第493話 体験から全てが始まる
-【福岡県にゆかりのあるレジェンド篇】漫画家 松本零士-
[2025.02.08]
Podcast

福岡県久留米市出身の、漫画家のレジェンドがいます。
松本零士(まつもと・れいじ)。
『銀河鉄道999』『宇宙戦艦ヤマト』『宇宙海賊キャプテンハーロック』など、松本が描いた多くの名作漫画は、長きにわたり、アニメ化、映画化され、今もなお、世界中のファンに愛されています。
彼の作品は、宇宙を舞台にしたSFが多く、壮大なファンタジーという印象が強いですが、実は繊細で微妙な人間の感情、裏切りや嫉妬、怖れや後悔などが、丁寧に描かれていることでも有名です。

キャラクターづくりには、彼自身が幼いころから体験したこと、見たこと、感じたことが、色濃く反映されています。
松本は、戦後上京するまでの多感な幼少期、青年期を、小倉で過ごしました。
北九州市小倉北区にある、『北九州市漫画ミュージアム』は、まず等身大のハーロック像が出迎えてくれます。
このミュージアムは、北九州にゆかりのある漫画家の作品や功績が展示されていますが、『北九州発・銀河行き~松本零士を生んだ街~』のコーナーは必見。
松本零士のおいたちや創作の源に辿り着くことができます。
彼が小倉から上京したときに乗った、蒸気機関車。
そのときの、汽笛の音、煙の匂い、果てしない旅立ちへの恍惚と不安、それらの体験は全て、『銀河鉄道999』に投影されているのです。

角川書店刊、『未来創造―夢の発想法』という著書で、松本は、こんなふうに書いています。
「創作のためのヒントをどこから得るか?
僕はそのすべてを『体験』から得ている。
生まれてからいままでにこの目で直に見たもの、この耳で聞いたこと、行った場所、やったこと、出会った人々…、僕自身の体験が創作のすべての源泉になっていると言っていいだろう」
漫画界にあらたな革命を起こした賢人、松本零士が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

漫画界、アニメ界の巨匠、松本零士は、1938年1月25日、福岡県久留米市で生まれた。
父は一兵卒として、陸軍に入隊。
努力の甲斐あって、最終的には航空隊の陸軍少佐まで登りつめた。
父の仕事の関係で、社宅は基地や飛行場の近く。
幼くして、爆音を轟かす戦闘機を見上げていた。
松本は、戦時中も夜空を見るのが好きだった。
疎開先の田んぼに寝っ転がって、星を眺めた。
戦争が終わり、父が戦地から戻ってきたとき、父に尋ねた。
「ねえ、父さん、火星にひとはいるの?」
父は、一緒に寝ころびながら、言った。
「いるかもしれんし、いないかもしれん」
そっか…まだ誰もわからないんだ。
そのことが、うれしかった。
祖父の老眼鏡を壊し、組み立て直して、自分で望遠鏡を作ってみた。
少しだけ、大きく見える火星。
いつか、あそこに行ける時代が来るかもしれない…。
宇宙への夢が、どんどんふくらんでいった。
松本零士が幼少期を過ごした、北九州・小倉。
家のすぐ目の前に朝日新聞西部本社があったことは、松本少年に3つのギフトを用意した。
ひとつは、新聞社から出てきた松本清張に出会い、漫画本をプレゼントしてもらったこと。
2つ目は、新聞社の中に入り込んで、印刷行程を全て見学させてもらえたこと。
自分が漫画を画いていることを職人さんに話すと、「そうか、坊主、今度おまえが画いてる漫画、持って来い。製版してやるから」と言われた。
製版?
漫画を持っていくと、それが、紙に印刷された。
「ああ、この線はダメだ、細くて出ないなあ」
手書きの自分の漫画が、まるで雑誌に掲載されたような喜びが全身に走る。
職人さんにぴったりくっついて、色の仕組み、製版の技術を教えてもらう。
楽しかった。
新聞社の目の前に住んだ、3つ目のギフト。
それは…松本にとって、かなり厳しい試練だった。
高校卒業を目前にひかえ、松本零士は、自分の未来に希望を抱いていた。
家のすぐ目の前の新聞社。
ある担当部長さんが可愛がってくれて、「ウチの嘱託になって、漫画を画け」と言った。
クラスのみんなにも、「僕は、新聞社に入るんだ!」と自慢げに話した。
しかし…その担当部長は異動。
後任は「そんな話は知らない」の一点張り。
さらに、こんな言葉を浴びせられた。
「おまえみたいなのは、東京に行けばいっぱいいるんだってな」
確かに伝送技術も進歩を遂げ、東京にいる漫画家が挿絵を画いたり、イラストを掲載できるようになっていた。
悔しかった。泣いた。路面電車にあてもなく乗り続けた。
夜の電車、カーブできしむ音が、心の傷を深くする。
松本は、思った。
「そうだ、東京に行こう…ここにいても、僕は悔やむばかりだ」
結果的に、就職できなかったことで、未来が開けた。
松本零士は、体験を重んじた。
自分に起きた良い事も悪い事も、全て作品に昇華する。
大切なのは、動くこと。
自分の目で見て、体で感じて、傷つくことを恐れないこと。
夜の路面電車は、やがて宇宙に飛び出し、火星に辿り着いた。


【ON AIR LIST】
◆銀河鉄道999 / ささきいさお
◆無限に広がる大宇宙 / 宮川泰
◆宇宙戦艦ヤマト / ささきいさお
◆さすらいの舟唄 / コロムビア男声合唱団
◆銀河鉄道999 / ゴダイゴ
◆『組曲 銀河鉄道999』より「終曲-永遠の祈り(望郷~目覚め~祈り)」 / コロムビア・シンフォニック・オーケストラ
★今回の撮影は、「北九州市漫画ミュージアム」様にご協力いただきました。ありがとうございました。
営業時間など、詳しくは公式HPにてご確認ください。
北九州市漫画ミュージアム 公式HP
松本零士(まつもと・れいじ)。
『銀河鉄道999』『宇宙戦艦ヤマト』『宇宙海賊キャプテンハーロック』など、松本が描いた多くの名作漫画は、長きにわたり、アニメ化、映画化され、今もなお、世界中のファンに愛されています。
彼の作品は、宇宙を舞台にしたSFが多く、壮大なファンタジーという印象が強いですが、実は繊細で微妙な人間の感情、裏切りや嫉妬、怖れや後悔などが、丁寧に描かれていることでも有名です。

キャラクターづくりには、彼自身が幼いころから体験したこと、見たこと、感じたことが、色濃く反映されています。
松本は、戦後上京するまでの多感な幼少期、青年期を、小倉で過ごしました。
北九州市小倉北区にある、『北九州市漫画ミュージアム』は、まず等身大のハーロック像が出迎えてくれます。
このミュージアムは、北九州にゆかりのある漫画家の作品や功績が展示されていますが、『北九州発・銀河行き~松本零士を生んだ街~』のコーナーは必見。
松本零士のおいたちや創作の源に辿り着くことができます。
彼が小倉から上京したときに乗った、蒸気機関車。
そのときの、汽笛の音、煙の匂い、果てしない旅立ちへの恍惚と不安、それらの体験は全て、『銀河鉄道999』に投影されているのです。

角川書店刊、『未来創造―夢の発想法』という著書で、松本は、こんなふうに書いています。
「創作のためのヒントをどこから得るか?
僕はそのすべてを『体験』から得ている。
生まれてからいままでにこの目で直に見たもの、この耳で聞いたこと、行った場所、やったこと、出会った人々…、僕自身の体験が創作のすべての源泉になっていると言っていいだろう」
漫画界にあらたな革命を起こした賢人、松本零士が人生でつかんだ、明日へのyes!とは?

漫画界、アニメ界の巨匠、松本零士は、1938年1月25日、福岡県久留米市で生まれた。
父は一兵卒として、陸軍に入隊。
努力の甲斐あって、最終的には航空隊の陸軍少佐まで登りつめた。
父の仕事の関係で、社宅は基地や飛行場の近く。
幼くして、爆音を轟かす戦闘機を見上げていた。
松本は、戦時中も夜空を見るのが好きだった。
疎開先の田んぼに寝っ転がって、星を眺めた。
戦争が終わり、父が戦地から戻ってきたとき、父に尋ねた。
「ねえ、父さん、火星にひとはいるの?」
父は、一緒に寝ころびながら、言った。
「いるかもしれんし、いないかもしれん」
そっか…まだ誰もわからないんだ。
そのことが、うれしかった。
祖父の老眼鏡を壊し、組み立て直して、自分で望遠鏡を作ってみた。
少しだけ、大きく見える火星。
いつか、あそこに行ける時代が来るかもしれない…。
宇宙への夢が、どんどんふくらんでいった。
松本零士が幼少期を過ごした、北九州・小倉。
家のすぐ目の前に朝日新聞西部本社があったことは、松本少年に3つのギフトを用意した。
ひとつは、新聞社から出てきた松本清張に出会い、漫画本をプレゼントしてもらったこと。
2つ目は、新聞社の中に入り込んで、印刷行程を全て見学させてもらえたこと。
自分が漫画を画いていることを職人さんに話すと、「そうか、坊主、今度おまえが画いてる漫画、持って来い。製版してやるから」と言われた。
製版?
漫画を持っていくと、それが、紙に印刷された。
「ああ、この線はダメだ、細くて出ないなあ」
手書きの自分の漫画が、まるで雑誌に掲載されたような喜びが全身に走る。
職人さんにぴったりくっついて、色の仕組み、製版の技術を教えてもらう。
楽しかった。
新聞社の目の前に住んだ、3つ目のギフト。
それは…松本にとって、かなり厳しい試練だった。
高校卒業を目前にひかえ、松本零士は、自分の未来に希望を抱いていた。
家のすぐ目の前の新聞社。
ある担当部長さんが可愛がってくれて、「ウチの嘱託になって、漫画を画け」と言った。
クラスのみんなにも、「僕は、新聞社に入るんだ!」と自慢げに話した。
しかし…その担当部長は異動。
後任は「そんな話は知らない」の一点張り。
さらに、こんな言葉を浴びせられた。
「おまえみたいなのは、東京に行けばいっぱいいるんだってな」
確かに伝送技術も進歩を遂げ、東京にいる漫画家が挿絵を画いたり、イラストを掲載できるようになっていた。
悔しかった。泣いた。路面電車にあてもなく乗り続けた。
夜の電車、カーブできしむ音が、心の傷を深くする。
松本は、思った。
「そうだ、東京に行こう…ここにいても、僕は悔やむばかりだ」
結果的に、就職できなかったことで、未来が開けた。
松本零士は、体験を重んじた。
自分に起きた良い事も悪い事も、全て作品に昇華する。
大切なのは、動くこと。
自分の目で見て、体で感じて、傷つくことを恐れないこと。
夜の路面電車は、やがて宇宙に飛び出し、火星に辿り着いた。


【ON AIR LIST】
◆銀河鉄道999 / ささきいさお
◆無限に広がる大宇宙 / 宮川泰
◆宇宙戦艦ヤマト / ささきいさお
◆さすらいの舟唄 / コロムビア男声合唱団
◆銀河鉄道999 / ゴダイゴ
◆『組曲 銀河鉄道999』より「終曲-永遠の祈り(望郷~目覚め~祈り)」 / コロムビア・シンフォニック・オーケストラ
★今回の撮影は、「北九州市漫画ミュージアム」様にご協力いただきました。ありがとうございました。
営業時間など、詳しくは公式HPにてご確認ください。
北九州市漫画ミュージアム 公式HP