2021年9月26日

庄野潤三
『ザボンの花』
(講談社文芸文庫)

麦畑が広がり、近くに小川があり、広い空の下で育つ子供たち、電気料金の集金や牛乳屋さんが家に来る描写。「ザボンの花」には昭和の家族の風景が描かれていて、読者も自分の記憶と重なる懐かしさがあふれています。ちなみに庄野潤三さんは大阪のご出身で、1951年(昭和26年)に朝日放送に入社。その2年後、東京支社に転勤。大阪のお母さんに、自分の家族が新しい場所でどんなふうに暮らしているかを知らせるつもりで「ザボンの花」を書いたそうです。その後も「静物」「夕べの雲」など家庭の暮らしをテーマにした小説を発表されている庄野さん。戦後の日本文学で家庭小説というジャンルにこだわった作家で、その原点になるのが「ザボンの花」です。

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