今週は『渋滞学 後編』。
先週に続いて東京大学 先端科学技術研究センター 
数理創発システム分野 西成活裕教授にお話を伺いました。

渋滞はもちろん目的地への到着が遅延するもの。
その経済的な損失は日本全体で年間12兆円という試算があること。
解決のキーワードは「車間距離40m」だということを先週お伝えしました。

それだけではありません。
渋滞は交通事故に繋がるもの。
渋滞防止は事故を防ぐことにもなるのです。

西成教授によると高速道路で起こる事故の20%は渋滞が原因。
高速道路は渋滞をして車が止まっているというイメージがないもの。
そのため見通しの悪い坂道の下で渋滞が起こっている時に
普通に走ってきた運転手にとっては、急に目の前に止まっている車が出現することになり、
ぶつかってしまうといことが少なくありません。
渋滞における、後ろからの追突事故は、非常に多いのです。

また、渋滞は運転手をイライラさせ、周りに注意が行き渡らなくなり、
追突すると二次的な事故も、もちろん考えられます。

20年「渋滞学」を研究してきた西成教授が出した結論は、
クルマの渋滞が解消できるか否かは人間にかかっているということ。
研究当初は道路を建設したりすることで渋滞をいかに無くすかを考えました。
その後は運転手の挙動を変えることによって渋滞を無くす方法を考えました。
そして、技術の革新も渋滞緩和に有効です。
今後、自動運転が実用化されれば、渋滞は今よりは緩和されることは確実だそうです。

でも、運転手が利己的な振る舞いをする社会であれば、
渋滞は増えていってしまうのではないかと西成教授は指摘します。
自分も早く目的地に着くのではなく、みんなでそうなるようにしようという、
社会的な視野をを我々が持つことができるかどうか。
そこにこそ渋滞解消の鍵があると西成教授は考えています。


東京大学 先端科学技術研究センター 
数理創発システム分野 西成活裕教授は数理物理学の専門家。
水や空気の流れを研究していました。

子供の頃から渋滞がキライだったという西成教授。
20年ほど前のある時、水や空気も「流れ」なら人やクルマも「流れ」。
水や空気に使われている数学を交通渋滞にも応用できないか?と考えました。
そして、やってみると・・・ イケる!
ということで確立してきたのが「渋滞学」です。

出版した本は売れ、メディアにも頻繁に登場。
渋滞学と西成教授は全国に知られるようになりました。
西成教授はその考えを発展させて、日常生活でムダを省く方法、
仕事の効率を上げるコツなどの提言もしています。

夏休み。
渋滞が他の時期よりも起こりやすい時期。
今週と来週は前後編にわけて西成教授の「渋滞学」をお伝えします。

数学を使って渋滞を解析した結果、わかったことがあります。
「40m」という車間距離が渋滞とそうではない状態をわける鍵だということ。

それまでの習慣だと高速道路では時速40km以下での走行になると「渋滞」の表示を出し、
一般道路では時速10km以下の走行になると「渋滞」としていたのですが、
それでは渋滞の捉え方に一貫性がない。
全てに共通する渋滞の定義は何か追求していったところ、
距離で分類したほうが早さで分類するよりも良いという事が見えてきました。

とっている車間距離が少ないと前の車がブレーキを踏めば、
追突を避けるために自分もブレーキを踏まなければいけません。

前の車との車間距離が十分にとっていれば
前のクルマがブレーキを踏んでも自分は一定の早さで走っていけます。

自分がブレーキを踏んだことで、そのブレーキを踏む行為が後ろにも伝わっていくのか。
自分はブレーキを踏まず、後続車にブレーキを踏む行為が伝わることはないのか。
ここが渋滞のポイントになります。

車間距離が40m以下だとブレーキを踏む行為が伝わっていってしまう。
しかも、それは増幅していく。
車間距離を40m以上開けていればブレ―キを踏む行為は伝わらず、
渋滞の小さい波も吸収できて、渋滞を未然に防ぐ効果もあるのです。

ただし、道路のキャパシティもあります。
1時間に2,000台のクルマが集まると渋滞は避けられません。
それは例えば、ゴールデンウィークやお盆の帰省ラッシュ。

でも、1時間2,000台に満たないのに渋滞が起きるのは、
みんなが「車間を詰めすぎているから」なのです。
それは例えば、日曜日の夕方のような、頻繁に起こっている渋滞です。

前のクルマのスピードが遅い時や、
全体的なクルマの流れのスピードが落ちてきた時は、
早く進みたいという意識から車間距離を詰めてしまうもの。
しかし、それは反対の結果を生むことになります。

1回渋滞が起こると、その渋滞を解消するのに時間がかかります。
渋滞になると、止まったり、動いたりという状態が繰り返されため、
遅くても一定の早さで走るよりも到着時間はずいぶん遅れます。
燃費もかなり悪くなって西成教授の実験では、
渋滞になる場合と、緩いスピードでも一定の速さで進める場合、
最大で約40%も燃費が違うという結果が出ているそうです。

また、渋滞でクルマの到着が1時間遅れると、
その時間で生み出せたはずなのに生み出せなかった経済損失が3,600円。
その1年間の総額は日本全体で・・・ 12兆円 !
という数字を国土交通省が出しているそうです。

覚えておいていただきたいのは、いちばんの渋滞発生ポイントは登り坂。
登り坂は渋滞原因全体のうち1/3以上を占めています。
渋滞の名所と言われている花園インターチェンジや小仏トンネル。
あれらは実はちょっとした登り坂なのだそうです。

なぜこうしたところで渋滞が起こるかというと、
運転手がちょっとした登り坂だと、登り坂だということに気付きません。
アクセルをそのままに運転するので、クルマは少しずつ遅くなる。
そうすると後続車が車間距離が詰めていた場合、衝突を避けるためにブレーキを踏む。
その後ろのクルマも車間距離を詰めていた場合、より強くブレーキを踏まなければいけない。
そうしてブレーキの連鎖となり、それが十数台続けば、クルマは止まり渋滞が起こります。

1時間のクルマの通行が2,000台に満たない場合、
渋滞が起こるか起こらないかはドライバーの面々の運転にかかっているというわけです。
個々の運転手の努力が集まれば渋滞は回避できるのです。
渋滞が減少すれば、事故の危険も減るもの。
これからの運転は車間距離40mを守るようにしましょう。

来週は『渋滞学 後編』です。






交通心理学という分野があります。
どんなタイプの人が事故をよく起こしやすいか研究し、
その成果を反映させてより安全な車社会を形成しようというもの。
交通心理学士という資格もあり、交通心理学会という組織も発足しています。

今回は、その交通心理学の専門家
九州大学大学院 システム情報科学研究院 
志堂寺和則教授のコメント・監修で「交通心理テスト その1」をお送りしました。

まず、下の3問。
あなたはYESですかNOですか?


<第1問>

【些細なことで、意外とすぐに「イラっと」する】


<第2問>

【忙しい現代社会、特に急いでいなくてもエスカレーターは右側を歩いて進む】


<第3問>

【大切な持ち物でも、どこかに忘れたり、失くしたりする、そそっかしい性格だ】



この3問はせっかちか、短気か、といったことについての質問です。
せっかちな人、そそっかしい人は基本的に余裕のない運転をしています。
一時停止をしない、スピードを出し過ぎる、車間距離をつめて走る。
急いでいる運転を日常的にやっているので
前の車との接触などの事故が起きやすくなる。
さらに短気な人というのも事故を起こしやすいタイプです。
無理な割り込みをされた時に車間をつめて煽るというような行動に出がちです。
運転に限らず、急ぐことと正確さは相反するということがわかっています。
急げば正確度は落ちるし、正確にやろうとすると急いでやれないという事。
安全運転をしようとすると、急がないという事が大事になります。
上の3つの設問がYESだった方、その数が多い方は、気をつけて下さい。


<第4問>

【明るい時、憂鬱な時、1日の中で感情はとても豊かだ】


<第5問>

【買い物で欲しいモノがあると金額や後先のことはあまり考えず買いに走る】


この2つは「感情的か」「衝動的か」ということについての質問。

気分屋タイプ、衝動的な人たちは、基本的にムラがあり安定した動作が出来ません。
調子が良い時は良いのですが、調子が落ちてしまうと危険な運転になりがちです。
また、こういう人たちは自分を抑えられないという特徴を持っています。
一時停止をしないといけないところを、急いでいるからといって、
徐行で通過したりというような行動が多く見られます。

衝動的という場合は、いつもでは無い、そこが気分屋に関わるところで、
ある時はちゃんと落ち着いて行動が出来る、一時停止が出来る。
ところが衝動的な人というのは何か要素が入ってしまう、
例えば、急いでいるという状態になると自分を抑えられないというような事が発生します。
こういったタイプの人は、極力、自分を冷静に見るといいう習慣を身につけて下さい。
冷静に自分を見ることを心理学では「メタ認知」と言います。
運転している自分を冷静に1つ上の視点から眺める事を心がけるようにしましょう。

第1回「交通安全 心理テスト」。
5問出題しましたがYESはいくつあったでしょうか?

YESが多いほど運転が危ないタイプ!
ご自分がYESだったところを、もう一度、思い返してみて、
今後の安全運転に役立てて下さい。
近いうちに、第2回の心理テストも行います。


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