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村上RADIO~言語交換ソングズ~

村上RADIO~言語交換ソングズ~

今晩は、村上春樹です。
村上RADIO、今日はちょっとテーマソングが違いますけど、ワイルド・ビル・デイヴィス(Wild Bill Davis)のオルガンで聴いてもらっています。いつもと感じが違いますよね。
これはかなり古いレコードです。ジャケットの裏に踊り方のステップが描いてあって、さっき僕もちょっと踊ってみたんだけど、なかなかいいですよ、Madison Timeのダンス。わりと簡単なんです。ぜひやってみるといいと思います。

今日は「言語交換ソングズ」という特集です。日本の歌手が外国語の歌を日本語で歌う、外国の歌手が日本語の歌を外国語で歌う。そういう中から興味深いもの、素敵なものを選んでみました。
僕は翻訳の仕事をしているので、昔から言語の交換性・互換性みたいなものにすごく興味があります。歌詞の言語が変わると、音楽自体の印象もずいぶん変化します。面白い効果が生まれ、これまでにはなかった魅力が見えてくることもあります。今夜はそういう“イクスチェンジ(交換)”をまとめて楽しんでいただければと思います。結構変なものもかかりますよ。
Madison Time Part 1
Wild Bill Davis And His Orchestra
Dance The Madison
Everest
One Big Wave
Timothy B.Schmit
Mid-Summer Blossoms3
Sony Records
Fish
Jeffrey Foskett
The Best Of Jeffrey Foskett
Pioneer
まずは日本のポップスの両巨頭、というべきか、サザンオールスターズの桑田佳祐さんと山下達郎さんの曲から行きます。
桑田佳祐さんの『忘れられたBig Wave』を元イーグルスのオリジナル・メンバー、ティモシー・B・シュミット(Timothy B.Schmit)が歌います。英語題は“One Big Wave”。
それから山下達郎さんの『踊ろよ、フィッシュ』をジェフリー・フォスケット(Jeffrey Foskett)が歌います。英語題は“Fish”。Jeffrey Foskettは自己名義でも何枚かアルバムを出していますが、ビーチ・ボーイズやブライアン・ウィルソンのバンドのメンバーとして、ステージではブライアンのファルセット部分を受け持っていた人ですね。ブライアンがもう高音部を歌えないので、代わりに歌っていたんだけど、その受け渡しが実にスムーズで、いつも感心していました。どちらの曲も英語で歌われてもぜんぜん違和感ありませんね。二曲続けて聴いて下さい。
(曲中:「最初この曲が山下達郎さんの曲だって知らなかったんです。でもクレジットを見たら、Tatsuro Yamashitaと書いてあって、えっ!と思って」)
Yozora No Mukou
綾戸智恵
Life
EWE Records
前の二曲はアメリカ人の歌手が日本のポップ・ソングを歌うということだったんだけど、今度は日本人の歌手が日本の歌を英語で歌うという、少しばかり交錯したイクスチェンジになります。綾戸智恵さんがスガシカオさんの名曲『夜空ノムコウ』(作詞スガシカオ・作曲川村結花)を英訳詞で歌います。どんな風になるか、聴いてみてください。

原曲とは雰囲気が違いますよね。僕は一度、かなり前なんだけど、青山のジャズクラブで綾戸智恵さんがこの曲を歌ったのを、すぐ目の前で聴いたことがあるんですが、迫力があってソウルフルで、とても素敵だったです。
My Back Pages
真心ブラザーズ
Masked And Anonymous: Music From The
Columbia
日本人の歌手が外国の曲を日本語で歌ったものは、それこそ山ほどありますが、歌詞を忠実に訳したものとなると、けっこう少ないです。というのは、歌詞を忠実に訳すと言葉が多くなりすぎて、だいたいにおいて日本語がうまくメロディーに乗らない。だから結果的に、オリジナルの歌詞の内容がずいぶん削られてしまうことになります。
でも真心ブラザーズが歌ったこのボブ・ディランの“My Back Pages”は、その字余り性を逆手にとって、とても面白い効果を上げています。オリジナルの歌詞に忠実でありながら、しかもすごくディランっぽい音楽を作り出しています。
浜っ子伝説 (RADIO EDIT)
王様
『浜っ子伝説~ビーチボーイズ日本語直訳メドレー』
ファンハウス
オリジナルの歌詞に忠実と言えば、なんといっても「王様」です。直訳ソングで有名な人ですが、今日は「王様」の歌うビーチボーイズ・ソングズ・メドレーを聴いて下さい。本当はもっと長いんだけど、今日は短めの“RADIO EDIT”をかけます。直訳だと“Surfin’ U.S.A”が「波乗り米国」で、“Good Vibrations”が「いい振動」になります。素敵ですね。
王様は直訳が売りなんだけど、音楽自体もとてもしっかり綿密に作られています。このビーチボーイズカバーなんかも、すごく技術の高いアレンジメントですよね。
Sukiyaki(上を向いて歩こう)
Bobby Vee
30 Big Hits Of The 60's
Liberty
Ashitaga Arusa(明日があるさ)
Inner Circle
ダ・カヴァーズ〜イッツ・ダ・ニュー・ベスト
Wea
次は坂本九さんを二曲行きます。まずはボビー・ヴィーの歌う“Sukiyaki”(スキヤキ)、つまり「上を向いて歩こう」(作詞永六輔・作曲中村八大)です。このヴァージョンはメドレーの中の一曲として入っているので、耳にしたことのある方はあまりいないのではないかと思います。フェイド・イン、フェイド・アウトで聴いて下さい。かなり短いです。それからレゲエ・バンド「インナー・サークル」の歌う“Ashitaga Arusa”、「明日があるさ」(作詞青島幸男・作曲中村八大)”。なにしろレゲエですから、原曲とはいくぶん雰囲気が違います。でもこの曲のもともとの明るい楽天性みたいなものが出ていて、良いです。

「上を向いて歩こう」はアメリカでは「スキヤキ」というタイトルでヒットしました。「上を向いて歩こう」だと発音が難しいので、「めんどくせえや」みたいなことで、「スキヤキ」になっちゃったんです。まあ、ひどい話だとは思うけど、結果的に大ヒットしたからよかったです。僕はこの「スキヤキ」のための歌詞を書いたことがあるんです。
「上を向いて食べよう、シラタキがこぼれないように」っていうんですけど、くだらないですね(笑)。

「明日があるさ」……でも明日があると思っているうちに、人は中年になり老年になっていくんだよね(笑)。だからといって「明日なき暴走」がいいかっていうとこれも問題があるから、むずかしいけど。
ROMANCE
坂本龍一
Beauty
Virgin
次は、坂本美雨さんのお父さん、坂本龍一さんの演奏です。
スティーブン・フォスターの名曲「金髪のジェニー」を沖縄音楽風にアレンジして、オキナワチャンズが日本語、それも沖縄方言で歌います。題は“ROMANCE”になっています。
Sho-Jo-Ji (The Hungry Raccoon)
Eartha Kitt
Eartha Kitt BEST SELECTION
RCA
フォスターの音楽の次は、今度は日本のトラディショナル、というか童謡「証城寺の狸ばやし」(作詞野口雨情・作曲中山晋平)を、アメリカ人の歌手アーサ・キットが歌います。これ、昔ずいぶん流行ったんだけど、最近はあまり聞かないので、若い人はたぶん知らないんじゃないかな。だからかけてみますね。とてもオリエンタルというか、奇妙なアレンジなんだけど、今聴いてみるとラウンジ風でなかなかいいです。ちなみに、この歌のもとになった「證城寺(しょうじょうじ)」って、千葉県の木更津にあるんですね。行ったことないですけど。
この歌詞では、ショジョージというのは、一匹のアライグマの名前になっています。アメリカには狸がいないので、アライグマにされちゃったんですね。
このアライグマはいつもお腹を減らせていて、それで「コイコイコイ」って歌うんです。可愛いです。
We Can Work It Out(猫山さんと羊谷さんも参加しています)
The Beatle Barkers
The Exotic Beatles - Part One
Exotica Records
次は極めつけというか、言語の垣根をあっさり跳び越えて歌われるビートルズの“We Can Work It Out(恋を抱きしめよう)”です。あまりの大胆さに文字通り言葉を失います。とにかく聴いてみてください。
Trois Gymnopedies
The Camerata Contemporary Chamber Group
Eric Satie; Gymnopedie #Ⅲ #Ⅱ #Ⅰ
Deram
これは“The Camerata Contemporary Chamber Group”という団体が1970年に出したエリック・サティ(Eric Satie)の作品集です。シンセサイザーなんかも取り入れてるユニークな楽団で、僕もこの演奏が好きだったんだけど、なぜかまったくCD化はされていないみたいですね。オリジナルのLPで聴いて下さい。
今日の最後の言葉は、ブルース・スプリングスティーンです。彼が「明日なき暴走」をヒットさせて、ロック・スターになったあと、どんなことを思ったか?ちっと長いですが、聞いて下さい。

「『明日なき暴走』のあとで僕が感じたのはリアルな責任感だった。自分が歌っているものと、オーディエンスに対する責任だ、僕はその責任と共に生きていかなくてはと思った。そして僕はそこに飛び込んでいった。真っ暗闇の中に足を踏み入れ、あたりを見回し、そこで僕が知っているもの、僕に見えるもの、僕が感じることについて曲を書きたいと思った。僕らの足下から簡単には消え去らないものごとに結びつく、大事な何かを見つけたいと思った」

彼のそういう気持ち、同じ表現者としてと言うとおこがましいですが、僕にもリアルによくわかります。実は、僕はブルース・スプリングスティーンと同じ年の生まれなんです。ついでに言うと菅官房長官も同い歳です。しかしブルースと菅ちゃんと同い歳というのは混乱するというか、なんか戸惑いますよね。自分の立ち位置がよくわからなくなるというか……まあ、どうでもいいんですけど。
それでは今日はここまで。

スタッフ後記

スタッフ後記

  • 「こんなときに僕にできるのはどんなことだろうと、日々考え込んでしまいます。音楽や小説みたいなものが、ほんのわずかでもみなさんの心の慰めになればいいのですが。」ジャズバーを経営していた春樹さんの言葉が心に響いた飲食店関係の方も多いと思う。前テーマは恒例のマディソンタイム(Madison Time)だが、今回はワイルド・ビル・デイヴィス(Wild Bill Davis)のオルガンバージョンを春樹さんが持ってきた。ステップの仕方がジャケットに描かれている。「わりあい簡単だよ」。収録前スタジオで春樹さんがステップを踏み、僕らも習った。楽しくなった。なるほど音楽ってたいしたものだ。日本人が外国曲を日本語で、また外国人が日本の曲を外国語で歌う「言語交換ソングス」特集。真心ブラザーズが歌うボブ・ディラン(Bob Dylan)の“My Back Pages”を聴いて、その昔吉田拓郎もディランに影響を受けていたんだなぁと気づいた。そう言うと春樹さんもにっこり。聴き方を変えるとミュージックツリーも想像できる。音楽はこうして時を超越するものなのですね。(延江ゼネラルプロデューサー)
  • 村上DJが選んだ“Sukiyaki(上を向いて歩こう)”“明日があるさ”、そして“We can work it out”。その旋律と歌詞に励まされる日々です。カフカ少年の「僕がほしいのは、ものごとに静かに耐えていくための強さです」(『海辺のカフカ』)や「私は時間を味方につけなくてはならない」(『騎士団長殺し』)という言葉も胸に響きます。村上RADIOが奏でる音のかけらが、ささやかでも皆さんへの励ましになりますように。(エディターS)
  • 今回の「村上RADIO」は、言語交換ソングズ。原曲の歌詞を別の言語で歌ったカバー曲特集でした。「Language is a Virus」という曲がありますが、今回流れた音楽は、いい意味で文化が海を越えて伝播していく様が聴き取れて、それぞれの解釈に微笑ましくなります。伝播してきたものに対して、対立じゃなく共存できている素敵な音楽を、楽しんでいただけると嬉しいです。(キム兄)
  • 言語交換ソングの収録は3月中旬でした。それから1か月が過ぎ、世の中の景色が一変してしまいました。春樹さんからは、ご自宅で、ご自分で録音したメッセージを番組に託されました。番組の冒頭でご紹介しましたが、聞いて頂けたでしょうか。こんな時こそ、いい小説や、いい音楽や、いいラジオ番組がリスナーの皆様の心を少しでも明るくできるように、そして、慰めになれればと思います。(レオP)
  • いい歌は歌詞の意味がわからなくても世界共通で心が動かされるものですね。家に閉じこもりがちになり、人と人とのつながりを感じにくくなっている昨今ですが、、いろんな言語で歌われる名曲たちを聴いていると、国籍や話す言葉に関係なく、”人間”としての共通の意識を持てるよな気がしていいですね。(CADイトー)
  • 自宅で過ごす時間が多い日々。村上作品を読み返す絶好の機会です。世の中は「世界の終り」のような有様ですが、「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」では、一見ちょっと頼りない主人公が世界の終りをめぐって大冒険を繰り広げます。ちょっと頼りないわたしたちに希望と勇気をくれる一冊です。(構成ヒロコ)

村上春樹(むらかみ・はるき)プロフィール

1949(昭和24)年、京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。’79年『風の歌を聴け』(群像新人文学賞)でデビュー。主な長編小説に、『羊をめぐる冒険』(野間文芸新人賞)、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(谷崎潤一郎賞)、『ノルウェイの森』、『国境の南、太陽の西』、『ねじまき鳥クロニクル』(読売文学賞)、『海辺のカフカ』、『アフターダーク』、『1Q84』(毎日出版文化賞)、最新長編小説に『騎士団長殺し』がある。『神の子どもたちはみな踊る』、『東京奇譚集』、『パン屋再襲撃』などの短編小説集、『ポートレイト・イン・ジャズ』(絵・和田誠)など音楽に関わる著書、『村上ラヂオ』等のエッセイ集、紀行文、翻訳書など著訳書多数。多くの小説作品に魅力的な音楽が登場することでも知られる。海外での文学賞受賞も多く、2006(平成18)年フランツ・カフカ賞、フランク・オコナー国際短編賞、’09年エルサレム賞、’11年カタルーニャ国際賞、’16年アンデルセン文学賞を受賞。