2021年1月17日

梶井基次郎
『冬の日』
(新潮文庫「檸檬」に収録)

心の本棚にある、たくさんの名作の中から、今週はこちらをご紹介します。

梶井基次郎というと、まず浮かぶのが短編小説「檸檬」。不安にさいなまれ、町をさまよい歩く主人公が、果物店で見つけた檸檬。その美しさにひかれ、檸檬を持って京都の丸善へ行き、爆弾に見立てて画集の上に置いてくるという内容です。当時の梶井基次郎は、結核による体調不良から学校を落第。その精神状態が描かれていて、文庫本にしてたった9ページですが、日本近代文学史に残る名作と言われています。そして今回取り上げた「冬の日」は、「檸檬」の発表から2年5ヶ月後の1927年(昭和2年)の作品。結核の病状はさらに悪くなり、焦りと絶望感が冬へと向かう季節の描写と重ね合わせて綴られています。

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