2019年03月17日

中井英夫
『牧神の春』

(河出文庫 小川洋子の陶酔短篇箱 収録)

心の本棚にある、たくさんの名作の中から、今週はこちらをご紹介します。

中井英夫は1922年(大正11年)生まれ。終戦から1年後の1946年、東京大学在学中に吉行淳之介、嶋中鵬二とともに第14次「新思潮」の編集に携わっています。「新思潮」は20世紀のはじめに創刊された日本を代表する文芸雑誌。過去には芥川龍之介、谷崎潤一郎、川端康成なども参加しています。また中井英夫は短歌雑誌も手がけ、寺山修司など若い才能を見出し育てました。作家としての代表作は「虚無への供物」。この作品は、夢野久作の「ドグラ・マグラ」小栗虫太郎の「黒死館殺人事件」とともに日本推理小説の三大奇書に数えられています。今回取り上げた「牧神の春」は、1970年の夏から1年間、雑誌「太陽」に発表した短篇の中のひとつ。春の時期にあわせて生まれた小説です。

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