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-僕が走っているときに聴いている音楽-

-僕が走っているときに聴いている音楽-

こんばんは、村上春樹です。村上RADIO、今回が2度目の放送になります。一度だけじゃなくてもっと続けてほしいという要望が多くて、こうしてもう一度やることになりました。またお目にかかれてうれしいです。
今回は特にこれというテーマはありません。僕の部屋から聴いてもらいたい曲をひと抱え持ってきました。他の番組ではあまり聴けない曲をかけちゃおうというのがうちの基本方針です。秋の夜長をゆっくり楽しんでもらえればと思います。
この前の放送で一つ間違えたことを言いました。ドナルド・フェイゲンがMadison Timeをライブ録音したのが2003年頃だと言いましたが、実際には1991年でした。ずいぶん違いますよね、すみません。お詫びして訂正します。
ただ僕はよく間違えるんです。思い違いとか言い間違いとかしょっちゅうやっています。だからもし何か気が付いたことがあったら言ってきてください。すぐにお詫びして訂正します。
この番組でかかる音楽もいろいろとご意見があると思います。でも、「村上の部屋に遊びに来ちゃったからな」という感じでお付き合いください。
あ、そうそう。今回は意外な登場人物も出てきます。どうぞお楽しみに。
My Way
Aretha Franklin
Rare & Unreleased Recordings From The Golden Reign Of The Queen Of Soul
Rhino Records, Atlantic 2007
第一回の番組で「自分の葬式にかけたい音楽」という質問があって、話の流れでちらっとだけアレサ・フランクリンを流したけど、その後アレサが亡くなってしまいました。その死を悼んで、彼女の歌う「マイ・ウェイ」をここでしっかりかけてみたいと思います。

アレサ・フランクリンのすごいところはすでにある曲を一旦ばらばらに分解して再構築してほとんど違う歌にして歌ってしまうことです。脱構築……設計図をつくってやるんじゃなくて、ほとんど直感でさらっとやってしまう。そんなことができる人はなかなかいません。ほかに思いつくのは、ジャズでいうとビリー・ホリデー、ソウルでいうとオーティス・レディング、レイ・チャールズ、器楽だとチャーリー・パーカー、セロニアス・モンク、クラシックだとグレン・グールド。みんなとんでもない天才です。特殊な頭の構造を持っているんだと思う。ばらばらにして、組み立て直して、そこに統一感、一貫性がある。普通の人にできることじゃない。バラバラにして再構築するまではできるけど、そこに統一性や一貫性をつくるのは天才じゃないとできない。

アレサのお父さんはC・L・フランクリン(Clarence LaVaughn Franklin)といって説教のうまいことで全国的に有名な牧師でした。
とにかく聴衆がうっとりしちゃう見事な説教をしました。レコードを出していて、レコードが全国でベストセラーになるくらいすごい人で、公民権運動の指導者キング牧師(Martin Luther King, Jr.)とも友人でフランクリン家には彼がしょっちゅう泊まりに来ていたみたいです。アレサの父親はそれくらい有名でした。
説教の前に会場を盛り上げるために、ゴスペルを歌うのが小さいころからのアレサの役目で、アレサの歌のスタイルがそこから自然にできあがっていった。とにかく人の心を打たなきゃいけない、場を盛り上げなきゃいけない。それがアレサの歌の原動力になってます。でも同時にそれは、彼女にとっての心の重荷となり、彼女を苦しませることにもなったんですね。だからアレサ・フランクリンって歌はすごくうまいんだけど、リラックスして歌えないんです。それが彼女の悲劇かもしれません。
天才シンガー、偉大なアレサ・フランクリンのご冥福を祈ります。
Viva Las Vegas
Shawn Colvin
Twin Peaks (Music From The Limited Event Series)
Rhino Records 2017

収録アルバム:
Till The Night Is Gone: A Tribute To Doc Pomus
Forward 1995
エルヴィス・プレスリーの映画主題曲をショーン・コルヴィンがカバーしています。この「ラスべガス万才」というテーマ曲に関していえば、ドク・ポーマスが作曲しただけあって、さすがに出来がいい。この曲のカバーには他にもブルース・スプリングスティーンとかZZトップとかいろいろあって、どれも聴かせるんだけど、このショーン・コルヴィンのカバーが僕の今回のおすすめです。コンテンポラリーフォークの女性歌手がこうしてしっとり歌うと、曲の意外な側面が浮かび上がってきますよね。
エルヴィスは1960年に兵役を終えたあと次々に映画を撮るんですが、GIブルース、ブルーハワイ、ガールズ!ガールズ!ガールズ!あたりまではお気楽なりに映画的にも音楽的にも充実していたんだけど、「アカプルコの海」とか「ラスベガス万才」あたりになるとちょっとだるいなあ感がでてくる。ぼくも高校生のときに映画館でこの映画を観て、もういいかなぁと思った。ちょうどその頃、ビートルズが出現して、ロック・ミュージックの世界で大きな世代交代が持ち上がるわけです。
実を言うと、僕はカバーソングのマニアなので、カバーでちょっと違うテイストで聴きたいなということが多くて、つい集めちゃうんです。カバーの鬼と呼ばれてます(笑)。小説の世界で言えば、芥川龍之介も昔の説話を小説にしていますよね。僕もある種のトリビュートみたいなのはやることはあります。誰でも知ってる有名な小説の部分を換骨奪胎して変えて書くのです。
Whisky
MAROON 5
Red Pill Blues
222 Records 2017
MAROON 5のいちばん新しいCDの中で僕が気にいった曲です。ウィスキー。歌詞を訳してみたので、ちょっと読んでみましょう。

  • 木の葉が散る九月だ。
  • 夜の寒さが彼女を身震いさせる。
  • 僕の上着を着なよと僕は言う。
  • そして彼女の肩にしっかり着せかけてやる。
  • 彼女がキスしてくれるまで、僕はまだ子どもみたいなものだった。
  • 彼女のキスはまるでウィスキーのようだった。
素敵ですね。通過儀礼という感じなのかな、ウィスキーもキスも……。
サーフ・シティ
ダニー飯田とパラダイス・キング
パラキンのヒット・キット・パレード
EMIミュージック・ジャパン 1996(オリジナル盤は1963年)
九重佑三子さんがバックコーラスで「アウーウーウー」とファルセットをやってるんですね。ジャンとディーンの有名なヒット曲の同時代日本語カバー。歌っているのはダニー飯田とパラダイスキング、フィーチャリング九重佑三子。なにしろ日本語の歌詞がいいんです。この訳詞は「みナみカズみ」、安井かずみさんの初期のペンネームです。言葉の感じが60年代ぽくてかっこいい。60年代風に言うとイカしてます。なかでも「僕らの仲間はハンサム揃いさ」というところが僕の好みです。どうやらサーフシティに行くと女の子は「よりどりみどり」みたいですね。
そうですか、猫山さん?
「みゃー」。
あ、猫山さんを紹介しておきます。僕の友達でスタジオに来て隣にいて、ときどき意見を言ってくれます。そうですね?
「にゃーお、はにゃーお」。
まあまあまあ、という感じだそうです。

* If I had a hummer.
ピーター・ポール&マリー

僕も訳詞が好きで結構やってるんですが、「朝からラーメンの歌」という唄える替え歌も作りました(超短編集『夜のくもざる』所収)。「天使のハンマー」のメロディで、ハンマーとメンマを掛けている。くだらないことしてるんだけど(笑)。

天使のハンマー:
If I Had A Hammer (The Hammer Song)
Peter, Paul & Mary
Warner Bros. Records 1962
Left Hand Suzuki Method
Gorillaz
Parlophone 2001
次はゴリラズをかけます。聴いてもらえると由来はわかると思います。その歌手やグループの新譜が出ればとりあえず必ず買うという人たちがいますが、僕にとってはゴリラズがそうです。ずっと好きですね。漫画的というか独特のユーモア感覚があります。 このバンドのバーチャル・メンバーの一人に“ヌードル”と呼ばれる日本人女性メンバーがいて、この人は大阪出身の「軍事秘密兵器」で機密を守るために記憶を消されて、航空便でロンドンに送られてきたんだそうです。小柄なので荷物で送れちゃうんですね。そういうバックグラウンドにすごく長い話があって、アルバムを出すごとに話が少しずつ進んでいくという不思議なバンドです。話し出すときりがないので、いつかちゃんと話しますね。
Get Back
JAHLISA,大西順子
COME TOGETHER―ジャズを抱きしめたい―
Blue Note Records 2000
ビートルズの「ゲットバック」のジャズ版カバー。歌っているのはJAHLISA+大西順子。青山に「Body & Soul」というジャズ・クラブがあって、そこに何度か順子さんを聴きにいきました。一度ピアノの後ろの低い席になったことがあって、演奏がノッてくるとそのお尻がものすごくスウィングするんです。最初は面識がなくてただ聴いてるだけだったけど、何度か通ううちに紹介されて話すようになりました。昔のジャズが熱かったころの魂を持っている人で、妥協がない。うまい人はたくさんいるけど、魂を変わらず持っている人はそんなにいないですね。彼女は、その意味で貴重なミュージシャン。魂をどういうふうに定義するかは難しいけど、聴いて感じるしかない。とにかく、この曲の真ん中で入る大西さんのソロがノリノリで最高。オリジナルのビリー・プレストンなんてあっちいけ!という感じです。

順子さんは何年か引退してピアノを弾いていない時期があったんです(注:今はまた弾いています)。そのころ、最後のライブがあったんだけど、小澤征爾さんが「聴きたい!」というので、厚木のすごく狭い小屋に一緒に行きました。途中で大西さんがステージで「これで引退します」と言ったら、征爾さんが立ち上がって「引退するな!」と。(『小澤征爾さんと音楽の話をする』文庫版にその時の様子が収録されている)
ライブは好きです。実際に行って聴くのが一番いい。僕もまたジャズ・クラブをやりたいですけどね。ピアノを置いて、実際にミュージシャンが演奏できるところ。
The Last Waltz (live)
Engelbert Humperdink
It's All In The Game
Hip-O Records 2001
エンゲルベルト・フンパーディンク「ラスト・ワルツ」。1967年にヒットした有名な曲ですが、今日かけるのは2000年のライブ盤。場所はロンドンのパラディウム劇場です。この曲は途中でフンパーディンクが歌うのをやめて、バックバンドもピタッと演奏をやめて、あとは聴衆の合唱になります。これがなにしろ素晴らしい。人々の熱いフンパーディンク愛が場内に満ちていて、いつ聞いてもいいなあと感心します。

そう、ここでバンドもやめるんだよね。すごいでしょ。ふふふ。
トム・ジョーンズとエンゲルベルト・フンパーディンク。当時、青年のぼくは、もっと熱いものが好きだったから、ああいう演歌調のものはあんまり好きじゃなかったけど。でも最近は寛容になったかな、笑。エンゲルベルト・フンパーディンクは実在するドイツ人の作曲家の名前だし、トム・ジョーンズも同名の小説家がいます。当時、変なやつらが出てきたなと妙に感心しました。でも変な名前ですよね、猫山さん?
「みゃーア」。
やっぱり変だと猫山さんもおっしゃってます(笑)。
ぼくは一人っ子で兄弟もいなかったから、昔から本と音楽と猫が友達だった。国分寺にいるころ、ほんとにお金がなくて暖房もなくてね。猫が2匹ぐらい家にいた。風通しがよくて、冬は寒い一軒家で、猫も寒いんです。だから猫と一緒に絡み合って暖かくして寝てた。うちの猫が近所の友達を連れてくるから、気が付くと布団の中に4匹くらいいることもあってね。でも暖かいから歓迎してみんなで寝てた。お互い助け合って生きてたから。
La Vie En Rose Louis Armstrong
La Vie En Rose Jack Nicholson
(M8は2曲を編集でひとつにしています)
恋愛適齢期 オリジナル・サウンドトラック
Sony Records 2004
ラ・ビアン・ローゼァ……ジャック・ニコルソンが「バラ色の人生」を唄うんですが、これがうまい。さすがに芸達者で本当に感心しちゃいます。最初にルイ・アームストロングがざっと歌って、続けてニコルソンの歌になります。ずいぶん雰囲気が違う。これは二曲とも映画「Something’s Gotta Give」のサントラ版に入っています。ジャック・ニコルソンとダイアン・キートンが主演していて、日本題は「恋愛適齢期」っていったかな。いいですね、秋ですねぇ。どうですか、猫山さん?
「みゃーお」。
猫山さんも秋だって言ってます。
Early Autumn
Nicolas Montier And Saxomania
Lullaby
Venus Records 2013
クロージングテーマには「アーリー・オータム」、初秋。ウディ・ハーマン楽団の曲で、スタン・ゲッツが絶妙なソロを吹いて、1950年にヒットしました。ここではフランス人の若いテナーサックス奏者ニコラ・モンティエが、ほとんど同じアレンジメントにかぶせてソロをとっています。ゲッツの向こうを張るというか、なかなかしっかり聴かせます。

今日の最後は、スタン・ゲッツの言葉です。
「僕の中には強いバネのようなものがあって、それが僕を無意識のうちに、パーフェクトな音楽の高みにまで、はね飛ばしてくれるんだ。そしてその高みのために、僕は人生の他のすべてを犠牲にしてきた」
美しい音楽は素晴らしいものだけど、その達成の裏には多くの場合、崖っぷちでの危うい魂のせめぎあいがあります。アレサ・フランクリンの場合もそうだったけど、音楽を音楽として楽しむのと同時に、僕らはその裏にあるもののことをやはり忘れてはいけないんでしょうね。


ということで、今日はここまで。
またそのうちにお会いしましょう。

スタッフ後記

スタッフ後記

  • 春樹さんの選曲が素晴らしく、聴きながら色づきはじめた街を歩けば番組がコートになって体を暖めてくれる、そんな気がしました。 マルーン5の「ウィスキー」、春樹さんの訳詩も素敵でした。(延江エグゼクティブプランナー)
  • 「猫山さんを登場させたいんだけど。」その瞬間、やられたなと思いました。まったくどんな頭の中の構造になっているんでしょう。おでこにある一角獣の角の跡も気になります。「秋」「一角獣」そして「アーリー・オータム」。『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』をじっくり読み返したい今日この頃です。(構成ヒロコ)
  • 今回の選曲にはテーマは無いと村上春樹さんはおっしゃいますが、よく知っている曲を新鮮に聞かせてくれるカバーバージョンや、新旧の絶妙な曲並び、そしてとても楽しいトークは、秋の夜長を一瞬で過ぎてしまう楽しい時間にしてくれました!第3弾もいまからとても待ち遠しいです!(CADイトー)
  • 「あ、村上RADIOと同じだ」と思いました。10月6日に開かれたNew Yorkでのイベントでは春樹さんの話(英語のジョーク)に会場は笑いに包まれたそうです。でも、村上DJの選曲を聴けないニューヨーカーは気の毒ですね。2回目の秋の選曲も絶妙のプレイリスト。聴きながら思わず一緒に歌ってしまいました。そう言えば、春樹さんもスタジオで口ずさんでいたような……。どの曲なのかは番組で。追伸:「おでこにある一角獣の角の跡」は初めて明かされた真実!?です。(エディターS)
  • とある秋の日。出張先にN江さんから電話がかかってきた。
    「いま、春樹さんご自身がTFMにCD届けに来てくれたんだけど~!」と、驚きの声!なんと、春樹さんが突然半蔵門にあるTOKYO FMに来て、受付から内線でNさんを呼び出して、【村上RADIO】でかけたい曲のCDを届けてくれたそう。ふう、ちゃんとデスク居るなんて(普段居ないくせに)N江さん、持ってるぅ(笑)「おっしゃっていただければ事務所まで取りに行きますのに…」と思いつつも、これが春樹イズム?!(ちなみに、春樹さんは「いや、クルマだとすぐだからね」と言っていたらしい。) 優しくて、お茶目で、サプライズでスタッフを楽しませてくれるユーモアの持ち主。次回の放送も楽しみすぎる!(レオP)
  • 10月の「村上RADIO」秋の放送回です。
    今回は村上春樹さんへの素朴な質問と、選曲にもテーマの設定はありませんでした。
    もし世界がレコード屋だとしたら、あらゆる世界の意識を集めた村上春樹さんが、その音に私たちと一緒に耳を傾けながら、ご自身の意識も素朴に口にして下さる、ワンダーランドな回だったと感じています。
    今回の番組が、どんな内容だったか忘れてしまう放送になったとしたら嬉しく思います。(キム兄)
村上春樹さんからリスナーの皆さんへメッセージ
村上春樹さんからリスナーの皆さんへメッセージ

-僕が走っているときに聴いている音楽-

-僕が走っているときに聴いている音楽-

こんばんは、村上春樹です。ラジオに出演するのは今回が初めてなので、僕の声を初めて聴いたという方もきっとたくさんいらっしゃると思います。
始めまして。
この番組は、僕の好きな曲をかけて、曲と曲との間に少しおしゃべりもします。リスナーからいただいた質問にもお答えして、皆さんと一緒に楽しくひと時を過ごせればと思います。
MADISON TIME
DONALD FAGEN WITH JEFF YOUNG & THE YOUNGSTERS
THE NEW YORK ROCK AND SOUL REVUE - LIVE AT THE BEACON
Giant Records 1991
ドナルド・フェイゲンのMadison Time。
スティーリー・ダンのドナルド・フェイゲンがNYでやったライブ。キーボード奏者ジェフ・ヤングのバンドがバックです。これはジャズ・ピアニストのレイ・ブライアントの作曲で、1960年ぐらいにヒットしました。レイ・ブライアントは正統的なジャズ・ピアニストで、マイルズ・デイビスとかソニー・ロリンズなどとも一緒に共演したことがあります。
10代の頃、僕はすごく真面目なジャズ・ファンだったので、あのレイ・ブライアントがどうしてこんなコマーシャルな音楽をやるんだろうと首をひねったんだけど、いまこうして聴くとすごくいいですよね。肩の力が抜けていて、グルーヴィーで。
僕はジョギングするときにいつもiPodで音楽を聴いていますが、一台に1000~2000曲入っていて、それを7台ぐらい持ってます。今日はそのラインナップの中から、何曲かお聴かせしたいと思います。
走るときに適した音楽は何かというと「むずかしい音楽はだめ」ということですよね。リズムが途中で変わるとすごく走りにくいから一貫したリズムで、できればシンプルなリズムのほうがいい。メロディがすらっと口ずさめて、できることなら勇気を分け与えてくれるような音楽が理想的です。たとえば、そう、こういうのを聴いてみてください。
Heigh-Ho / Whistle While You Work / Yo Ho (A Pirate's Life for Me)
Brian Wilson
IN THE KEY OF DISNEY
DISNEY PEARL SERIES 2011
この曲はブライアン・ウィルソンがつくったディズニー関連の曲を集めたアルバムの中の一曲。3つの曲が一緒になっていますが、一曲目がこのYO₋HO、これはディズニーランドのカリブの海賊のテーマソング。あと2つはHeigh-HoとWhistle While You Work(口笛吹いて働こう)。この2曲は1937年に公開された白雪姫の中の音楽、つまりディズニーの古い映画のテーマと新しい映画のテーマを一緒にしちゃったわけです。組み合わせが面白いですよね。
アルバムが出たときは「なんでブライアンがディズニーの曲集を出すわけ?」と首をかしげましたが、 考えてみれば、ウィルソン三兄弟が生れ育ったのはカリフォルニア州のホーソンという街で、アナハイムに近いんです。アナハイムといえば、ディズニーランドがある。子どものころのブライアンはディズニ―ランドに行くのがすごく好きだったみたいです。
【挿入曲】
SURFIN' U.S.A.
THE BEACH BOYS
SURFIN' USA
CAPITOL RECORDS 1963
ビーチ・ボーイズはずっと同時代的に聴いてきたわけですが、出会いはもちろんSurfin' USA 。サーフィン・ミュージックというコンセプトがすごくかっこよかった。 しびれました。あれからほとんどしびれっぱなしなんだけど。
しかし、ウィルソン三兄弟のうち、いまブライアンだけが生き残ってこうして熱心に演奏活動をしているというのはちょっと信じられない。すごく不思議な気がします。ブライアンは天才肌で、超センシティブな人で、現実の世界とはうまく折り合いをつけていけないタイプの人だったから、そういう人が生き残るって、すごく不思議だと思いますね。人生ってわからない、本当に。
昔から走ることは割に好きだったんです。高校時代、学校で走らされたりするじゃないですか。神戸の学校だったから、六甲の山の上を走るレースが年に1回あるんだけど、僕は結構僕走るんですよね。クラスの女の子とかが道路に沿って並んでて、「何とか君頑張って~」と応援するんだけど、僕には“村上君無理しないで~”とかいうんですよね。それはないだろうと思うんだけどね(笑)。
D.B.BLUES
king pleasure
moody's mood for love
初出は1956年のアナログシングル盤
KING PLEASURE AND BAND「D B BLUES / BLUES I LIKE TO HEAR」
Aladdin Records 1956
これはキング・プレジャーのD.B.Blues 。キング・プレジャーはもちろん芸名で、本名はクラレンス・ビークス、かなり田舎くさい名前です。これでは絶対に芽が出ないと考えて、「王様の喜び」という意味のド派手な名前をつけました。 これはジャズでいうボーカリーズ、ジャズの器楽ミュージシャンの演奏やアドリブにそのまま歌詞をつけて歌うタイプの草分けの人です。
ジャズ・テナーのレジェンド、レスター・ヤングが1945年に発表した「DBブルーズ」というブルーズ曲に歌詞をつけて歌ってます。DBというのは、陸軍刑務所(Disciplinary Barracks)のこと。ヤングは実際に麻薬所持の罪で1年間陸軍刑務所にぶち込まれた。これはとても過酷な体験だったようで、それが彼の人生や人柄をずいぶん変えてしまったといいます。曲の終わりのほうでテナーサックスのヒューストン・パースンの、レスター・ヤングばりのがんばったソロが入るんだけど、シングル盤用の録音なので途中でフェード・アウトしてしまう。気の毒です。
SKY PILOT
Eric Burdon And The Animals
The Best Of eric burdon and the animals 1966-1968
Polydor 1991
初出は1968年アナログシングル盤,
MGM Records
この曲は1968年のヒット曲Sky Pilot。エリック・バードンとジ・アニマルズ。ちょうどベトナム戦争の頃で、ラジオからこの曲が聴こえてくると空気がひりひりするような、独特の皮膚感触がありました。途中で「汝殺すなかれ」というメッセージが入っている反戦歌で、アメリカのラジオでは政治的な理由からあまりかけてもらえなかったようです。演奏時間が7分23秒あり、当時のシングル盤には片面には入り切らないので、A面B面に分けて入っていました。DJが自分でレコードをひっくりかえすので、途中で空白の時間が入ります。でもその空白がいい。
この曲は走りながら聴くのもいいけど、車を運転しながら聴くのが好きです。オープンカーで天気のいい日に屋根を開けて、これを聴いて歌いながら運転するのが好きですね。ディストーションかっこいいです、ジェット機のエンジンみたいで。
後半にはスコットランドの連隊が行進に使うバグパイプが入ります。アニマルズはイギリスのバンドなのでこういうのが入ってきちゃう。パート2は結構好きなことをやってて、破天荒ですよね。
WHAT A WONDERFUL WORLD
Joey Ramone
Our Little Corner Of The World: Music From Gilmore Girls
Rhino 2002
あ、ラモーンズのジョイ・ラモーン!これは1968年のヒット曲、ルイ・アームストロングがオリジナルのWhat a Wonderful World。だいたいはみんなバラードで切々と歌いあげる曲なんですが、ジョイ・ラモーンはアップテンポのリズムでやっています。勇敢にもというか、ラモーン関係の人って、こういうリズムでしか歌えないんじゃないかというか……(笑)。
Between the Devil and the Deep Blue Sea
George Harrison
BRainWASHED
Universal Music, Dark Horse Records 2002
これはジョージ・ハリスンのBetween the Devil and the Deep Blue Sea、悪魔と深く青い海――。1932年にハロルド・アーレンがつくった古いスタンダードソングですが、曲名の「between the devil and the deep blue sea」は「絶体絶命」とか「進退窮まる」という英語の慣用句です。イギリスの作家テレンス・ラティガンが「深く青い海」という戯曲を書いていて、僕は18歳くらいの時にこの戯曲を読んですごく心を打たれたんです。若い女性が「前から悪魔が迫ってきて、後ろの崖の下に深い海が広がっていたら、自分は深く青い海を選ぶ」と言って自殺をはかります。その戯曲をすごく好きになって、同じタイトルを持つこの曲をよく聴くようになりました。ジョージ・ハリスンはこの曲を2002年の遺作アルバムの中で歌っていますが、本人が弾いているウクレレのイントロ、のんびりとノスタルジックでいいですよね。遺作っぽくなくて、しめっぽくなくてすごく好きです。走るときには本当に気持ちいい。
Knockin' on Heaven's Door
Ben Sidran
Dylan Different
Cd Baby Inc, 2009
これは、ちょっとゆっくり休憩しながら走る感じの曲。
ベン・シドランとはコペンハーゲンのジャズクラブで会って仲良くなったんですよ。カフェ・モンマルトルという古いジャズクラブがあって、ベン・シドランがライブに出ているというので聴きに行ったんだけど、向こうも僕のことをたまたま知っていて、休憩時間に二人でずっと話してました。けっこう趣味が合うんです。好きなピアニストがモーズ・アリソンだったり、セロニアス・モンクのことを話したり。後で日本まで送ってきてくれたCDの中の一枚がボブ・ディランの曲を集めた「Dylan Different」。なかでも、このKnockin' On Heaven's Doorが一番気に入ってます。すごくクールなアレンジですよね。
僕が走り始めたころ走っている作家なんかいなかったから、みんなにけっこう馬鹿にされたけど、最近は世の中も変わってきて、作家もよく走っている。僕が一番面白かったのは1984年だったか、アメリカに行って誰にインタビューしたいかと聞かれて、ジョン・アーヴィングがいいといったら、朝セントラルパークをジョギングしているので、走りながらでよければということで、並んで走りながらインタビューしました。あれは面白かったな。
LOVE TRAIN
Daryl Hall & John Oates
EARTH GIRLS ARE EASY (ORIGINAL MOTION PICTURE SOUNDTRACK)
Sire, Reprise Records 1989
これね、オージェイズのヒット曲Love Trainをホール&オーツがカバーしたバージョン。これは1989年公開の映画「ボクの彼女は地球人」挿入曲です。原題はEarth Girls Are Easy.。「地球人の女の子はすぐにやらせてくれる」、ひどい題ですよね。でも、そんなに簡単じゃないと宇宙人には言いたいけどね。僕は観たことがないけど、ジーナ・デイビスとジェフ・ゴールドブラムが出演してるから、けっこうちゃんとした映画で面白いのかもしない。もし観た人がいたらどんな映画か教えてください。このバージョンはこのサントラ盤でしか手に入らないと思う。たぶん誰も買わないよね、僕ぐらいしか。
Light My Fire
Zacharias
ON THE ROCKS PART ONE
Capitol Records, 1997
初出は1969年リリースの「ZACHARIAS plays THE HITS」(Columbia Records)に収録
後テーマの曲は、ドアーズのLight My Fire。
もし僕が野球選手で神宮球場に出るとしたら、テーマはこのLight My Fire。もうこれに決まってるんです。ただ出る話がないだけで(笑)。けっこう脱力感があるでしょ、ジム・モリソンとは違って。ヴァイオリンはドイツ人のヘルムート・ツァハリアス。こういうロック系の曲を演奏するのは珍しいです。
村上RADIO、いかがでしたか。
僕は意外にというか、結構楽しかったです。質問をたくさんお寄せいただき、ありがとうございました。
最後になりますが、僕の好きな言葉を一つ引用させてください。
スライ&ザ・ファミリー・ストーンのスライ・ストーンがこんなことを言いました。
「僕はみんなのために音楽をつくるんだ。誰にでも、馬鹿にでもわかる音楽をつくりたい。そうすれば、誰ももう馬鹿ではなくなるから」
いい言葉ですよね。僕はすごく好きです。それでは今日はここまで。またそのうちにお目にかかれるといいですね。
さようなら。

スタッフ後記

スタッフ後記

  • 村上春樹さん自ら曲を選び、音楽に出会った高校生のエピソードや音楽遍歴を話してくれます。それはあたかもご自宅の書斎にお邪魔して、「ほら、ここのアレンジが面白くてね」とレコードを回す春樹さんと一緒に耳を傾けるような気分。「村上RADIO」はそんな音楽番組です。(延江エグゼクティブプランナー)
  • 「声」という表現の世界に長らく身を置きますと、「声を聞くとその人が見える」ようになるもので。村上春樹さんの「声」を聞いた瞬間、この人は正直な人だなあと、音楽を心から愛していて、魅力を全力で伝えたいと思っている方だなあと、正にDJに成るべくしてなったのだろうと思ったものです。
    村上春樹さんの文学の才能に異論を唱える方は少ないと思いますが、ディスクジョッキーとしての才能に耳を傾けて頂ければ、まさか、1回でこの企画を終わらせるわけないよね、と、みなさまも音楽の神様の「声」聴こえるのではないかなあと思います。(レオP)
  • 「村上春樹」は存在した。
    最初お会いした瞬間に感じたことがそれでした。そんな畏怖の念を抱いてるのをよそに、ご本人は気さくに現れ、音楽に対して、ラジオに対しての拘りを強くお持ちの方だと改めて感じました。 特に大事にされていると感じたのがリズム、すなわち時間で、だからこそ普遍な作品を生み出されてると勝手な解釈をよそに、また気さくにスタジオに現れるかもしれないことを、現実だと受け止められる日が果たして訪れるのか。 時間が経つにつれ幻のようにも思えます。だからこそ「村上春樹」は存在しました。そのドキュメントでもある番組を楽しんでいただけたならば、これ以上の幸せはありません。(キム兄)
  • わたしたちが語る言葉も、いわば一つの“音楽”です。声、話の内容、テンポや余韻。奏でる“音楽”は人それぞれです。村上さんは、選曲の妙もさることながら、その言葉そのものが“美しい音楽”でした。だから、村上さんの語りには、極力BGMを引かず、じっくり味わっていただきたいと思いました。いかがでしたでしょうか。(構成ヒロコ)
  • なにせ謎のベールに包まれていた方でしたから、お会いするまではどんな人か全くわからずドキドキしていました。でも、ターンテーブルやCDを前に、その曲の解説やエピソードを楽しそうにお話ししてくださる姿はとても親しみやすく、すごく素敵な経験をさせていただきました。そんな幸せな時間が番組を通じてリスナーの方々と共有できていたらとても嬉しいです!(CADイトー)
  • ”Seek and Find”という言葉がずっと浮かんでいます。これからいったいどんな曲が流れ、どんな話がはじまるのか。音楽が流れ出し、スタジオの中の春樹さ んが指で軽くリズムを取り、フレーズを口ずさみ、誰かに話しかけるようにマイ クに向かうーー「村上RADIO」のスタジオはわくわくするようなワンダーランド でした。リスナーと一緒にこの時間を楽しみたいと思います。
    村上さん、Tシャツとスワローズの帽子、とても似合ってました!
    (エディターS)

秋の夜長は村上ソングズで

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村上選曲を学ぶテキストはこれだ!

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村上さんのところ

村上春樹/著
発売日:2018/5/1
907円(税込)
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村上春樹 雑文集

村上春樹/著
発売日:2015/11/01
810円(税込)
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単行本

セロニアス・モンクのいた風景

村上春樹/編訳
発売日:2014/09/26
2,160円(税込)
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小澤征爾さんと、音楽について話をする

小澤征爾/著、村上春樹/著
発売日:2014/07/01
767円(税込)
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ペット・サウンズ

ジム・フジーリ/著 、村上春樹/訳
発売日:2011/12/01
529円(税込)
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バット・ビューティフル

ジェフ・ダイヤー/著 、村上春樹/訳
発売日:2011/09/30
2,052円(税込)
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ジャズ・アネクドーツ

ビル・クロウ/著 、村上春樹/訳
発売日:2005/7/1
853円(税込)
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ポートレイト・イン・ジャズ

和田誠/著 、村上春樹/著
発売日:2004/02/01
853円(税込)
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さよならバードランド―あるジャズ・ミュージシャンの回想―

ビル・クロウ/著 、村上春樹/訳
発売日:1994/02/01
961円(税込)
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『意味がなければスイングはない』
文藝春秋(2005年11月)、文春文庫(2008年12月):『ステレオサウンド』2003年春号~2005年夏号に連載された音楽評論集。
『村上ソングズ』
和田誠(絵・エッセイ)と共著 中央公論新社(2007年12月)「村上春樹翻訳ライブラリー」シリーズに収録(2010年11月):歌詞の翻訳と和田誠の挿絵が中心の楽しい一冊。
『走ることについて語るときに僕の語ること』
文藝春秋(2007年10月)文春文庫(2010年6月):音楽本ではないが、ランナーにも愛読者が多い。

村上春樹(むらかみ・はるき)プロフィール

1949(昭和24)年、京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。’79年『風の歌を聴け』(群像新人文学賞)でデビュー。主な長編小説に、『羊をめぐる冒険』(野間文芸新人賞)、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(谷崎潤一郎賞)、『ノルウェイの森』、『国境の南、太陽の西』、『ねじまき鳥クロニクル』(読売文学賞)、『海辺のカフカ』、『アフターダーク』、『1Q84』(毎日出版文化賞)、最新長編小説に『騎士団長殺し』がある。『神の子どもたちはみな踊る』、『東京奇譚集』、『パン屋再襲撃』などの短編小説集、『ポートレイト・イン・ジャズ』(絵・和田誠)など音楽に関わる著書、『村上ラヂオ』等のエッセイ集、紀行文、翻訳書など著訳書多数。多くの小説作品に魅力的な音楽が登場することでも知られる。海外での文学賞受賞も多く、2006(平成18)年フランツ・カフカ賞、フランク・オコナー国際短編賞、’09年エルサレム賞、’11年カタルーニャ国際賞、’16年アンデルセン文学賞を受賞。