
防災と日常の融合「防災×○○」がトレンド

今年も大きな地震、豪雨災害が各地で相次いでいます。そのたびに「備えを見直しましょう」といったことが叫ばれますが、あなたはその呼びかけに、だんだん「慣れてきてしまっている」ことはないでしょうか。
今回は私たちの「防災意識」そのものについて、東京大学 先端科学技術研究センター 教授の廣井悠さんに伺いました。
「なかなか我々や行政が災害の重要性、防災の重要性を啓発しても、一般の方が備えてくれないというのは昔からあります。東日本大震災の直後は、多くの方の意識が変わったと思いますが、少しずつまた元に戻っていった印象があります。
この問題、災害の研究をもう30年くらいやっていますが達観してきまして。
『人間ってそもそも不確実な未来にお金を投資したり備えたりしない生き物なんだ』ということなんです。行動経済学でも、人間は期待効用理論に当てはまらない、つまり不確実な未来にお金を使わない動物だということがいろんなところで認識されていて、それを受け入れるべきじゃないかと思っていて。だから「防災が大事だ、大事だ」と言うだけでは説得できない、ということなんです。
例えば「避難場所」は避難場所として整備していないですよね。公園として都市の住民に憩いの空間を提供する目的がまずあって、“裏目的”として避難場所という、2つの役割がある。だからあんなにたくさんあるわけです。
最近、興味深いキーワードがいくつかあります。そのひとつが「フェーズフリー」。災害にだけ備えるのではなく、日常と災害の両立を目指そうという考え方。例えば災害用だけの備蓄ではなくて、普段から水を多めに用意しておいて、飲みながら災害時にも備える、というような“日常との融合”。あとは災害以外の場面にも通じるような対策を取り入れていこう、という発想です。私はこれを「防災×○○(まるまる)」と呼んでいますが、いろんなものと掛け合わせて防災対策を進めていく工夫が必要ではないかと思っています。」
『フェーズフリー』は防災のトレンドワードとして浸透しつつあります。例えば趣味のキャンプ道具がそのまま防災に使えるとか、普段から食べているものを買い足しつつ備蓄するローリングストックなど。
さらに「防災×○○」で仲間を増やす取り組みも重要だと廣井さんは話します。
「最近、私がやっているのが『防災×スポーツ』という取り組みです。防災を考える組織は町内会や自主防災組織などいろいろありますが、高齢の方が多い。不謹慎と言われることもありますけど、やっぱり“楽しくないと続かない”んです。経験上ちょっと言葉は悪いですが高齢の方はどうしても「助けられること」を中心に考える傾向があるように感じます。そうすると、若い人が入りづらいんですよね。
そこで、防災とスポーツをうまく組み合わせる。若い人はスポーツが好きだし楽しみながら取り組めます。防災の従来型の取り組みにスポーツ要素が加わることで、仲間が増えるんです。仲間が増えると視点も増える。「こうやってみたら?」という提案も出てくる。ある意味“仲間集め”のために、いろんなものを組み合わせるのは防災に限らず重要なんじゃないかと思います。
防災って、ある意味“直後の対応”、つまり瞬発力が要求されるんですよね。瞬発力を鍛えるためのスポーツのトレーニングプログラムのようなものを、私の大学の後輩の「株式会社シンク」さんという方たちと一緒に作っていまして、これが結構楽しいんです。体を動かすのって楽しいじゃないですか。その中で自然と「バケツを持つ」「人を運ぶ」といった災害時の行動、いわゆるルーチン行動を身につけられる。そんな取り組みをしていますね。」
防災は年齢に限らず、自分がやらなくてもきっとどこかに備えがある、いざとなったら誰かが助けてくれるという「受け身」になりがちです。「防災×○○」はそんな意識を変えてくれるかもしれません。防災×観光、防災×アート、防災×ゲーム など、楽しんでいるうちにいつのまにか防災知識が身につく、備えに繋がる。あなたも防災×○○を取り入れてみませんか。
廣井悠さんのインタビュー前編
「帰宅困難者問題 震度6強〜7のシミュレーションで見えてきた課題」の記事はコチラから
