2019年08月04日

佐多稲子
『水』

(講談社文芸文庫)

幾代は富山の農家出身で、一昨年の冬から神田小川町の旅館に働きに出ていました。そこに「ハハキトク スグカヘレ」という電報が届きます。しかし旅館の主人にそれを見せても、取り合ってもらえません。そして次の電報が届くと、そこには「ハハシンダ、カヘルカ」とありました。足が不自由で5歳の時に父親をなくした幾代。人生の辛いことも、母とふたりで乗り越えてきました。佐多稲子の水は9ページという短い小説。しかしその中に娘と母親が紡いできた人生の大切なものが描かれています。そして絶望では終わらないラストシーンもみごと。水道の蛇口を閉めるという何気ない行為の中に、幾代の未来を感じることができるのです。

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