2013年9月20日

9月20日 被災地の心のケア2

昨日に引き続き、お話は、東北国際医療会 ゆりあげクリニックのドクターで、心療内科医の桑山紀彦さん。紛争地域や難民キャンプの医療支援活動に長年携わり、東日本大震災でも、被災された方の心のケアを続けています。

津波を目の当たりにし、辛い体験をした子どもたちに桑山さんが行ってきたケアとは、一体どんなものなのでしょうか。

◆思い出して、形にする
子どもたちの心のケアは「向き合う」この一言に尽きる。とにかく津波のことを避けない。思い出して、形にして乗り越えていく。それが心のケアの全て。
いきなり演劇やるぞ、映画撮影するぞといっても、子どもたちは「ええ?」という感じになる。だから表現としては、2次元、3次元、4次元とアップグレードしていくのが定石。2次元表現とは絵を描く事。当時小学校3年制だったミキちゃんは、津波のことで一番覚えているのは、お母さんと一緒に津波に追われて逃げたという記憶。それをまず絵に書いてくれた。後ろの方にはドス黒い津波。手前には自分とお母さんを描いてくれた。よしミキちゃんここまで描けたか、じゃあ次はこれを立体、つまり粘土で作ろうと。あの津波の日を思い出して、勇気を出して作るジオラマ。絵で練習したことを紙粘土で練習してくれた。次はそれを音楽にする。津波の日のことを歌詞にする。3番は未来に向けた願いになる。「大きな波に襲われかけたよ。それと、ママと一緒に逃げた」…これはミキちゃんが作ってくれた歌詞。こうして紙に表現したものが粘土になり、それが歌詞に変わり音楽として演奏する。これが4次元表現。なぜなら時間軸があるから。3次元で作ったものを時間の経過とともに演奏し演じていくのが4次元表現。みなこのあたりになると楽しんでくる。「もっと曲作りたい、もっと歌いたい」と言ってくれて、良かったなと思った。
私たちと接してくれた閖上小学校の子どもたちは、津波に向き合えるようになったなと思う。もう津波の映像を見られるし海にも行ける。ちゃんと津波のこともしゃべることができる。一方、僕達がどうしようと思っている(懸念している)のは大人たち。大人たちはいつの間にか忘れていくのを待っている段階。でもあの出来事は忘れられない。このままだとPTSD(心的外傷後ストレス障害)という病気になってしまう。そんな大人の皆さんに、これからどう語っていただくか。そこは今の被災地の大きな問題。


桑山さんは、「いま、心配なのは大人たち」と話していますが、これについては、来週のこの時間に詳しくお伝えします。

2013年9月19日

9月19日 被災地の心のケア1

今朝は、東日本大震災から、2年半が経過した今、被災された方に必要な “心のケア”についてお伝えします。

お話を伺ったのは、東北国際医療会 ゆりあげクリニックのドクターで、心療内科医の桑山紀彦さんです。桑山さんは海外の紛争地域や難民キャンプ、スマトラ島やジャワ島の津波被災地で、医療支援活動に長年携わり、東日本大震災でも、被災された方の心のケアを続けています。

そして桑山さん自身も、3月11日の地震と津波を、勤務先で経験されています。

◆病院を開けなければいけない
私たちは宮城県名取市に拠点があり、仙台空港の横ですから地震と津波の直撃を受けました。とにかく周りは瓦礫の山で患者さんが何人も亡くなっていて、絶望の中でフラフラしていたら、朝の9時に患者さんが待っていた。ふと我に返った。我々は医者で、病院を開けなければいけない。電気が来ていなかったので自動ドアを手でこじ開けて中に患者さんを導き入れたところ、磯の香りがした。それは津波の被害者だから。命からがら逃げていらっしゃった方、ショックで放心状態の方・・・。海に一番近くて残った唯一のクリニックだったので、そこを維持するのは当然だったと思う。


こうして、桑山さんの病院は、被災翌日から24時間体制で診療を再開しました。そして2年半。心療内科医として、被災された方を診続ける桑山さんが、今感じていることを伺いました。

◆向き合い、乗り越える
現在の一番の問題は心の問題。子どもたちの心のケアは2年間たっぷりやって、「向き合う」この一言に尽きると思っている。とにかく津波のことを避けない。きちんと取り入れて整理して形にしていくという2年間だった。最初は画を書いてもらうという取り組みやすいものからはじめ、だんだんアップグレードしていき、粘土を使ったジオラマ製作や、瓦礫を楽器にして(子どもたちはガレッキと呼んでいた)音楽制作、さらに映像制作、そして映画の制作。さらに演劇。こうして表現をアップグレードしていくことで、彼らに表現してもらったという2年だった。思い出して形にして乗り越えていく。それが心のケアの全て。忘れていくのを待っていたら病気になるというのは、全世界で私たちが経験したことであり、標準的な考え方なのに、我が日本では「ほっておけば忘れるよ、だからほっておきなさい」という声が多くてびっくりしてしまった。それは心のケアには100%逆行すること。これはとても日本の文化的な背景があると思った。私たちは非常に規律があって周りのことを慮って行動するある意味良い癖がついている。だから静かにして、人の顔色を読んで行動しようという日本古来の考え方が、私たちの心のケアとは相容れなかったのだと思った。でもこれは文化の問題ではない。心が傷ついたら直さねばならない。そのためには文化の壁を乗り越えて新しい考え方、向き合って乗り越えていくというのを我々日本人も学ばねばならないなと、今回被災して思いました。



桑山さんは、NPO法人『地球のステージ』の代表理事も務めています。国際医療救援活動をしてきた桑山さんが案内役となり、世界の紛争地域などで起きている様々な出来事を、映像や音楽、語りを通じて 伝えるというステージイベント。96年から、全国で展開しています。近年は、東日本大震災の心のケアについても、このイベントで 実際の活動を伝えています。

★地球のステージ
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パーソナリティ 鈴村健一

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