• 第2回 放送決定!! 村上RADIO~秋の夜長は村上ソングズで~
村上春樹さんからリスナーの皆さんへメッセージ
村上春樹さんからリスナーの皆さんへメッセージ

FM東京番組のための選曲-僕が走っているときに聴いている音楽-

FM東京番組のための選曲-僕が走っているときに聴いている音楽-

こんばんは、村上春樹です。ラジオに出演するのは今回が初めてなので、僕の声を初めて聴いたという方もきっとたくさんいらっしゃると思います。
始めまして。
この番組は、僕の好きな曲をかけて、曲と曲との間に少しおしゃべりもします。リスナーからいただいた質問にもお答えして、皆さんと一緒に楽しくひと時を過ごせればと思います。
MADISON TIME
DONALD FAGEN WITH JEFF YOUNG & THE YOUNGSTERS
THE NEW YORK ROCK AND SOUL REVUE - LIVE AT THE BEACON
Giant Records 1991
ドナルド・フェイゲンのMadison Time。
スティーリー・ダンのドナルド・フェイゲンがNYでやったライブ。キーボード奏者ジェフ・ヤングのバンドがバックです。これはジャズ・ピアニストのレイ・ブライアントの作曲で、1960年ぐらいにヒットしました。レイ・ブライアントは正統的なジャズ・ピアニストで、マイルズ・デイビスとかソニー・ロリンズなどとも一緒に共演したことがあります。
10代の頃、僕はすごく真面目なジャズ・ファンだったので、あのレイ・ブライアントがどうしてこんなコマーシャルな音楽をやるんだろうと首をひねったんだけど、いまこうして聴くとすごくいいですよね。肩の力が抜けていて、グルーヴィーで。
僕はジョギングするときにいつもiPodで音楽を聴いていますが、一台に1000~2000曲入っていて、それを7台ぐらい持ってます。今日はそのラインナップの中から、何曲かお聴かせしたいと思います。
走るときに適した音楽は何かというと「むずかしい音楽はだめ」ということですよね。リズムが途中で変わるとすごく走りにくいから一貫したリズムで、できればシンプルなリズムのほうがいい。メロディがすらっと口ずさめて、できることなら勇気を分け与えてくれるような音楽が理想的です。たとえば、そう、こういうのを聴いてみてください。
Heigh-Ho / Whistle While You Work / Yo Ho (A Pirate's Life for Me)
Brian Wilson
IN THE KEY OF DISNEY
DISNEY PEARL SERIES 2011
この曲はブライアン・ウィルソンがつくったディズニー関連の曲を集めたアルバムの中の一曲。3つの曲が一緒になっていますが、一曲目がこのYO₋HO、これはディズニーランドのカリブの海賊のテーマソング。あと2つはHeigh-HoとWhistle While You Work(口笛吹いて働こう)。この2曲は1937年に公開された白雪姫の中の音楽、つまりディズニーの古い映画のテーマと新しい映画のテーマを一緒にしちゃったわけです。組み合わせが面白いですよね。
アルバムが出たときは「なんでブライアンがディズニーの曲集を出すわけ?」と首をかしげましたが、 考えてみれば、ウィルソン三兄弟が生れ育ったのはカリフォルニア州のホーソンという街で、アナハイムに近いんです。アナハイムといえば、ディズニーランドがある。子どものころのブライアンはディズニ―ランドに行くのがすごく好きだったみたいです。
【挿入曲】
SURFIN' U.S.A.
THE BEACH BOYS
SURFIN' USA
CAPITOL RECORDS 1963
ビーチ・ボーイズはずっと同時代的に聴いてきたわけですが、出会いはもちろんSurfin' USA 。サーフィン・ミュージックというコンセプトがすごくかっこよかった。 しびれました。あれからほとんどしびれっぱなしなんだけど。
しかし、ウィルソン三兄弟のうち、いまブライアンだけが生き残ってこうして熱心に演奏活動をしているというのはちょっと信じられない。すごく不思議な気がします。ブライアンは天才肌で、超センシティブな人で、現実の世界とはうまく折り合いをつけていけないタイプの人だったから、そういう人が生き残るって、すごく不思議だと思いますね。人生ってわからない、本当に。
昔から走ることは割に好きだったんです。高校時代、学校で走らされたりするじゃないですか。神戸の学校だったから、六甲の山の上を走るレースが年に1回あるんだけど、僕は結構僕走るんですよね。クラスの女の子とかが道路に沿って並んでて、「何とか君頑張って~」と応援するんだけど、僕には“村上君無理しないで~”とかいうんですよね。それはないだろうと思うんだけどね(笑)。
D.B.BLUES
king pleasure
moody's mood for love
初出は1956年のアナログシングル盤
KING PLEASURE AND BAND「D B BLUES / BLUES I LIKE TO HEAR」
Aladdin Records 1956
これはキング・プレジャーのD.B.Blues 。キング・プレジャーはもちろん芸名で、本名はクラレンス・ビークス、かなり田舎くさい名前です。これでは絶対に芽が出ないと考えて、「王様の喜び」という意味のド派手な名前をつけました。 これはジャズでいうボーカリーズ、ジャズの器楽ミュージシャンの演奏やアドリブにそのまま歌詞をつけて歌うタイプの草分けの人です。
ジャズ・テナーのレジェンド、レスター・ヤングが1945年に発表した「DBブルーズ」というブルーズ曲に歌詞をつけて歌ってます。DBというのは、陸軍刑務所(Disciplinary Barracks)のこと。ヤングは実際に麻薬所持の罪で1年間陸軍刑務所にぶち込まれた。これはとても過酷な体験だったようで、それが彼の人生や人柄をずいぶん変えてしまったといいます。曲の終わりのほうでテナーサックスのヒューストン・パースンの、レスター・ヤングばりのがんばったソロが入るんだけど、シングル盤用の録音なので途中でフェード・アウトしてしまう。気の毒です。
SKY PILOT
Eric Burdon And The Animals
The Best Of eric burdon and the animals 1966-1968
Polydor 1991
初出は1968年アナログシングル盤,
MGM Records
この曲は1968年のヒット曲Sky Pilot。エリック・バードンとジ・アニマルズ。ちょうどベトナム戦争の頃で、ラジオからこの曲が聴こえてくると空気がひりひりするような、独特の皮膚感触がありました。途中で「汝殺すなかれ」というメッセージが入っている反戦歌で、アメリカのラジオでは政治的な理由からあまりかけてもらえなかったようです。演奏時間が7分23秒あり、当時のシングル盤には片面には入り切らないので、A面B面に分けて入っていました。DJが自分でレコードをひっくりかえすので、途中で空白の時間が入ります。でもその空白がいい。
この曲は走りながら聴くのもいいけど、車を運転しながら聴くのが好きです。オープンカーで天気のいい日に屋根を開けて、これを聴いて歌いながら運転するのが好きですね。ディストーションかっこいいです、ジェット機のエンジンみたいで。
後半にはスコットランドの連隊が行進に使うバグパイプが入ります。アニマルズはイギリスのバンドなのでこういうのが入ってきちゃう。パート2は結構好きなことをやってて、破天荒ですよね。
WHAT A WONDERFUL WORLD
Joey Ramone
Our Little Corner Of The World: Music From Gilmore Girls
Rhino 2002
あ、ラモーンズのジョイ・ラモーン!これは1968年のヒット曲、ルイ・アームストロングがオリジナルのWhat a Wonderful World。だいたいはみんなバラードで切々と歌いあげる曲なんですが、ジョイ・ラモーンはアップテンポのリズムでやっています。勇敢にもというか、ラモーン関係の人って、こういうリズムでしか歌えないんじゃないかというか……(笑)。
Between the Devil and the Deep Blue Sea
George Harrison
BRainWASHED
Universal Music, Dark Horse Records 2002
これはジョージ・ハリスンのBetween the Devil and the Deep Blue Sea、悪魔と深く青い海――。1932年にハロルド・アーレンがつくった古いスタンダードソングですが、曲名の「between the devil and the deep blue sea」は「絶体絶命」とか「進退窮まる」という英語の慣用句です。イギリスの作家テレンス・ラティガンが「深く青い海」という戯曲を書いていて、僕は18歳くらいの時にこの戯曲を読んですごく心を打たれたんです。若い女性が「前から悪魔が迫ってきて、後ろの崖の下に深い海が広がっていたら、自分は深く青い海を選ぶ」と言って自殺をはかります。その戯曲をすごく好きになって、同じタイトルを持つこの曲をよく聴くようになりました。ジョージ・ハリスンはこの曲を2002年の遺作アルバムの中で歌っていますが、本人が弾いているウクレレのイントロ、のんびりとノスタルジックでいいですよね。遺作っぽくなくて、しめっぽくなくてすごく好きです。走るときには本当に気持ちいい。
Knockin' on Heaven's Door
Ben Sidran
Dylan Different
Cd Baby Inc, 2009
これは、ちょっとゆっくり休憩しながら走る感じの曲。
ベン・シドランとはコペンハーゲンのジャズクラブで会って仲良くなったんですよ。カフェ・モンマルトルという古いジャズクラブがあって、ベン・シドランがライブに出ているというので聴きに行ったんだけど、向こうも僕のことをたまたま知っていて、休憩時間に二人でずっと話してました。けっこう趣味が合うんです。好きなピアニストがモーズ・アリソンだったり、セロニアス・モンクのことを話したり。後で日本まで送ってきてくれたCDの中の一枚がボブ・ディランの曲を集めた「Dylan Different」。なかでも、このKnockin' On Heaven's Doorが一番気に入ってます。すごくクールなアレンジですよね。
僕が走り始めたころ走っている作家なんかいなかったから、みんなにけっこう馬鹿にされたけど、最近は世の中も変わってきて、作家もよく走っている。僕が一番面白かったのは1984年だったか、アメリカに行って誰にインタビューしたいかと聞かれて、ジョン・アーヴィングがいいといったら、朝セントラルパークをジョギングしているので、走りながらでよければということで、並んで走りながらインタビューしました。あれは面白かったな。
LOVE TRAIN
Daryl Hall & John Oates
EARTH GIRLS ARE EASY (ORIGINAL MOTION PICTURE SOUNDTRACK)
Sire, Reprise Records 1989
これね、オージェイズのヒット曲Love Trainをホール&オーツがカバーしたバージョン。これは1989年公開の映画「ボクの彼女は地球人」挿入曲です。原題はEarth Girls Are Easy.。「地球人の女の子はすぐにやらせてくれる」、ひどい題ですよね。でも、そんなに簡単じゃないと宇宙人には言いたいけどね。僕は観たことがないけど、ジーナ・デイビスとジェフ・ゴールドブラムが出演してるから、けっこうちゃんとした映画で面白いのかもしない。もし観た人がいたらどんな映画か教えてください。このバージョンはこのサントラ盤でしか手に入らないと思う。たぶん誰も買わないよね、僕ぐらいしか。
Light My Fire
Zacharias
ON THE ROCKS PART ONE
Capitol Records, 1997
初出は1969年リリースの「ZACHARIAS plays THE HITS」(Columbia Records)に収録
後テーマの曲は、ドアーズのLight My Fire。
もし僕が野球選手で神宮球場に出るとしたら、テーマはこのLight My Fire。もうこれに決まってるんです。ただ出る話がないだけで(笑)。けっこう脱力感があるでしょ、ジム・モリソンとは違って。ヴァイオリンはドイツ人のヘルムート・ツァハリアス。こういうロック系の曲を演奏するのは珍しいです。
村上RADIO、いかがでしたか。
僕は意外にというか、結構楽しかったです。質問をたくさんお寄せいただき、ありがとうございました。
最後になりますが、僕の好きな言葉を一つ引用させてください。
スライ&ザ・ファミリー・ストーンのスライ・ストーンがこんなことを言いました。
「僕はみんなのために音楽をつくるんだ。誰にでも、馬鹿にでもわかる音楽をつくりたい。そうすれば、誰ももう馬鹿ではなくなるから」
いい言葉ですよね。僕はすごく好きです。それでは今日はここまで。またそのうちにお目にかかれるといいですね。
さようなら。

スタッフ後記

スタッフ後記

  • 村上春樹さん自ら曲を選び、音楽に出会った高校生のエピソードや音楽遍歴を話してくれます。それはあたかもご自宅の書斎にお邪魔して、「ほら、ここのアレンジが面白くてね」とレコードを回す春樹さんと一緒に耳を傾けるような気分。「村上RADIO」はそんな音楽番組です。(延江エグゼクティブプランナー)
  • 「声」という表現の世界に長らく身を置きますと、「声を聞くとその人が見える」ようになるもので。村上春樹さんの「声」を聞いた瞬間、この人は正直な人だなあと、音楽を心から愛していて、魅力を全力で伝えたいと思っている方だなあと、正にDJに成るべくしてなったのだろうと思ったものです。
    村上春樹さんの文学の才能に異論を唱える方は少ないと思いますが、ディスクジョッキーとしての才能に耳を傾けて頂ければ、まさか、1回でこの企画を終わらせるわけないよね、と、みなさまも音楽の神様の「声」聴こえるのではないかなあと思います。(レオP)
  • 「村上春樹」は存在した。
    最初お会いした瞬間に感じたことがそれでした。そんな畏怖の念を抱いてるのをよそに、ご本人は気さくに現れ、音楽に対して、ラジオに対しての拘りを強くお持ちの方だと改めて感じました。 特に大事にされていると感じたのがリズム、すなわち時間で、だからこそ普遍な作品を生み出されてると勝手な解釈をよそに、また気さくにスタジオに現れるかもしれないことを、現実だと受け止められる日が果たして訪れるのか。 時間が経つにつれ幻のようにも思えます。だからこそ「村上春樹」は存在しました。そのドキュメントでもある番組を楽しんでいただけたならば、これ以上の幸せはありません。(キム兄)
  • わたしたちが語る言葉も、いわば一つの“音楽”です。声、話の内容、テンポや余韻。奏でる“音楽”は人それぞれです。村上さんは、選曲の妙もさることながら、その言葉そのものが“美しい音楽”でした。だから、村上さんの語りには、極力BGMを引かず、じっくり味わっていただきたいと思いました。いかがでしたでしょうか。(構成ヒロコ)
  • なにせ謎のベールに包まれていた方でしたから、お会いするまではどんな人か全くわからずドキドキしていました。でも、ターンテーブルやCDを前に、その曲の解説やエピソードを楽しそうにお話ししてくださる姿はとても親しみやすく、すごく素敵な経験をさせていただきました。そんな幸せな時間が番組を通じてリスナーの方々と共有できていたらとても嬉しいです!(CADイトー)
  • ”Seek and Find”という言葉がずっと浮かんでいます。これからいったいどんな曲が流れ、どんな話がはじまるのか。音楽が流れ出し、スタジオの中の春樹さ んが指で軽くリズムを取り、フレーズを口ずさみ、誰かに話しかけるようにマイ クに向かうーー「村上RADIO」のスタジオはわくわくするようなワンダーランド でした。リスナーと一緒にこの時間を楽しみたいと思います。
    村上さん、Tシャツとスワローズの帽子、とても似合ってました!
    (エディターS)

番組への感想をお寄せください!

  • 応募受付は終了いたしました。
  • 番組への感想をお寄せください!
  • 応募受付は終了いたしました。

秋の夜長は村上ソングズで

  • Facebook
  • twitter

村上選曲を学ぶテキストはこれだ!

村上選曲を学ぶテキストはこれだ!

文庫

村上さんのところ

村上春樹/著
発売日:2018/5/1
907円(税込)
詳細を見る
文庫

村上春樹 雑文集

村上春樹/著
発売日:2015/11/01
810円(税込)
詳細を見る
単行本

セロニアス・モンクのいた風景

村上春樹/編訳
発売日:2014/09/26
2,160円(税込)
詳細を見る

文庫

小澤征爾さんと、音楽について話をする

小澤征爾/著、村上春樹/著
発売日:2014/07/01
767円(税込)
詳細を見る
文庫

ペット・サウンズ

ジム・フジーリ/著 、村上春樹/訳
発売日:2011/12/01
529円(税込)
詳細を見る
単行本

バット・ビューティフル

ジェフ・ダイヤー/著 、村上春樹/訳
発売日:2011/09/30
2,052円(税込)
詳細を見る
文庫

ジャズ・アネクドーツ

ビル・クロウ/著 、村上春樹/訳
発売日:2005/7/1
853円(税込)
詳細を見る
文庫

ポートレイト・イン・ジャズ

和田誠/著 、村上春樹/著
発売日:2004/02/01
853円(税込)
詳細を見る
文庫

さよならバードランド―あるジャズ・ミュージシャンの回想―

ビル・クロウ/著 、村上春樹/訳
発売日:1994/02/01
961円(税込)
詳細を見る

『意味がなければスイングはない』
文藝春秋(2005年11月)、文春文庫(2008年12月):『ステレオサウンド』2003年春号~2005年夏号に連載された音楽評論集。
『村上ソングズ』
和田誠(絵・エッセイ)と共著 中央公論新社(2007年12月)「村上春樹翻訳ライブラリー」シリーズに収録(2010年11月):歌詞の翻訳と和田誠の挿絵が中心の楽しい一冊。
『走ることについて語るときに僕の語ること』
文藝春秋(2007年10月)文春文庫(2010年6月):音楽本ではないが、ランナーにも愛読者が多い。

村上春樹(むらかみ・はるき)プロフィール

1949(昭和24)年、京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。’79年『風の歌を聴け』(群像新人文学賞)でデビュー。主な長編小説に、『羊をめぐる冒険』(野間文芸新人賞)、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(谷崎潤一郎賞)、『ノルウェイの森』、『国境の南、太陽の西』、『ねじまき鳥クロニクル』(読売文学賞)、『海辺のカフカ』、『アフターダーク』、『1Q84』(毎日出版文化賞)、最新長編小説に『騎士団長殺し』がある。『神の子どもたちはみな踊る』、『東京奇譚集』、『パン屋再襲撃』などの短編小説集、『ポートレイト・イン・ジャズ』(絵・和田誠)など音楽に関わる著書、『村上ラヂオ』等のエッセイ集、紀行文、翻訳書など著訳書多数。多くの小説作品に魅力的な音楽が登場することでも知られる。海外での文学賞受賞も多く、2006(平成18)年フランツ・カフカ賞、フランク・オコナー国際短編賞、’09年エルサレム賞、’11年カタルーニャ国際賞、’16年アンデルセン文学賞を受賞。