2021年2月28日

斎藤茂吉歌集(岩波文庫)

斎藤茂吉の処女歌集「赤光」の中で特に知られているのは「死にたまふ母」という題名の連作短歌です。大正2年5月、実の母の危篤の知らせを受け、ふるさと山形に戻った茂吉。母を看取り埋葬したあと、残された家族で温泉に行くまでを連作短歌で表現しています。そのひとつが「死に近き母に添寝のしんしんと遠田のかはづ天に聞ゆる」。母親の死という誰もが経験することだからこそ、多くの人の心にその静かな悲しみが伝わってきます。斎藤茂吉は「実相観入」という短歌の写生理論を唱えました。表面的な写生にとどまらず、対象に自己を投入して、自己と対象がひとつになった世界を具象化するということ。だからこそ時代を超えて残っていくスケールの大きな短歌が生まれたのではないでしょうか?

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