2019年11月17日

堀江敏幸
『熊の敷石』
(講談社文庫)

心の本棚にある、たくさんの名作の中から、今週はこちらをご紹介します。

今年の6月、堀江敏幸さんと小川洋子さんによる「あとは切手を、一枚貼るだけ」という本が出版されました。男女の往復書簡のかたちをとった小説集。現在、芥川賞の選考委員もされているお二人。「メロディアス・ライブラリー」でもぜひ堀江敏幸さんの小説を味わってみたいと思い2001年の芥川賞受賞作「熊の敷石」を選んでみました。題名も印象的で、物語の最初の場面も不思議な風景からはじまります。薄暗い山の中に迷い込んでいる主人公の私。最悪の場合このあたりで火を熾して一夜を過ごそう、と思った瞬間、地面が毛虫の絨毯のようにうごめいて足元をすくわれてしまいます。これはいったい現実なのか、それとも夢なのでしょうか?

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