2021年1月17日

梶井基次郎
『冬の日』
(新潮文庫「檸檬」に収録)

主人公の窓から見える季節の描写、自分の吐いた痰の色、路上の石粒の影をエジプトのピラミッドにみたて、そのすべてに悲しみが宿っているような作品。ふるさとから届いた手紙には、息子を案じる母の苦しみが綴られ、彼の弟も妹も、すでに病で亡くなっています。クリスマスが近づく頃、あてもなく銀座をさまよい、連れもなくお金も健康も持っていない虚しさ。どのページにも絶望が満ちていますが、しかしその絶望には儚い美しさを感じます。「檸檬」と同じように文学史に残る名作。しかし残念なことに、「冬の日」を発表してちょうど5年後、そしてはじめての創作集「檸檬」を刊行した翌年、梶井基次郎は肺結核のため31歳という若さで亡くなっています。

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