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2011年4月10日(日)
坂本龍一
「戦場のメリークリスマス」
坂本龍一
70年代後半、YMOで一世を風靡し、87年には、映画「ラストエンペラー」でアカデミー賞作曲賞を受賞。その他にも、数多くの名作を残しているのは、みなさんもご存知ですよね。現在59歳の坂本さん。環境問題への関心も高く、アーティストだけでなく、多くの人に影響を与えています。そんな坂本さんは、どんな愛を秘めて、今、ここにあるのでしょうか?
『エンニオは、どんな音楽でも、その場ですぐに書いたぜ。』これは、イタリアを代表する映画監督、ベルナルド・ベルトルッチが、「ラストエンペラー」の撮影現場で、坂本龍一さんに放った言葉。彼はニヤッと笑いながらつぶやき、それは、坂本さんを奮起させるに充分な言葉でした。坂本さんが初めて、ベルナルド・ベルトルッチに出会ったのは、1983年、31歳の時でした。坂本さんが出演し、音楽も担当した映画「戦場のメリークリスマス」がカンヌ国際映画祭に出品され、坂本さんも映画祭に出席。その華やかな会場で対面したのです。ベルトルッチ監督から、「ラストエンペラー」へ俳優として出演依頼があったのは、この対面から3年後。坂本さんは役者として、撮影現場である中国へと乗り込みました。撮影は概ね順調にスタート。ところがある日、ベルトルッチ監督は、主人公が皇帝に即位する重要なシーンに、生の音楽を使いたいと言い出し、その音楽を坂本さんに、「今、すぐ作れ!」とオーダーしたのでした。これは、かなり無茶な要求でした。芸大時代に民俗音楽を勉強していたものの、中国の音楽はほとんど聴いたことがなかった坂本さん。知識も、機材もない上に、作曲と録音に与えられた時間は、わずか3日。戸惑う坂本さんに、ベルトルッチ監督が言った言葉、それが冒頭の『エンニオは、どんな音楽でも、その場ですぐに書いたぜ』だったのです。エンニオとは、映画音楽の巨匠、エンニオ・モリコーネ。そんな大物を引き合いに出して、闘争心をかき立てられたら、やらないわけにはいきませんよね?結局、坂本さんは、3日ですべての行程を終え、見事、音楽を完成させたのです。その実績から、坂本さんは、他のシーンの音楽もまかされることになり、最終的には44曲を作曲。実のところ、撮影中、ベルトルッチ監督には、エンニオ・モリコーネから「音楽をやらせて欲しい」と売り込みの電話が入っていたそうです。そんな巨匠からのラブコールを断って、坂本さんにオファーをしたのですから、ベルトルッチ監督が、いかに坂本さんに惚れ込んでいたのかがわかります。そして、「ラストエンペラー」は、アカデミー賞9部門を獲得。坂本さんも、見事、作曲賞を受賞し、これをきっかけに、多くの映画音楽を担当し、『世界のサカモト』と言われるようになったのです。映画音楽の作曲は、シーンに合わせた音楽が求められる、制約が多い仕事。それでも、坂本さんが積極的に取り組むのは、「制約や他者の存在が、自分自身の音楽を発展させることにつながっているから」と著書の中で語っています。自分自身の音楽を、もっと向上させたい・・・。そんな音楽への愛が、坂本さんを大舞台へと、突き動かしているのです。
「ENERGY FLOW」
坂本龍一
「木を植える音楽家」。最近では、坂本さんのことを、こんな風に呼ぶ人がいます。それは、ご自身のコンサートを開催することで生じるCO2の排出量を換算し、その分だけ、CO2を吸収する木を森に植えるという・・・カーボンオフセットを積極的に行っているから。
坂本さんが、環境問題に興味を持った直接的な動機は、子どもたちの世代が、大人になった10年後、20年後の悲惨な世界を、鮮明に想像することができたからだといいます。未来に希望が持てなくなったのは、1990年、ニューヨークに移住してからのこと。翌年におこった湾岸戦争や、ルワンダ紛争のニュースを見て、激しい嫌悪感を抱いたそうです。「アフリカの内戦や飢餓の問題は、結局、環境問題につながっている。」坂本さんのこうした考えは、徐々に深くなっていきました。そして決定的だったのは、2001年に起こったアメリカ同時多発テロ。この時、坂本さんは自宅から外に飛び出し、煙が吹き出すワールド・トレード・センターを肉眼で見て、経験したことのない恐怖に襲われたのです。この時のことを振り返って坂本さんは、「本物の恐怖との遭遇でした」と語っています。早くNYから脱出したい。またいつテロが起こるかわからない。坂本さんは、恐怖におののき、その後、四輪駆動車を買って、1ヶ月分の水と食料を車に詰め込んだといいます。ガスマスクも購入したというのですから、その恐怖がどれほどのものだったのか、容易に想像することができます。こうした経験から、坂本さんは、環境問題や平和問題、さらに、さまざまな社会問題について、意識的に発言するようになったのです。ツアー中、坂本さんやスタッフは、水道水をマイ水筒に入れて、持ち歩いているそうです。それは、水道水を飲むことで、環境を汚してはいけないという意識が高まり、ペットボトルの使用も減らすことができるから。ツアー中にいただく花の多さに気づき、「花の代わりに寄付をしませんか?」と呼びかけ、170万円以上の寄付を集めたこともあります。
『エゴから発生するエコ』坂本さんご自身は、自らのエコ活動を、「安全な食品、キレイな水が飲みたいという欲望を実現させるためのエゴだ」とおっしゃっていますが、その言葉の裏には、自分以外の他者を思う、深い愛が隠れているように思えてなりません。
「風の谷のナウシカ」
坂本龍一&嶺川貴子
“他者とのかかわりが、自らの音楽を発展させる”と語る坂本さん。今はインターネットを使って、新しいスタイルで、多くの他者とコンタクトしています。今年はじめには、韓国でピアノコンサートを開催し、その模様をユーストリームで無料中継して、16万人のユーザーを集めました。パブリック・ビューイングできる会場は400ヶ所以上もあったといいます。ただし、インターネットの普及で多くの人に聴いてもらえる時代であっても、坂本さんにとって、それが音楽をつくる動機ではありません。『顔の見えないユーザーのために音楽を作るのではなく、作りたい音楽があるからやっているのです。』と語る坂本さん。
坂本さんにとって作曲は、次に自分が聴きたいメロディを突き詰めていくこと。坂本さん流に言えば、自分の欲望を実現させるためのエゴ。ただし、そのエゴは、エコのように、多くの人のためになる、愛にあふれたものであることは、間違いないように思います。
今夜は、坂本龍一さんをピックアップしました。
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