2013年10月7日
10月7日 被災地を舞台にしたノンフィクション小説『共震』(1)
東日本大震災の被災地を舞台にした小説『共震』。著者は、昨年、食品偽装を題材にした『震える牛』で注目された作家で経済ジャーナリストの、相場英雄さんです。相場さんは、震災前から、「みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎シリーズ」で、東北各地を取材してきました。震災後、ゆかりのある人達の支援や取材に動く中で、被災地の現実を目の当たりにします。
◆「被災地の現実を知ってほしい」
震災から1年、1年半、2年と、東京のメディアではカレンダーでしか震災を切り取らなくなってしまった。でも依然として、福島、宮城、岩手の地元のテレビ、新聞では毎日震災のニュースがある。
いろいろ取材に行くと、被災した方たちは「俺たちもう忘れられちゃうんじゃないか」とシビアに言っている。実際問題として、関西の講演で「もう東北大丈夫なんでしょ?」と言われて、椅子から転げ落ちそうになったことがある。東北とそれ以外の地域でこれだけギャップが生まれたら、おかしいだろうと。それを埋める一つの手助けになれば、という想いで、この小説を書いた。
『共震』は、ノンフィクション小説。被災地の復興を支える県の職員が殺害されるところから、物語はスタートします。取材にあたるのは、みちのくシリーズの主人公、新聞記者の宮沢賢一郎。取材をすすめるうちに、宮沢は、被災地をとりまく不明瞭な人と金の流れにたどりつき・・。物語はノンフィクションですが、ディテールは、相場さんの実際の取材をベースにしています。
◆復興を取り巻くダークな側面
言えないこともいっぱいありますが・・
震災発生直後はいろんなところからいろんな寄付が、お金だったり物資だったりが、ほぼその当時は善意で集まったが、そこに、お金儲けの糸口を見出す人達が必ず出てくる。震災直後は、さすがにそこまで僕も取材する、または報じるエネルギーがなかったが、震災から2年を経って、まだ震災をきっかけに、非常に大きなビジネスをやっていらっしゃる人もいるので、そろそろそういう人達を注意したほうがいいんじゃないですか、という警鐘の意味も込めて、この小説では被災地のダークな部分も描いたつもり。例えば沿岸の被災地のために寄付を集めましょうと5億円集めました。でも実際に寄付に回ったのは3000万円だったりする。そういう極端な例がかなりあるので、そういう部分もあったんだよということを、読者の皆さんにしってほしかった、というのもあった。実際、日本の捜査機関でそういう動向を監視している人達がいるので、気をつけたほうがいいんじゃないですか、という意味も込めて、書いた。
被災者支援金の詐欺横領、NPO法人の不正な寄付金の流用、そして官僚の汚職・・。さまざまな実態が浮かびあがる一方で、そこには懸命に生きる被災地の人達の姿、そして彼らを支える人達の想いが描き出されます。読んだ後に、タイトル『共震』の意味が胸に迫る一冊です。