2021年3月7日

柳美里
『JR上野駅公園口』
(河出文庫)

物語の主人公は、昭和8年、天皇と同じ日に福島県相馬郡の矢沢村に生まれました。東京にはじめて出稼ぎにやってきたのは、東京オリンピックの前の年である昭和38年の暮れ。オリンピックで使う陸上競技場など体育施設の土木工事をおこなう仕事に就いたのです。家族とも離れ、高度経済成長の中、彼はどんな人生を歩んでいくのか?柳美里さんがこの小説を書くきっかけは、2006年にホームレスの方々の間で「山狩り」と呼ばれる「行幸啓」直前に行われる特別清掃を取材したことだったそうです。そしてその5年後に起きた東日本大震災。福島県南相馬へ通うことで育んだ地元の方達との絆。上野と南相馬、このふたつがつながることで、様々な人たちの「痛み」を共有するような小説が完成したのです。

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