「I Got You Babe」

Sonny & Cher

シンガーとして女優として、47年もの間、走り続けてきたシェール。シェールとは、子供の頃に付けられたニックネームでした。
彼女は、1946年、アメリカ、カリフォルニアに生まれます。アルメニア人やチェロキーインディアンの血を引くエキゾチックな美貌の持ち主は、高校2年で学校を中退し、演技の勉強を始めます。そして、16歳のある日、ハリウッドのコーヒーショップで出会った、ソングライター、ソニー・ボノと恋に落ち、翌年、結婚。ここから彼女のキャリアはスタートするのです。彼女の才能を見抜いたソニーは、ソロシンガーとして彼女をデビューへ導きます。そして、「ソニー&シェール」として1965年にリリースした「I GOT YOU BABE」は、アメリカ、イギリスでNo.1となり、この曲をきっかけに二人の快進撃が始まります。1965年から72年までの7年間で、アメリカのシングルTOP40に曲を送り込むこと11回。ソニー&シェールは、サウンドはもちろん、ファッションリーダーとしても人気を博し、当時のフラワームーブメントの体現者として、70年代のアメリカを象徴するカップルとなっていきました。しかし、時代の最先端を走る憧れの夫婦の生活は、いたって普通。世間が想像するのと違い、毎日、夫のために食事をつくり、妻であるシェールが一人で出かける事は滅多にないという暮らしぶりでした。11歳の年の差を乗り越え、常に献身的に愛を注ぐシェールにとって、夫ソニーは、彼女にとってヒーローでした。しかしソニーは、その彼女から受ける愛の裏側で、彼女の持つべき権利をすべて自分名義とし、彼女の行動を束縛していきます。二人が出会って20年がたち、夫婦の関係が修復できないところまで来た時、始めてシェールは、これまで二人で築きあげてきた財産も権利も、自分は所有しておらず、個人では音楽をはじめ、テレビや映画への出演まで禁止されていた事を知るのです。
自分の歌、自分の姿さえも自由にならない彼女は、一文無し同然。そんな彼女に救いの手を差し伸べたのは、周りで彼女を見ていた仕事仲間でした。不公平な権利の解消に尽力し、再び音楽の仕事をくれたのも、後に、彼女が女優として活躍するきっかけを与えてくれたのも、彼女の周りにいる人々でした。そして彼女は、その華やかなルックスと独特のファッションからMTV時代を迎えた80年代のアメリカで復活し、さらに、90年代には、女優として数々の映画に出演するなど、世界を股にかけたエンターテイナーとして進化していくのです。

「Believe」

Cher

70年代は、フラワームーブメントを象徴するデュオして、80年代からは、女優としても活躍してきたシェール。「マスク」、「イーストウィックの魔女たち」・・・そして1987年の「月の輝く夜に」では、アカデミー主演女優賞を受賞し、女優としての地位を不動のものとします。そのように、スクリーンでの活躍が目覚ましい中、彼女は、この曲で25年ぶりのNo.1を獲得し、見事シンガーとしてカムバックを果たしたのです。
華やかなルックスの彼女は、常に前向きで、力強い女性のシンボルとして語られることが多くありますが、そんな彼女にも2人の子どもいます。ほとんどの子育てを一人でやってきた彼女は、常にベストを尽くそうと頑張ってみたものの、何かが足りなかったと語っています。2人の子どもたちは、自分を愛してくれているものの、すんなりとはいかない。どこの家庭にもある悩みを、トップスターであるシェールも感じていたのです。そんなある日、彼女にとって衝撃的な事が起こります。それは、長女のチャスタティが、性同一性障害であることを告白したのです。「動転して頭が真っ白になったわ。それまでは、彼女が結婚して、普通に子どもを生んで、育てるようになる事を夢見ていたから。」と、告白を聞いた当時を振り返って、彼女はそう語っています。そして動揺のあまり、一時は娘と別居をしてしまったとも語っています。しかしその後、彼女はカミングアウトした娘を応援することを決意し、チャスタティは性別適合を開始。いまでは男性として暮らし、去年の５月には、法的にも「チャズ・ボノ」と名前を変えています。女性という性を謳歌していきたシェール。映画では同性愛者の役を演じた事はありましたが、自分自身が男性になるという事は全く想像できなかったそうです。自分にはできない事だけれど、愛する娘、現在は息子となったチャズは、「とても頭がいい子で、性格もすごくおおらかなの」と語るほど、二人の間には、深い愛情あふれているのです。

「You Haven't Seen The Last Of Me」

Cher

芸能生活47年。その間、見事なほどのプロポーションを保ち、美への追求をやめない彼女を動かす原動力は、幼いころの貧しい生活にあるといいます。「ニ度とあのような生活はしたくない。」様々な時代を生き抜いてきた彼女は、何度となく浮き沈みを経験したからこそ、立ち止まることなく、多くの人々を元気づけるために、誰もが驚くステージングやパフォーマンスを軽々とこなしていきます。「簡単なことではないけど、それを軽々やっているようにみせなくてはならいの。」有言実行、時代を超えて輝くディーバの心の中には、いまでもタフで輝きを求めている少女が存在するのです。
そんな彼女は、慈善活動にも熱心で、イラクやアフガニスタンに出征した退役軍人たちへの援助を始め、現在は、オバマ大統領の退役軍人タスクフォースに加わる事を目的に活動しています。自分がたくさんお金を稼いでいるのだから、もっと税金を払ってもいい、この国の人々を助けるための仕事をもっと担うべきだと語っています。どうやって食べてゆくかを心配しなくていい人は、食べて行くのに困っている人について考えるべきだと。何とも、気持のいいくらいの姉御肌。今後の活躍がますます楽しみですね。今夜は、シェールをピックアップしました。