2017年8月13日

高見順
『死の淵より』
 (講談社文芸文庫)

心の本棚にある、たくさんの名作の中から、今週はこちらをご紹介します。

明治40年福井県で生まれ、高校時代から同人雑誌を創刊し文学を志していた高見順。20代の半ばから本格的に作家として活動を開始します。今回は8月17日の命日を前に晩年の詩集「死の淵より」を味わってみました。この作品は昭和39年、高見順が57歳の時に発表したもの。第1章は食道ガンを患い、手術後8ヶ月の間に手がけた詩が掲載されています。その手術は過酷なもので、爪にガクンとあとが残り、それが消えるのに半年もかかったとか。第1章は「死者の爪」というタイトルの詩からはじまります。食道ガンで死の淵を味わった詩人にとって、生きている実感を味わえるのは、やはり言葉を紡ぎ出している時だったのかもしれません。

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