクリープハイプど直球という感じでかっこよくてなのに切ない歌詞で、クリープハイプ鉄板のパターンで最高だなぁとか思ってました(もちろん今回も高い密度で感情が溢れてます!)。だけど、全曲を聴いた後でもう一度聴くと、今までのクリープハイプと手をはなしお別れした曲にも聴こえる。そう、これから新しいクリープハイプがたくさん現れるのだ。

2曲目「破花」。
この曲を初めて聴いた時、クリープが新章に入った気がした。その曲がこのアルバムの2曲目、今までのクリープハイプの手を離した後に入っている。それがすごく良くて今回は一曲一曲が素敵で最高なだけでなく、曲順も最高である事がわかる。サビの歌詞「信じるものは足を掬われる」と歌いつつも、「動き出した君の歴史」と迷いながらも確実にクリープハイプの何かが変わった一曲だと思う。

3曲目「アイニー」。
アニメ「境界のRINNE」主題歌。ざっくり言うと”漫画の中の人に恋をしている”という歌詞の内容をアニメのタイアップに持ってくるところが尾崎さんらしいなと思います。音がちょっと色気がありだけど子供っぽさも残っていて、”漫画”みたいだと思いました。アルバム全体に言える事だが、素直な歌詞が多い気がする。このアイニーだって、サビの最後に「いつか超えて会いに行くから 待ってて」という歌詞がある。きっと何かを掴んだ尾崎さんが、クリープハイプが、僕らの中へ会いに来てくれるのだろう。

4曲目「僕は君の答えになりたいな」。
僕には好きな人がいて何かしてあげたいけど何もできなくて、そんな中この曲を聴いて”僕は君の答えになりたい”と思った。だから、”クリープハイプが僕の悩みの答えになった”のだ。きっと、この曲はクリープハイプファンの答えになる曲なんじゃないかと思う。

5曲目「鬼」。
ドラマ「そして誰もいなくなった」の主題歌。初のドラマ主題歌にして、明らかにクリープハイプは生まれ変わったと分かる曲。きっとクリープハイプとしては少しずつ積み上げてきただけなのだろうが、それでも高く積み上がる事で見える景色が変わり、「破花」で「動き出した歴史」によってクリープハイプは確実に”生まれ変わった”と思う。内容に沿った曲を作るという点でクリープハイプはもともとタイアップが上手いバンドだと思っていたが、今回はドラマの内容とクリープハイプのやりたい事や歌いたい事が絶妙かつ巧妙に両立していると思う。2番の「だから触ってよ、ちゃんと君が確かめてよ、大事な所に触れた時だけにするあの顔を、覚えてる?」と「見つけたって声がして、君の手が優しく肩に触れる」の部分がとても好き。クリープハイプの曲は多くの人の大事な所に触れる曲であると思っている。もっとたくさんの人にこの曲を見つけて、クリープハイプの肩に触れてほしい。

6曲目「TRUE LOVE」。
ラッパー、チプルソとのコラボ曲。クリープハイプが他のアーティストと共作するのはほぼ初めてで新しい挑戦をしている。もともと尾崎さんの歌詞は韻を踏む歌詞が多くラップみたいだと思っていた僕からしたら、とても嬉しいコラボだった。コラボ曲だけあって尾崎さんが絶対に書かないであろう歌詞の中に尾崎世界観らしさが隠れている曲だと思う。

7曲目「5%」。
初回限定版のDVDに収録されている「ゆーことぴあ」のエンディングに使われている。これがまた最高にこの短編映画にはまっていて心地よい。この曲はこのアルバムで1番バンド感のない曲で、打ち込みっぽい音に尾崎さんの歌声が繊細にのる。クリープハイプの新たな挑戦がこの曲でも成功している。尾崎さんの声がいつも以上に優しくてちょっと切なく聞こえる。アルコール度数5%のビールと自分を重ねる主人公が愛おしく思える。どんな最悪な夜でも愛せそうな、そんな気持ちになる。

8曲目「けだものだもの」。
少し邪悪で妖怪とか怪物とかそんな”けだもの”を連想させるギターフレーズがイントロで流れる。この曲の主人公は”けだもの”であり、優しく差し出された手さえ握りつぶしてしまう。尾崎世界観さんの初小説”祐介”の主題歌みたいな曲だと思った。優しささえも受け止めきれず、ずっと苦しみながら周りの人に当り散らして、それでも答えを探す。初めて聴いた時はちょっと怖い印象の曲だったが、何度も聴くうちに苦しく切ない曲に聴こえてきた。これは目を覆いたくてもそれでも、這いつくばって進んできた”尾崎祐介”の歌だと思う。

9曲目「キャンバスライフ」。
長谷川カオナシさんがボーカルをつとめる1曲。ちょっと懐かしさを感じるイントロから軽快に始まる。”夏の終わりの思い出を絵にして残しておきたい”という願いを現実と想像を行き来しながら情景豊かに歌われる。今までのカオナシさんの曲と比べるとバンド感が強い印象で少しだけ青春を感じさせる。カオナシさん独特の言葉遣いと視点が光る1曲。

10曲目「テレビサイズ(TV Size 2'30)」。
テレビ出演時に曲がテレビサイズに短くなってしまう事に対して、悪態を付くとにかく尖った1曲。「破花」の初回限定版についてくるDVDでこの曲の初披露されている映像が収録されていて(アルバムに収録されているものとは多少異なる)、それによると尾崎さんがハンドマイクで歌っていて、ここでもまた新しい挑戦をしている。今までにも早口で歌う尖った曲はあったが、それとは一味違ったサウンドで新鮮に楽しめる1曲。

11曲目「誰かが吐いた唾が キラキラ輝いてる」。
全然ダメな人間の希望の歌だと思う。「良い事ある生きてればその内」という歌詞が印象に残った。尾崎さんにしては今までにないくらいストレートな歌詞だと思った。そんな事を言えるくらい変化があったのだろうか。いやあったのだろう、このアルバムを聴いてもらえればわかる。この曲はギターのみの弾き語り曲だが、それでも明らかに何かクリープハイプに変化があったと分かるアルバムを象徴する一曲だと思う。

12曲目「愛の点滅」。
ここから2曲極上のポップソングが続きます。僕が学校の事で何もできてなくて焦ったりイライラしたりしていた個人的に苦しい時期に発売されました。「焦って今すぐ飛び出しても後悔するのは分かってるけど」というAメロに落ち着かせられて、「頭の中では分かってるんだけど」と1番のサビで歌い「本当は何も分かってないんだけど」と2番のサビで歌う、”自分でも自分がわからなくなっている状態”の曖昧さに共感した記憶があります。自分にとって大切な曲です。

13曲目「リバーシブルー」。
クリープハイプ流の極上ポップソングの2曲目。この曲も個人的に苦しい時期に発売された曲で、Aメロの蝶々結びが上手くできない状態を比喩した歌詞に助けられていました。特に「高く飛べると思ってたのにすぐにほどけた」という歌詞が好きです。サビの「会いたくない、会いたくない、そんな気持ちとは真逆の気持ち」という最大にひねくれている歌詞と、それに反するキラキラなメロディがとても美しい曲です。

14曲目「バンド」。
本当にこの曲は素敵だ。とにかくいい。尾崎世界観のメンバーへの想いが込められている曲。このアルバムでは弾き語りをしたり、打ち込みの音に合わせて歌ったり、ラッパーとコラボしたりと、ここまで色々な事をやってきが、それでもこの曲で歌われるように「いつでもすぐにバンドになる」と分かっているからやれた事なのだと思う。それだけメンバーを信じている、いつだってバンドに戻ってこれるからやれた事だと思う。そんな想いがこの曲から感じられる。それでも最後に「付かず離れずでこれからも」と歌っているのが、メンバーとの丁度いい関係を現しているようでなんとも言えない嬉しさを感じる。アルバムを締めくくるこの曲は尾崎世界観の優しさ、素直さが詰まった最高の曲だ。

このアルバム、どこからどう聴いてもクリープハイプである事は間違いないのだが、あきらかに新しいクリープハイプになったと思う。これからもずっとずっとずっと好きでいたい。「世界観」は、そんな事を素直に思える最高のアルバムだ。

システムnight 18歳 愛知県