2011年06月05日
武田泰淳
『目まいのする散歩』
 (中公文庫)
心の本棚にある、たくさんの名作の中から、今週はこちらをご紹介します。

今週の1冊は、小川洋子さんの愛読書のひとつ武田泰淳さんの「目まいのする散歩」。今から35年前の昭和51年6月に出版された随筆集です。実はこの年の10月5日に武田泰淳さんは亡くなられているので、かなり体調も悪かった中での出版。糖尿病による脳血栓で体に麻痺が残った状態だったため、散歩も奥様の百合子さんと一緒に出かけ、作品も百合子さんが口述筆記をされていたそうです。この本の中にも、死を意識した言葉や情景が出てきます。表題となっている「目まいのする散歩」には、三島由紀夫の死が象徴的に描かれていて、ラストも三島のビラが風に吹きちぎられそうになっているシーン。余韻を残した終わり方の中に、作者の想いが伝わってきます。

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