yes!~明日への便り~presented by ホクトプレミアム 霜降りひらたけ

STORY

ストーリー

第455話 今日一日を精一杯生きる
-【福井にまつわるレジェンド篇】蘭方医 杉田玄白-

Podcast 

福井県小浜市にゆかりのある、『解体新書』で有名な蘭方医がいます。 杉田玄白(すぎた・げんぱく)。 蘭方医とは、江戸時代に西洋医学を学んだ日本人医師のこと。 若狭国小浜藩の、藩専任の医者だった父の影響で、幼くして医学が身近にあった玄白にとっての最大の関心事は、人体の中身でした。 当時は、中国から伝わった漢方が主流。 人間には五臓六腑があり、それらの調子が悪くなれば、煎じ薬で治すという考えが王道でした。 あくまで人間の外、表面を診断し、処方する。 しかし、初めて、腑分け、すなわち「解剖」に立ち会った玄白は、愕然とするのです。 「書物にある五臓六腑とは、全然違うじゃないか! そもそも人間の体の仕組みがわからなくて、どうして病と闘えるというんだ!」 中国伝来の医学書と違い、オランダ語で書かれた、『ターヘル・アナトミア』という本の解剖図は、見事に人間の内臓、骨格、筋肉までもが示されていました。 「これだ! この本だ! これを翻訳して全国の医者や学者に読ませないと、日本の医学は、間違った方向に進んでしまう!」 玄白は、同じ漢方医の前野良沢(まえの・りょうたく)、中川淳庵(なかがわ・じゅんあん)らと共に、『ターヘル・アナトミア』の翻訳に着手するのです。 翻訳は、難航を極めます。 そもそも、オランダ語がわからない、専門用語も知らない。 すなわち、オランダ語がわかっても、日本にはその用語がない。 たとえば、「視聴、言動を司り、かつ痛痒、あるいは感熱を知る」、すなわち「見たり聞いたり、しゃべったり、痛さ 痒さ 熱さを感じるもの」というのは、従来の日本の医学にはない用語でした。 これを玄白は、まるで神様が持つ器官のようだということで「神経」と名付けました。 3年5か月をかけて完成した翻訳本、その名は『解体新書』。 この本をめぐっては、玄白と前野良沢の間で意見が分かれました。 まだ、この翻訳には不備があると言って出版を嫌がった良沢。 完全を目指すより、一刻も早くこの本を世に出すべきだと主張する玄白。 玄白には、遠くの未来より、今、今日が大切だったのです。 日本の医学に新しい道を切り開いた賢人・杉田玄白が人生でつかんだ、明日へのyes!とは? 『解体新書』の翻訳で知られる杉田玄白は、1733年、江戸、牛込に生まれた。 父は、若狭国小浜藩の藩医。 時に藩主や、幕府の重鎮の診察も行う名医だった。 しかし、母は、玄白を生んだ際、難産の末、亡くなる。 玄白は、母を知らずに育った。 幼い玄白は、飼っていた犬が病気にかかったのを知って、父に懇願する。 「父上、この犬をお助けください! 父上なら、きっと治してくださいますよね?」 しかし、父は、犬に触ろうともしない。 なぜかと尋ねると、父は言った。 「お殿様をおさわり申し上げるこの手を、動物に使うわけにはいくまい」 玄白は、理解できなかった。 犬もまた命を持つ生き物。手が汚れれば洗えばいいのではないか。 命を助けることに、どうして区別や差別があるのか、よくわからなかった。 大切な飼い犬は、苦しんだすえ、亡くなってしまった。 最後にゆっくり目を閉じる、愛犬。 なぜ父は、助けなかったのか。 目の前で消えていく命。 このとき感じた違和感を、玄白は、生涯忘れなかった。 杉田玄白の父は、出産の際に亡くなった妻の面影を、我が子に重ね合わせるように、玄白を大切に育てた。 物心がつくと、医術を教え、学問の大切さを叩きこむ。 玄白が8歳の時、一家は若狭国小浜に移る。 玄白は、最も多感な幼少期を小浜で過ごす。 父の名医としての評判は、またたく間に藩内に広がった。 しかし玄白は、兄を、そして義理の母を、相次いで亡くす。 名医とはいえ、はしかという流行り病になすすべもなかった。 玄白は義理の母を、最後まで「お母さま」と呼べなかった。 そのことが心残りで、後悔した。 「たった一度でいい、そう呼んであげたかった。それを母が望んでいることを、知っていたのに…」 後悔は、取り返しがつかない。 だったら後悔しないように、今を精一杯生きるしかない。 20歳のとき、父の跡を継ぎ、小浜藩の藩医になった。 江戸の小浜藩の上屋敷で、医者として勤務するよう命じられる。 玄白には、医学を学べば学ぶほど、解せない一点があった。 人体の中身を知らないひとが、なぜ、こんなにも多いのか。 中身を知らずして、なぜ、病と闘えるのか。 そんな22歳の玄白に、またとない機会が訪れる。 処刑された罪人の腑分けに立ち会わないかという誘いだった。 杉田玄白の迷いは、吹っ切れた。 『ターヘル・アナトミア』。 オランダ語で書かれたこの解剖書こそ、自分が望んでいたものだった。 蘭学に長けた医者仲間の先輩、前野良沢を誘って翻訳に着手。 しかし、良沢と玄白は、当初から意見の相違でぶつかる。 何事も完璧を目指し、後世に名が残るのであれば、間違いは犯したくないという良沢。 一方の玄白は、今このときも、適切な治療を受けずに亡くなっていく患者の存在を感じ、一刻も早い、翻訳書の完成を訴える。 3年5か月経って、おおよその翻訳を終えても、良沢は、出版を拒んだ。 「これを出しては、私たちの功績に傷がつきます」 10歳も年上の良沢に、玄白はくってかかる。 「良沢さん! 遠い未来に残る私たちの名誉など、どうでもいいのです。 大切なのは今です。今、目の前にいる患者です! 私は、幼い頃より、多くの親しいひとを亡くしてきました。 もうあんな思いは嫌です。 お願いです。今すぐ、出版させてください!!」 良沢は、『解体新書』の奥付に、自らの名前を記さないことを条件に、出版を嫌々承知した。 玄白の英断のおかげで、多くの人命が助かった。 さらに、蘭学の評価が高まり、西洋の文化芸術への扉が開く。 『昨日の非は悔恨すべからず、明日これを念慮すべし』 杉田玄白 【ON AIR LIST】 ◆Human Body~I L-O-V-E U / TAKE 6 ◆グレゴリオ聖歌「命の中で」 / オランダ・バロック ◆Journey Into The Body / 川井憲次 ◆風は西から / 奥田民生
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RECIPE

レシピ

生どんことサバのピリ辛煮

今回は、福井県小浜市の特産でもある食材、サバを使った料理をご紹介します。

材料 (2人分)
  • 一番採り 生どんこ L1パック
  • 生サバ(3枚おろし) 1尾分
  • キムチ 100g
  • 長ねぎ 1本
  • 小麦粉 少々
  • 塩・こしょう 少々
  • サラダ油 小さじ1
  • 【A】味噌 大さじ1/2
  • 【A】みりん 大さじ1
  • 【A】水 150ml
写真 カロリー / 392kcal(1人分)
調理時間 / 15分
使用したきのこ / 一番採り 生どんこ
作り方
  • 1.
  • サバは小骨を取って、3cm幅に切る。塩、こしょうを振り、小麦粉を薄くまぶす。
  • 2.
  • 生どんこは傘と軸で切り分け、ねぎの白い部分は1cmの斜め切りに、青い部分は薄切りにする。
  • 3.
  • フライパンにサラダ油を熱し、サバは皮目から、生どんこは軸も一緒に加えて片面3分ずつ焼く。
  • 4.
  • キムチと1cm幅のねぎを加えて軽く炒め、ねぎがしんなりとしたら【A】を加えて3分ほど煮る。皿に盛り付け、薄切りのねぎをのせる。

yesとは?

番組概要

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』今週あなたは、自分を褒めてあげましたか? 古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。あなたの「yes!」のために。

語り:長塚圭史 脚本:北阪 昌人 ▸ Profile

放送時間
TOKYO FM…SAT 18:00-18:30 / FM大阪…SAT 18:30-19:00
FM長野…SAT 18:30-19:00 / FM軽井沢…SAT 18:00-18:29
  • TOKYO FM…SAT 18:00-18:30
  • FM大阪…SAT 18:30-19:00
  • FM長野…SAT 18:30-19:00
  • FM軽井沢…SAT 18:00-18:29
長塚 圭史

PROFILE

長塚 圭史
語り: 長塚 圭史
1975年生まれ。東京都出身。96年、演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げ、作・演出・出演の三役を担う。08年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト「葛河思潮社」を始動、三好十郎作『浮標(ぶい)』を上演する。近年の舞台作品に、『鼬(いたち)』、『背信』、『マクベス』、『冒した者』、『あかいくらやみ~天狗党幻譚~』、『音のいない世界で』など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。 また、俳優としても、NHK『植物男子ベランダー』、WOWOW『グーグーだって猫である』、WOWOW『ヒトリシズカ』、CMナレーション『SUBARUフォレスター』など積極的に活動。
北阪 昌人
脚本: 北阪 昌人
1963年、大阪生まれ。学習院大独文卒。 TOKYO FMやNHK-FMなどでラジオドラマ脚本多数。 『NISSAN あ、安部礼司』(TOKYO FMなど全国FM37局ネット)、『ゆうちょ LETTER fo LINKS』(TOKYO FMなど全国FM38局ネット)、『世界にひとつだけの本』(JFN)、『AKB48の私たちの物語』(NHK-FM)、『FMシアター』(NHK-FM)、『青春アドベンチャー』(NHK-FM)などの脚本・構成を担当。『プラットフォーム』(東北放送)でギャラクシー賞選奨、文化庁芸術祭優秀賞受賞。『月刊ドラマ』にて、『ラジオドラマ脚本入門』連載中。 主な著書に『世界にひとつだけの本』(PHP研究所)、『えいたとハラマキ』(小学館)がある。

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