MURAKAMI RADIO
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村上RADIO ~村上の世間話6~

村上RADIO ~村上の世間話6~

こんばんは。村上春樹です。村上RADIO、今夜はまたまた村上の世間話、これで6回目になります。あくまで気楽な話なので、あくまで気楽に聴いてください。素敵な音楽もかかります。日曜日の宵(よい)、脳に溜まったしこりみたいなものを洗い落としていただけると嬉しいです。でも、うっかり脳の本体まで落としちゃわないでくださいね。脳が減ってくると、「脳減る賞」がもらえちゃったりしますので……みたいなだるい冗談を言っている場合じゃないんですけどね。ニャーオ(猫山)

<オープニング曲>
Donald Fagen「Madison Time」


明けましておめでとう、お餅が焼けたよ……なんて気楽なこと言っているうちに、気がついたらもう1月も終わりかけているんですね。時間の流れの速さにうまくついていけなくて、困ってしまいます。その昔、「せまい日本、そんなに急いでどこへ行く?」という交通標語がありましたが、本当に時間はそんなに急いで、いったいどこに行くんでしょうね。ちょっと呼び止めて「どこに行くんですか?」とか聞いてみたいけど、きっと答えてはくれないでしょうね。でもそれはそれとして、日本ってそんなに狭いんですかね? けっこう広いような気がするんだけど。
Killing Me Softly With His Song (Live At The Brixton Academy)
Fugees (Refugee Camp)
Bootleg Versions
Columbia
まず1曲聴いてください。
フュージーズが歌います。「Killing Me Softly With His Song」。
 *
今を遡る1976年のことですが、当時のソビエトの空軍中尉、ヴィクトル・イヴァノーヴィチ・ベレンコさんが当時最新式のミグ戦闘機25を操縦して北海道に亡命しました。函館空港に強行着陸したんです。機体はアメリカ軍と自衛隊に徹底的に調査されたあとソビエトに返還され、本人はアメリカに亡命したのですが、一昨年の9月に76歳で亡くなられました。

その死亡記事を見ていて、はっと思い出したのですが、その亡命事件があったすぐあとで、札幌のとあるストリップ劇場が「ベレンコ中尉もこれ見てデレンコ」という看板を出したという記事をどこかで読んだことがあります。しかし、しょうもないことをよく覚えているもんですよね。半世紀近く前のことなのに。

でれんこ。だらだらとした気合いの入ってない状態のことですね。「でれんこでれんこ歩いてんじゃねえや」みたいな使い方をされます。でも僕は、そのときまでこの言葉を耳にしたことが一度もありませんでした。調べてみると、茨城弁あるいは栃木弁ということです。反対語は「てってこてってこ」というんだそうです。

しかし、なかなか可愛げのある言葉ですよね。「今日はでれんこしちゃおうかな」とか、つい使いたくなります。ちなみにベレンコさんはアメリカで市民権を与えられましたが、ソビエトの工作員による暗殺を恐れて、名前や居住地をしょっちゅう変えて生活していたんだそうです。あまり、でれんこできなかったんでしょうね。気の毒です。
Lonely Town
Chris Connor
A Jazz Date With Chris Connor / Chris Craft
Rhino Records
クリス・コナーの歌で聴いてください。「ロンリー・タウン」、レナード・バーンスタインのつくった美しい曲ですね。途中で入るヴァイブラフォンのソロはエディ・コスタです。
 *
僕はボストンのフェンウェイ・パーク球場で、エンゼルス時代の大谷翔平のプレイを観たことがあります。三塁側の、ホームベースから割と近くの席でした。それで彼の打席を間近で目にしてびっくりしたのですが、何しろスイングがめちゃめちゃ速いんです。風を切るビュンという、うなりが聞こえるくらい速い。あの速さはテレビで観ていては実感できないですね。驚異的です。あんな鋭いスイングでよく厳しい変化球に対応できるものだと感心してしまいました。きっと動体視力が優れているのでしょうね。

動体視力といえば、ベーブ・ルースは78回転しているSPレコードのラベルの細かい字を、楽にすらすら読み取ることができたそうです。信じられないですね。僕なんか33回転のLPレコードの字だってなかなか読み取れません。まあ、それだけの視力が具(そな)わっていたからこそ、飛んでくるスピードボールの球筋を瞬時に見極めて、バットにガツンと当てることができたんですね。

このあいだテレビを観ていたら、アメリカ大リーグのある有名選手が「どうやったらあなたのようにたくさんヒットを打つことができますか?」という小学生からの質問に答えていました。彼が言うには「ピッチャーがボールを投げてくるじゃない。そうしたらさ、フィールドをざっと見回して、どこに隙間があるかを見定め、そしてそこをめがけて打球を飛ばせばいいんだ」。うーん、言わんとすることはわかるけど、そんなこと言われても簡単には実行できないですよねえ。一流のプロというのは何ごとによらず本当にすごいなあと感心してしまいました。
I'm Gonna Love You Just A Little More, Baby
Barry White
All-Time Greatest Hits
Mercury
ときどきバリー・ホワイトの艶やかな低音が聴きたくなります。聴いてください。I'm Gonna Love You Just A Little More,Babyです。バリー・ホワイト、RIDE ON!
 *
野球の話の続きですが、アメリカにピッツバーグ・パイレーツっていう野球チームがありますよね。僕は常々疑問に思っていたのですが、ピッツバーグのあるペンシルベニア州は海にまったく接していません。なのにどうして「パイレーツ=海賊たち」なんて名前がついたんだろうと。
考え始めると夜も眠れない……というほどでもないんですが、とにかく調べてみますと、このチーム、もともとは「アレゲニー・ベースボール・クラブ」といったんですが、よそのチームから強引に優秀選手を引き抜くことで悪名をはせ、「盗人」「海賊」と非難され、それをそのままチーム名にしちゃったんだそうです。「ふん、知ったことか」とね。開き直りっていうか、すごい根性ですね。1891年のことですが。

それから、これはプロ・バスケットボールの話になりますが、「ユタ・ジャズ」っていうチームがありますね。でもユタ州は決してジャズが盛んな土地ではありません。なのになんで「ジャズ」なんていう名前がつけられたのかと疑問に思っていたのですが、このチーム、もともとはニューオーリンズにあったんです。でも営業的に思わしくなく、1971年にユタ州ソルトレイクシティに本拠地を移転しました。でも名前は「まあ、いいか」的に「ジャズ」のまま留まりました。

似たところでロサンジェルスの「レイカーズ」も不思議なチーム名です。レイカーズ、湖の畔(ほとり)に住む人々のことですね。しかし南カリフォルニアには湖なんてほとんどありません。調べてみますと、このチーム、もともとはミネソタ州ミネアポリスが本拠地だったんです。たしかにミネソタは湖の多いところです。氷河に削られた窪地に水が溜まって湖になりました。それが1960年にロサンジェルスにチーム丸ごと引っ越したんだけど、でも名前はなぜかそのまま「レイカーズ」に留まりました。
まあ、みんなどうでもいいようなことなんですけど、僕はわりにそういうことをいちいち不思議に思って、調べるのが好きな性格みたいです。
I'm Beginning To See The Light
Louis Armstrong & Duke Ellington
The Great Summit - The Master Takes
Roulette Jazz
ルイ・アームストロングがデューク・エリントン楽団をバックに歌います。「希望の明かりが見えてきた(I'm Beginning To See The Light)」。
 *
この前の回の世間話で、東京の表参道にあった鰻屋さんの話をしました。いつも猫がのんびり昼寝をしている鰻屋さんですね。
鰻屋さんにいくと、だいたい、うな重は「松・竹・梅」みたいなランクに分かれています。値段は松がいちばん高くて、梅がいちばん安い。余りお金がない頃、僕はいつも当たり前に梅を注文していました。何の迷いもなく。でも、いくらか生活に余裕ができてからは、ひとつランクアップして竹を注文するようになりました。多少後ろめたい気持ちはあったけど、「ま、いいか」みたいな感じで。でも、もっと歳をとって、さらにもう少し余裕が出てきてからも、「松」にいけないんですよね。今日こそ「松」を頼もうと思って鰻屋さんに入っても、つい「竹」を頼んでしまいます。決して気が弱いわけじゃないんだけど、どうしても上から二番目あたりが、気分的にいちばん落ち着くみたいです。何ごとに寄らず、いちばん上というのはどうも居心地がわるい。どうも気恥ずかしくて「松」を頼めない。これはひょっとしたら、育った環境のせいかもしれません。

僕は穏やかな住宅地の、中産階級まっただ中みたいな、けっこう「ぬるい」環境で一人っ子として育ったせいか、積極的に人より前に出る、人より上に行く……ということが苦手みたいです。自分のペースで、自分の好きなことをこつこつとやるのは、なにより得意なんですけどね。というわけで、そのせいかどうか知りませんが、僕は鰻屋さんで永遠に「竹」を注文し続けることになるかもしれません。まあ、それも人生なんだろうけどね。

ちなみに僕は昔、駅伝チームを持っていました。うちのアシスタントと編集者有志の混合チームだったのですが、これの名前が「梅竹下ランナーズ」でした。「梅」クラスと、「竹の下」クラスのランナーが集まったチームだったんです。それでも、いろんなレースに出て、わりかし健闘しました。
Crazy Love
Maxi Priest
Inna Reggae Stylee - Classic Songs In A Reggae Groove
EMI Records
たまにはレゲエを聴きましょう。マキシ・プリーストが歌います。「クレイジー・ラブ」

<収録中のつぶやき>
僕がこの前入った鰻屋は、梅が一番高くて、松が一番安いの。頼むとき、「松!」って頼むとかっこいいじゃない、なんか。そこだと梅を頼めるかなあ。

このあいだお風呂に入っているときに、「そうだ、今日は耳たぶをちゃんと洗わなくちゃ」と思い立ちました。僕はお風呂に入って身体を洗っても、なぜか耳たぶを洗うことをよく忘れちゃうんです。だから思いついたときに、わりに念入りにゴシゴシと石けんで洗います。それで湯船につかって、ツルツルに洗い終えた耳たぶを指で撫でていて、そこでふと気がついたんだけど、僕の耳たぶって、左右で大きさがはっきり違うんです。左がたっぷりしていて、大柄で肉付きもよく、右はコンパクトで硬めです。僕はもうこの世に生を受けて七十数年になるのですが、そんなことを今になって初めて発見しました。うーん、なんか不思議なものですね。自分の顔なんて毎日、洗面所の鏡でいやというほど眺めているはずなのに、左右の耳たぶの大きさにこんなに差があることに、これまでまったく気づかなかった。
僕はイヤリングもつけないし、ピアスもつけないので、耳たぶの大きさが左右で違っていても、現実的にはとくに何の支障もないわけですが、しかしどれだけ歳をとっても、内省(ないせい)や観察を重ねても、自分自身に関して知らないこと、わからないことはまだまだたくさんあるんだなあと、感慨に打たれました。
さて、みなさんの耳たぶの具合はいかがでしょう? 左右で大きさは違っていますか? しかし耳たぶっていったい何のためについているんでしょうね? 日常生活でとくに何かの役に立っているとも思えないんだけど……。
Dance Tonight
Paul McCartney
Memory Almost Full
Hear Music
ポール・マッカートニーが歌います。「ダンス・トゥナイト」。マンドリンのイントロがいいです。
 *
「七つの子」という童謡がありますね。「カラスなぜ鳴くの? カラスは山に、かわいい七つの子があるからよ」という歌です。作詞は野口雨情(のぐち・うじょう)。僕はこの歌を耳にするたびにいつも考え込んでしまうことになります。七つの子っていったい何だろう、と。巣に七羽の子どもがいるともとれるし、また七歳の子がいるともとれます。でもカラスってだいたい一度に三、四羽の子どもしか生んで育てないようです。七羽も子どもがいたら、とてもその面倒は見切れないから。またカラスが七歳ともなれば、かなりでかくなっていますし、とても「かわいい子ども」とは言えないはずです。いったいどういうことなんでしょうね?

作詞をした野口雨情さんに直接問いただしてみればいちばん早いんでしょうが、雨情さんは遙か昔、1945年に亡くなっています。それで、その「七つの子」の謎を巡ってこれまでに学者の間で長年にわたって論争がおこなわれてきたんだそうです。「七歳というのは人間の子どもがいちばん可愛い盛りであり、カラスにもそれと同じくらい可愛いと思える年頃の子どもがいるんだよ」という解釈もあるし、何らかの事情で実際に七羽の子どもがいるんだという説もあります。学者というのは本当にいろんなことを巡って論争するものですね。何を考えて鳴こうが、それこそカラスの勝手なんでしょうが。

でもね、僕は思うんですが、雨情さんは理屈がどうであれ、とにかく「七つ」という言葉が使いたかったのではないでしょうか? カラスが通常、何羽子どもをつくろうが、何歳で大人になろうが、そんな生物学的事実には関係なく、ただ「七つ」という言葉の響きに心を強く惹かれたんじゃないでしょうか? ふと、そんな気がします。詩人って、時としてそういう無謀・勝手なことをしますからね。
でもこれ、とくに根拠のない僕の個人的な憶測ですので、どうか論争とかに巻き込まないでくださいね。正直言って、別にどっちでもいいんです。
Talk About The Passion
R.E.M.
Eponymous
I.R.S. Records
久しぶりにR.E.M. をかけます。初期のものですね。「Talk About The Passion(情熱について語る)」
 *
これもまたまた童謡の話になりますが、昔作られた童謡って、古い言葉が使われているせいで、今となっては、よく意味がわからんというものがありますよね。たとえば「村の鍛冶屋(かじや)」という歌がありますが、今の子どもは鍛冶屋がどういうものかなんてわかりません。そういう職業自体がもう存在しなくなっちゃったわけだから。だからこの歌は小学校の音楽教科書から外されたということです。残念ですね。

僕は毎日朝早く起きて、机に向かってこつこつと小説を書いているときに、よくこの歌を思い出したものです。「しばしも休まず、槌(つち)打つ響き……」。自分を勤勉な村の鍛冶屋に見立てて、僕も頑張らなくちゃ……と自分を叱咤激励(しったげきれい)していました。
それからこれは以前ホームページを運営していたときに、ちょっと話題になった問題ですが、「赤い靴」という童謡がありますね。「赤い靴はいてた女の子、異人(いじん)さんに連れられていっちゃった」、これも「七つの子」と同じ野口雨情の作詞になるものです。

異人さん、つまり異邦人、ストレンジャー、外国人のことですが、今ではもうほとんど使われてない死語なので、意味のわからないまま歌っている子どもたち、間違った解釈のもとに歌っている子どもたち、あるいはそれがそのまま大きくなった大人たちがけっこうたくさんいました。

解釈の間違いでいちばん多かったのは「いい爺さん」でした。いい爺さんに連れられていっちゃった……のならまあいいか、とか思うんだけど、暗い裏道に来たら「いい爺さん」ががらりと豹変して、ひひひ……なんてことも起こりますので、注意しなくてはね、人は見かけによりません。

また「イージーさにつられていっちゃった」というかなり現代風の解釈もありました。これもまた怖いですね。「これって、なんかラクじゃん」みたいなことでふらふらと、よく知らない誰かにイージーについていったら、とんでもない目に遭わされるかもしれません。世の中、おっかないです。
Miss America
Dante & Friends (The Evergreens)
Drummin' Up A Storm - The Imperial Records Story
One Day Music
The Sweetest Sound
Elsie Bianchi
The Sweetest Sound!
ジャパン ジャズ クラブ
ダンテ&フレンズが歌います。「Miss America」。これはビーチ・ボーイズの歌で知られるようになったのですが、オリジナルはこちらです。
  *
つけ麺ライダーさん 49歳男性、愛知県の方からメールをいただきました。つけ麺ライダー、僕が差し上げたラジオネームですね。使っていただいてありがとうございます。ちょっと古くなりますが、10月に放送した「ローリングストーンズ・ソングブック」回への感想です。
<ストーンズのリフ話、おもしろかったです。ところで僕の知る限り、春樹さんからレッド・ツェッペリンの話を聞いたことないのですが、ツェッペリンに関しては、どのような見解でしょうか? ちなみに、ジミー・ペイジは、最近のおじいちゃんになってからの日本人ぽい顔が好きです>
はあ、見解ですか……。ツェッペリンねえ。若い頃もちろんしっかり聴いていますが、僕の守備範囲からはいくぶん外れているかなあ……という感はあります。僕がレコード店でバイトしている頃、「移民の歌」が店頭でやたらかかっていました。店長がツェッペリン好きだったんです。「あ、ああー」というイントロが今でも耳にしっかり残っています。

何年か前にレッド・ツェッペリンのベーシスト、ジョン・ポール・ジョーンズが自分のバンドを組んで日本に来まして、新宿のライブハウスで演奏したのですが、そのときに知人から「ジョン・ポール・ジョーンズがムラカミに会いたがっている」という話がありまして、僕もちょうど暇だったんで、聴きに行きました。

それで、何か手土産がいるなあと思って、いつも行く鮨屋で太巻きを巻いてもらいました。ここの太巻き、なかなかうまいんです。「これは、これからジョン・ポール・ジョーンズにお土産に持って行くんだよ」と話をしたら、職人さんがツェッペリンの大ファンで、「おれも実はベース弾きなんです」ということでした。「心を込めてしっかり巻きますから、ジョンジーさんによろしくお伝えください」

で、楽屋でジョンジーさんに太巻きを渡すときに、そのことを伝えたら「おお、そうか、ありがとう。心して食べるよ」ということでした。音楽にはほとんど関係ない話なんですけど。
それではレッド・ツェッペリンの「移民の歌」を聴いてください……と言いたいところですが、かけません。すみません。ぜんぜん関係なく、エルジー・ビアンキがピアノを弾いて歌います。「The Sweetest Sound」。
Stardust
Clifford Brown
Clifford Brown
EmArcy
今日のクロージング音楽はクリフォード・ブラウンの演奏する「スターダスト」です。本当に才能豊かで革新的なトランペッターだったんですが、1956年に交通事故で亡くなってしまいました。まだ25歳という若さでした。とても残念なことです。もし彼がもっと長生きしていたら……というのはジャズの歴史の中で最も重い仮説の1つになっています。
今日の言葉はアメリカの小説家E・L・ドクトロウ(Edgar Laurence Doctorow, 1931 - 2015)の言葉です。彼はこう言っています。


「小説を書くのは、夜中に車を運転しているようなものだ。ドライバーが現実に目にできるのは、ヘッドライトに照らされた領域でしかない。しかしそれでもなんとか目的地にたどり着くことはできる」
なかなかうまいたとえですね。実際の話、長編小説を書いているときって、まさにこういう感じなんです。今現在書いている部分の意味はいちおう把握できてはいるんだけど、それが先になってどのように発展していくのか、結末に本当にうまく結びついていくのか、ほとんどの場合、書いている本人にも、もうひとつよくわかりません。でも、とにかく見えている現在地を、力を尽くして注意深く、的確にこなしていくしかない。何より大事なのは、自分の本能を信じること。そして物語の生来(せいらい)の力を信じることです。えばるわけじゃないですけど、長編小説を書くのって、けっこう大変な作業なんです。でも、だからこそ楽しいんですけどね。こういうの、AIにできるかなあ。

それではまた来月。

スタッフ後記

スタッフ後記

  • 「赤い靴」の歌詞の勘違いの話がありましたが、自分は小さい頃、岩手出身のおじいさんに「さるかに合戦」の絵本を読んでもらったせいで、大人になるまで上から落ちてくるのは牛だと思ってました。「臼(うす)」と「牛(うし)」、ズーズー弁のさ行は聞き分けが難しいですね。(CAD伊藤)
  • 「村上の世間話シリーズ」も6回目。年の初め、選曲もトークも楽しい回になった。MLBピッツバーグ・パイレーツやNBAユタ・ジャズのチーム名の由来、レッド・ツェッペリンをめぐるリスナーの質問に貴重なエピソードで答える村上さん。隠れた名著『そうだ、村上さんに聞いてみよう』を思い出した。「世間」という言葉は、社会でも世界でもない日本的な概念だが、どこかラジオ的でもある。今年も音楽とリスナーと村上DJがつくり出す「楽しい時間」を!(エディターS)
  • 今回の村上RADIOは、6回目となる「世間話」。バリー・ホワイトの艶やかな低音ボイスに酔いしれながら、耳たぶと亡命と松竹梅について考えます。(キム兄)
  • 78回転のレコード盤をすらすら読んだというベーブルース。いやあ信じられない動体視力ですね!読んでるうちに目が回ったりしなかったんですかね。それにしてもレッド・ツェッペリンの「移民の歌」、いつかかかる時が来るのでしょうか(笑) (ADルッカ)
  • リスナーのみなさんの感想やメッセージを村上さんにシェアしています。お送りするとたいていその日のうちに「ありがとう、意外にたくさんの方が気に入ってくれたみたいでよかったです。」といった返信が届きます。その確実さ、誠実さはいまだに新鮮で、お人柄だなと感じます。リスナーメッセージ特集に向けて、引き続き、村上さんへの質問/相談/メッセージをお待ちしています!(構成ヒロコ)
  • レッドツェッペリンのベーシストジョン・ポール・ジョーンズにまつわる春樹さんの世間話ですが、会場は新宿のピットイン、実は僕もご一緒していました。雨の中、春樹さんは傘を差してやって来て、楽しみだねと。ジョン・ポール・ジョーンズは春樹さんのファンで、終演後、楽屋で握手を交わし、お二人の姿は往年のロック少年の再会のようで、何とも微笑ましいものでした。手土産の太巻き?もちろんジョンは大喜び!(延江GP)

村上RADIO オフィシャルSNS

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村上選曲を学ぶテキストはこれだ!

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ペット・サウンズ

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ジャズ・アネクドーツ

ビル・クロウ/著 、村上春樹/訳
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ポートレイト・イン・ジャズ

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発売日:2004/02/01
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さよならバードランド―あるジャズ・ミュージシャンの回想―

ビル・クロウ/著 、村上春樹/訳
発売日:1994/02/01
961円(税込)
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『古くて素敵なクラシック・レコードたち』
文藝春秋(2021年6月):百曲以上の名曲を論じながら、作家の音楽観が披露される。
『意味がなければスイングはない』
文藝春秋(2005年11月)、文春文庫(2008年12月):『ステレオサウンド』2003年春号~2005年夏号に連載された音楽評論集。
『村上ソングズ』
和田誠(絵・エッセイ)と共著 中央公論新社(2007年12月)「村上春樹翻訳ライブラリー」シリーズに収録(2010年11月):歌詞の翻訳と和田誠の挿絵が中心の楽しい一冊。
『走ることについて語るときに僕の語ること』
文藝春秋(2007年10月)文春文庫(2010年6月):音楽本ではないが、ランナーにも愛読者が多い。

村上春樹(むらかみ・はるき)プロフィール

1949(昭和24)年、京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。’79年『風の歌を聴け』(群像新人文学賞)でデビュー。主な長編小説に、『羊をめぐる冒険』(野間文芸新人賞)、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(谷崎潤一郎賞)、『ノルウェイの森』、『国境の南、太陽の西』、『ねじまき鳥クロニクル』(読売文学賞)、『海辺のカフカ』、『アフターダーク』、『1Q84』(毎日出版文化賞)、最新長編小説に『騎士団長殺し』がある。『神の子どもたちはみな踊る』、『東京奇譚集』、『パン屋再襲撃』などの短編小説集、『ポートレイト・イン・ジャズ』(絵・和田誠)など音楽に関わる著書、『村上ラヂオ』等のエッセイ集、紀行文、翻訳書など著訳書多数。多くの小説作品に魅力的な音楽が登場することでも知られる。海外での文学賞受賞も多く、2006(平成18)年フランツ・カフカ賞、フランク・オコナー国際短編賞、’09年エルサレム賞、’11年カタルーニャ国際賞、’16年アンデルセン文学賞を受賞。