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村上RADIO ~「サージェント・ペパーズ・ロンリーハーツ・クラブ・バンド」完全カバー~

村上RADIO ~「サージェント・ペパーズ・ロンリーハーツ・クラブ・バンド」完全カバー~

今晩は。村上春樹です。村上RADIO、今夜はビートルズの伝説的アルバム『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band(サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド)』の完全カバーをお届けします。このアルバムは、イギリスではなんと27週にわたってLPチャートの1位を獲得しました。1967年のことです。すごいですね。
この前ビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』の完全カバーをやりましたが、そのシリーズの続きです。僕はどちらのアルバムもリリースされたときに同時代的に聴いていますが、それぞれにとびっきり新鮮な息吹を10代の僕の心に吹き込んでくれました。その音楽を聴くと、いろんな思い出が鮮やかに蘇ってきます。

<オープニング曲>
Donald Fagen「Madison Time」


歴史的名盤と呼ばれるものって、今聴くとあまりぴんとこないというものもけっこうありますよね。でもこの『Sgt. Pepper's』とか『ペット・サウンズ』、今聴いてもその新鮮さは失われていません。その突出した本物のオリジナリティーと、音楽的な質の高さのためだと思います。時代に乗っかるのではなく、時代を推し進める力を持った音楽だったんですね。今の10代の少年少女のみなさんが初めてこれらの音楽を聴いてどう感じるか、僕にはわかりませんが、そういう人たちの心にもうまく届くといいなあと思います。
Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band
The Bee Gees, Paul Nocholas
Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band(LP)
RSO RECORDS
今夜はビートルズの『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』の完全カバー特集です。
まず冒頭は「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」。ポールが作曲しました。ビートルズではなく、Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Bandという楽団が歌っているのだ、という設定でアルバムは進められます。だからまずはバンドの紹介。

いま歌っていたのはビージーズとポール・ニコラス。映画「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」のオリジナル・サウンドトラック盤からのものです。
映画は1978年の製作ですが、主演がピーター・フランプトンとビージーズということで、当然ながらビートルズ・ファンからは総スカンを食らいました。でも映画の出来はともかく、オリジナル・サントラレコードはそれなりに楽しめました。
With a Little Help from My Friends
Small Circle of Friends
ROGER NICHOLS AND THE SMALL CIRCLE OF FRIENDS
A&M RECORDS
さて、アルバムの収録順でかけます。次はSmall Circle Of Friendsが、「With A Little Help From My Friends」を歌います。Small Circle Of Friends、シンガー・ソングライター、ロジャー・ニコルズが組んでいたバンドです。「友だちからのちょっとした手助けで」、ポールのつくった曲です。
Lucy In The Sky With Diamonds
Elton John
AND YOUR BIRD CAN SING: 36 Classic Interpretations Of Beatles Standards
DÉBUTANTE
次は3曲目、A面の3曲目ですね、LPで言うと。エルトン・ジョンが「Lucy In The Sky With Diamonds」を歌います。ジョン・レノンの曲です。
「Lucy In The Sky With Diamonds」、その頭文字をとって「これはLSDのトリップ状態を描写した音楽だ」という噂が当時飛び交っていました。その真偽はともかく、このアルバムがLSDのかなりの影響下にあったことは確かみたいです。当時はLSDって英国では違法薬物ではなかったし、芸術的感覚を拡張するための手段としてごく普通に、積極的に用いられていました。
Getting Better
Status Quo
AND YOUR BIRD CAN SING: 36 Classic Interpretations Of Beatles Standards
DÉBUTANTE
A面の4曲目は「ゲッティング・ベター」、ポールの作曲したものですね。
「ものごとは良くなっているよ」、歌うのはステイタス・クオーです。



<収録中のつぶやき>
この辺になると、ちょっと地味になってくるよね。
Fixin' a Hole
John Di Martino
The Beatles In Jazz
VENUS RECORDS
次は「フィクシング・ア・ホール」、ポールの作った曲です。「屋根に穴が空いたから塞(ふさ)がなくっちゃ」、ジャズ・ピアニスト、ジョン・ディ・マルティーノのトリオが演奏します。
これって比較的地味な曲なんですけど、こうしてインストゥルメンタル演奏で聴くと、曲の良さが素直に浮かび上がってきますね。


<収録中のつぶやき>
前に観た映画で、ギャングの親分が連れてきた男に「お前はビートルズを聴くか」とたずねるシーンがありました。男が「聴く」と答えると、「『Sgt.Pepper's Lonely Hearts Club Band』はビートルズの最高傑作だと思うか、YesかNoで答えろ!」と脅すんです。男が「No……」と言うとギャングの親分はにっこり笑って、「よしそれで正解だ!」と言って、男を許すんです。彼にとっての最高傑作は「Let It Be(レット・イット・ビー)」なんですね。「Mr.Kite」とか「Fixing A Hole」のような、インド音楽風の曲が入ったLPが最高傑作なわけはないだろう!と言うんです。
She's Leaving Home
four freshmen
A TODAY KIND OF THING(LP)
LIBERTY RECORDS
次は「She's Leaving Home」。彼女は家を出ていく。これもポールの曲です。このアルバム『Sgt. Pepper's』は、もともとポールが中心になってできたようなアルバムなんです。彼が「こういうトータル・コンセプトでアルバムを作ろう」というアイデアを出して、みんなを引っ張ってこしらえたようなものです。この頃からポールがグループのイニシアチブを取る傾向が強くなってきて、4人の親密な関係にだんだん綻びが見え始めてきます。
「She's Leaving Home」、ジャズ・コーラス・グループ、フォー・フレッシュメンが歌います。
Being for the Benefit of Mr.Kite
Eddie Izzard
ACROSS THE UNIVERSE MUSIC FROM THE MOTION PICTURE
INTERSCOPE
次はジョンの作った「Being For The Benefit Of Mr. Kite」。歌っているのはエディー・イザードという人です。映画「アクロス・ザ・ユニバース」のオリジナル・サントラ盤に入っていました。

ビートルズの音楽にはイギリスの大衆音楽、ボードビル音楽の伝統が色濃く漂う作品が見受けられますが、これもそのひとつですね。ジョンはサーカスの古いポスターを見つけて手に入れ、そこからアイデアを得てこの音楽を作りました。でもその再現された古くささが、一種サイケデリックな効果を生み出しているみたいです。
Within You Without You
Angels of Venice
HERE, THERE & EVERYWHERE THE SONGS OF THE BEATLES
Windham Hill
今夜はビートルズの伝説的アルバム『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』の完全カバー特集です。ここからはB面に入ります。

1曲目はジョージの曲です。「Within You Without You」。このアルバムでジョンとポール以外のメンバーが作曲した唯一の曲です。「エンジェルズ・オブ・ヴェニス」というグループがカバーしています。
この時期、ジョージは自分がグループからだんだん取り残されていくような気持ちで、疎外感を抱いていたようです。自分の作った曲は片端からジョンとポールに却下されるし、ギターのソロパートはどんどん少なくなっていくし……。でもこの曲がアルバムに採用されて、ちょっとほっとしたみたいです。
When I Am Sixty Four
Barry Gibb
アート・オブ・マッカトニー~ポールへ捧ぐ
UNIVERSAL MUSIC
「When I Am Sixty Four(64歳になったら」)をバリー・ギブが歌います。ちょっと意外な組み合わせですね。
これはポールの曲ですが、これもなんとなくボードビル風、ミュージック・ホール風の雰囲気を持っています。ポールは15歳のときに、お父さんの古いピアノでこの曲を作ったそうです。15歳ですよ、すごいなあ。僕はもちろん64歳になった誕生日にこの曲を聴きました。割に感慨深いものがあります。ふわっと、とぼけた雰囲気があって、メロディーが心地よく耳に残ります。
Lovely Rita
Fats Domino
LET IT BE Black America Sings Lennon, McCartney and Harrison
ace
Good Morning Good Morning
Peter Frampton & The Bee Gees
Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band(LP)
RSO RECORDS
次におかけするのも、かなり意外な取り合わせです。ファッツ・ドミノがカバーする「ラブリー・リタ」。ポールが作った曲ですが、ジョン・レノンはこの曲が気に入らなかったみたいで、「内容も薄いし、メッセージ性もないし」と酷評しています。
でもそんなことを言えば、その次に入っているジョンの作った「グッド・モーニング、グッド・モーニング」だって、それほど内容がある曲とは思えませんよね。ジョン自身「これはゴミみたいな音楽だ」とあとになって言っています。でも今となっては、この2曲なしには「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」というアルバムは存在し得ないんじゃないかという気さえしてきます。不思議なものですね。全曲傑作ばかりだと、アルバムって意外にうまく機能しないのかもしれません。
2曲続けて聴いてください。ファッツ・ドミノが歌う「ラブリー・リタ」と、ポール・ニコラス、ピーター・フランプトン&ビージーズが歌う「グッド・モーニング、グッド・モーニング」です。

<収録中のつぶやき>
このころはビートルズは神格化されてたから、こんな曲でもきっとなにか深い意味があるんだろうとみんな一所懸命聴いていたんだよね。そうすると意外に深く心に入ったりするんだ。
Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band(Finale)
The Cast (映画『サージャント・ペッパー』より)
Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band(LP)
RSO RECORDS
A Day in the Life
Frankie Valli
The Songs Of John Lennon & Paul McCartney Performed By The World's Greatest Rock Artists(LP)
20th century records
ここで「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」がもう一度登場してフィナーレになります。映画「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」のオール・キャストの合唱で聴いてください。
それから最後の最後に「A Day In The Life」が入っています。これ、文句なしの名曲ですね。曲の基本形をジョンが作り、そこにポールがいくつかのアイデアを提供しました。この曲、僕らはウェス・モンゴメリーの演奏でさんざん聴きまくりました。今日は超意外なところで、フランキー・ヴァリの歌で聴いてください。そうです、フォー・シーズンズのフランキー・ヴァリさんです。
A Day in the Life
Lee Ritouner
A GRP ARTISTS' CELEBRATION OF THE SONGS OF THE BEATLES
GRP
今日のクロージング音楽はリー・リトナーが演奏する「A Day In The Life」です。
『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』の完全カバー特集、いかがでしたか?
このアルバムを今回初めて、全部通して聴いたという方もいらっしゃるかもしれません。もし機会があったら、ぜひオリジナルLPを通して聴いてくださいね。人生の風景が、ちょっとだけ変わるかもしれません。
うちには東芝赤盤の『Sgt. Pepper's』のLPがありますが、これ実は、僕のものじゃないんです。高校時代にクラスの女の子に借りて、そのまま借りっぱなしになっているものです。返そうと思いつつ、そのまま返しそびれてしまいました。レコードを見るたびに胸がしくしくと痛みます。ごめんね。

さて今日の最後の言葉です。
エーリッヒ・クライバーはクラシック音楽の伝説的な指揮者です。また、その息子カルロス・クライバーも、父親に劣らない偉大な指揮者になりました。そのエーリッヒが、まだ幼い頃の息子カルロスについてこのように語りました。
「かわいそうに、あの子には音楽的才能がある。」
芸術的才能は、それが大きければ大きいほど、その持ち主にとっては厳しい重荷になることが多いみたいですね。たしかにカルロス・クライバーは、父親の予言通りというか、かなり混乱に満ちた、普通とは言えない生涯を送りました。僕はそういう「重荷的体験」ってまずないんだけど、きっともともとの才能がそれほどたくさんはなかったんでしょうね。いいのか悪いのか。
それではまた来月。

スタッフ後記

スタッフ後記

  • ビーチボーイズの『ペットサウンズ』カバーに続いて、ビートルズ『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』のオールカバーとは!全国のラジオボーイ&ガールズはラジオにかじり付いた55分だったのではないでしょうか。春樹さんのDJと相まって、僕もポップスが奏でるあの頃のひと時を味わいました!(延江GP)
  • 今回番組のなかで村上さんが『Sgt.Peppers』をめぐる映画のワンシーンを紹介しました。「グリンゴ/最強の悪運男」というアメリカ映画です。とことん運の悪い男が主人公。面白いので、ぜひこちらもチェックを!(構成ヒロコ)
  • 村上さんの自伝的エッセイ『職業としての小説家』の中に「オリジナリティとは何か」という章があります。今回の特集で、“Sgt.Peppers”は音楽的に質が高く、本物のオリジナリティがあると村上DJは言っていますが、エッセイでは10代で初めて聴いたビートルズとビーチボーイズを例にこう書いています。「……僕の頭に浮かぶのは十代初めの僕自身の姿です。…その音楽は僕の魂の新しい窓を開き、その窓からこれまでにない新しい空気が吹き込んできます。そこにあるのは幸福な、そしてどこまでも自然な高揚感」だったと。それにしても、1967年の夏、10代の村上さんに“Sgt.Peppers”のLPレコードを貸してくれたという「同級生の女の子」は今回の村上RADIOを聴いてくださっているでしょうか……。気になりますね。(エディターS)
  • 先日ジョージ・ハリスン追悼コンサートの映画を見ました。たくさんのスターたちが歌うジョージの歌はどれも名曲ぞろいで、ポール・マッカートニーとエリック・クラプトンがデュエットした「サムシング」は感動的でした。ビートルズの中ではジョージは地味な存在ですが、「Within You Without You」だってなかなかの名曲。籠を担ぐ人、そのまた草履を作る人あってのレノン&マッカートニーです!(CAD伊藤)
  • 今回の「村上RADIO」は、ビートルズの伝説的アルバム『Sgt.Peppers』完全カバー。ビートルズの“最後の新曲”が世界同時発売される直前に、この名盤の他アーティストによる全13曲が揃いました。生まれ変わった曲で全曲揃うアルバムって、この世にどれほど存在するんでしょうか。完全カバーシリーズ、次回も楽しみです。(キム兄)
  • 中学生でビートルズに出会い味わった、世界が広まったような感覚。久しぶりにその感覚が思い出されました。Sgt.Peppersは自分も1番ではないけれど、好きなアルバムのひとつです。そもそも1番なんてなかなか決められないですけど。ビートルズのカバー曲はこの世に数多あると思いますが、今回はジャンルにも富んだとても楽しいプレイリストでしたね!個人的にはScary Pockets のカバーが好きなので良かったら聞いてみてください。(ADルッカ)

村上春樹(むらかみ・はるき)プロフィール

1949(昭和24)年、京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。’79年『風の歌を聴け』(群像新人文学賞)でデビュー。主な長編小説に、『羊をめぐる冒険』(野間文芸新人賞)、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(谷崎潤一郎賞)、『ノルウェイの森』、『国境の南、太陽の西』、『ねじまき鳥クロニクル』(読売文学賞)、『海辺のカフカ』、『アフターダーク』、『1Q84』(毎日出版文化賞)、最新長編小説に『騎士団長殺し』がある。『神の子どもたちはみな踊る』、『東京奇譚集』、『パン屋再襲撃』などの短編小説集、『ポートレイト・イン・ジャズ』(絵・和田誠)など音楽に関わる著書、『村上ラヂオ』等のエッセイ集、紀行文、翻訳書など著訳書多数。多くの小説作品に魅力的な音楽が登場することでも知られる。海外での文学賞受賞も多く、2006(平成18)年フランツ・カフカ賞、フランク・オコナー国際短編賞、’09年エルサレム賞、’11年カタルーニャ国際賞、’16年アンデルセン文学賞を受賞。