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2011年1月30日(日)
Eminem
「Mockingbird」
Eminem
2月にロサンゼルスで開催されるグラミー賞。アメリカで最も権威あるこの音楽祭に、現在、最多の10部門でノミネートされているヒップホップ界の重要人物です。貧困や差別など、トラブル続きの日常を過激な歌詞で表現する彼に、いったい、どんな愛が隠されているのでしょうか。
『周りと比べれば、ちょっと悲惨な少年時代だった』エミネム自身がそう語るように、幼い頃、彼を取り巻く環境は劣悪なものでした。1972年、アメリカ・ミズーリ州に生まれたエミネム。生まれて半年もしないうちに父親が家を出、彼は母と二人、カンザス・シティとデトロイトを行ったり来たり。母には定職がなかったため、引っ越しと、立ち退きの繰り返しでした。一番長く住んでいた家で、わずか6ヶ月。1年で6回の転校。学校では“新入り”という理由だけで、いじめを受け、ロッカーに閉じ込められたり、廊下やトイレでリンチされたり。ある時は、凍った道に頭を何度も打ち付けられて、1週間意識が戻らないこともあったと言います。そんなにひどいいじめを受けていた時代も、彼が本当にイヤだったのは、母の異性関係。ひとつのアパートに、5つの家族が一緒くたに暮らしている時ですら、母がボーイフレンドを連日のように連れてきては大騒ぎをしていたそうです。そうした母の行動は、思春期のエミネムに、暗い影を落とします。そして、デトロイトの貧困地区での生活は、ひもじさとの戦いでもありました。福祉団体からの援助だけでは、ギリギリの生活。「光熱費ぐらい稼いでこい」と言われ、バイトにも精を出したといいます。それでも、彼が15歳の時には、母にバイト代を半分とられたあげく、家から追い出されてしまいます。
そんな悲惨な日々の中で、エミネムにとって唯一の希望だったのが、ヒップホップであり、ラップでした。9歳からラップを聴きはじめ、14歳のころから自ら詩を書き、ラップするようになりました。見よう見まねで音作りに取り組み、自分のサウンドやスタイルは、どうすれば確立できるのか、自己流で学んでいったといいます。レストランでアルバイトしていた時は、お客さんから注文を受けると、それをラップにして厨房に伝え、言葉遊びやリズムを、カラダにしみ込ませていったのです。
「Lose Yourself」
Eminem
なんとなくコツをつかみ、デトロイトのアンダーグランド・シーンで活動をはじめたのが、18歳の頃。しかし、彼がクラブでマイクを握るたびに、ブーイングの嵐が起きます。ヒップホップは黒人が優位な世界。エミネムは、ただ、白人というだけで、認めてもらえなかったのです。それでも彼はMCバトルに出続け、フリースタイルは、どうすればカッコイイのか、バトルにはどうすれば勝てるのか、研究を重ねていきました。バイト生活はこりごりでしたし、何より、彼には愛すべき娘・ヘイリーがいたのです。その頃を振り返って、エミネムはこう語っています。『小さい娘がいるのに、まともな飯すら食わせてやれなかった。おむつすら買えない。とにかく貧乏のどん底。こりゃぁ、何とかしないと・・・って、俺は目覚めたんだ』高校時代の同級生、キムとの間に娘が生まれた時、父親としてきちんと育てられるのか、怖かったというエミネム。しかし、その言葉とは裏腹に、彼はごく自然に子育てをしていきました。『俺は娘の面倒を見ることだけに責任を感じている。あとのことは、どうでもいい。』エミネム自身がこう語っていることからもわかるように、彼は人一倍父性愛が強く、娘にクリスマスプレゼントを贈りたい・・・。その一心で、音楽の活動を続けたのです。そんな彼のラップは、徐々に黒人たちにも、受け入れられるようになり、彼のデモテープは、ヒップホップ界で影響力のある音楽プロデューサーの手に渡ります。それから一気に、栄光への架け橋を昇ったエミネム。デビュー・アルバムに収録された「マイ・ネーム・イズ」はラップ部門で、グラミー賞を受賞。翌年のグラミー賞でも3部門を受賞しました。
メジャーデビューから、わずか1年で富と名誉を手に入れたエミネム。娘、ヘイリーの3度目のクリスマスにはやっと、ツリーの下に、沢山のプレゼントを用意することが出来たのです。しかし、彼が有名になればなるほど、彼の周りは騒がしくなるばかり。ヘイリーの母であるキムも、薬物所持の疑いで逮捕されてしまいます。この時、エミネムは、娘に淋しい思いをさせないようにと“ダディがいるから、大丈夫”と、先ほど聞いて頂いた「モッキンバード」を作り、娘をひたすら慰めたといいます。
「Not Afraid」
Eminem
次々と勃発する、プライベートでのトラブル。スターであり続けるためのプレッシャー。そういったものが原因だったのでしょうか?彼は、次第に薬物に手を染めるようになり、彼もまた、薬物中毒で入院を余儀なくされてしまうのです。
それから、3年に渡る薬物との闘い。不運なことに、彼が薬物と闘っている間、親友が射殺されるという悲劇も起こってしまいます。デトロイト時代、陽の当たらない場所にいたエミネムを引っ張り出し、ラップゲームに誘ってくれた親友を失った悲しみは、薬への執着を一層強くしました。しかし、そんな彼をサポートしてくれたのは、他でもない、娘・ヘイリーと、彼が養子縁組している子供たちでした。彼は子供達と週に1回、リハビリセンターに通い、薬のない生活を手に入れることが出来ました。子供たちが見守ってくれるからこそ、薬の誘惑を断ち切れる・・・。彼が子供たちに注いできた愛情は、こんな形で実を結んでいるんです。
薬物中毒と、親友の死から、立ち直ったエミネム。2009年、彼は復活のアルバム「リラプス」をリリース。あっさりとアルバム・チャートとシングル・チャートの両方でNo.1を獲得し、シーンに復活しました。そして、去年の6月には、アルバム「リカバリー」をリリース。来月行われるグラミー賞では、年間最優秀アルバム賞の大本命と言われています。今、こうした彼があるのも、娘のために生きたいと思い、娘を大学へ行かせるなど、自分ができなかったことを経験させるためだといいます。「俺が彼女にそういうことをしてあげられるのも、すべてラップのお陰さ。ラップは俺の人生を導くための手段だったけど、今は娘たちの人生を導く手段にもなっているんだ」父を知らず、自分は、一度も感じることのできなかった父性愛。彼は、もがきながらも、その愛を子供たちに伝えようとしてるのです。
今夜は、エミネムをピックアップしました。
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