事故が起こる数秒前のふだんの生活と
事故が起こった数秒後の現場のギャップが大きすぎて
とても受け入れることができなかったと語る風見しんごさん。

9年という年月は事故のことを思い出した瞬間に、
感情に流されないよう気持ちを抑える術や
生活していく心を身につけることを可能にしました。
でも、その長い歳月をもってしても、
事故の光景や悲しさを忘れることはありません。

そんなことがないように
小さな子供がいるお父さん、お母さんには、
通学路を一緒に歩いてみてほしいといいます。

何度か一緒に歩けば、危険なポイントがわかるもの。
それを子供に伝えれば、子供はできるだけ気をつけるのです。

ただ、最近の交通事故は、どんなに気をつけたとしても、
被害者が生まれてしまうといったタイプが多発。
いくら子供たちに歩道の内側をみんなで列になって歩くように注意しても
そこに車が突っ込んでくれば、子供の安全は一瞬にして吹き飛びます。
車のハンドルを握る大人が子供たちの安全を守るしかないのです。

今年の春、風見しんごさんは、
娘の「えみる」さんが亡くなってから1年後の
「えみるの赤いランドセル」に続く2冊目の本を出版しました。
タイトルは「さくらのとんねる 二十歳のえみる」。
なぜ、9年後というタイミングで、エッセイを綴ったのか。

前回の本は「えみる」さんが生きた証を残したいと執筆したもの。
今回は、前作からの時間をどんな気持ちで生きてきたか知りたいという依頼があり、
その後の人生を家族がいかに過ごしてきたか
「えみる」さんに手紙を書く気持ちで綴ったといいます。

今年、2016年は「えみる」さんが生きていれば二十歳、成人になっていた年。
このような悲劇を1つでも減らすことを社会全体が考えるべきです。
風見しんごさんの交通安全啓蒙活動は、その目的に大きく貢献しています。


         



少し過ぎてしまいました。
11月 第3日曜日は「世界道路交通犠牲者の日」。
今年は11月20日でした。

交通事故のニュースは音声で、文字で、映像で伝えられます。
でも、そこからは「悲惨さ」が抜け落ちています。
「交通事故」という言葉の裏に、どれだけの酷さ・悲しさ・辛さがあるのか。
誰もがわかっているようで、わかっていないのかもしれません。

今週と来週は9年前、交通事故で10歳の長女えみるさんを亡くした
俳優・タレントの風見しんごさんに体験談。
風見さんは事故以来、交通安全啓蒙活動も行っています。

その交通事故が起きたのは、いつもと変わらない平日の朝。
えみるさんはいつものように元気に「行ってきまーす!」と家を出ました。
自宅から100mほど進み、右に曲がって姿が見えなくなるのですが、
えみるさんは、その日もいつものように100m進んだところで振り返り、
家族に手を振って姿を消しました。
それが風見さんの家族が生きているえみるさんを見た最後になってしまったのです。

右折してから50mほどのところにある横断歩道を青信号で渡っている時、
えみるさんは右折してきたトラックに巻き込まれて命を落としました。

風見さんは自宅に駆け込んできた近所の人から事故を知らされます。
その人は何を聞いても「えみるちゃん、事故」と繰り返すだけだったといいます。
風見さんはどこか擦りむいて血を出しているか、
ひどければ骨折でもして泣いているかもしれないなと思ったといいます。

しかし、サンダルを引っ掛けて現場に行くと、
泣いているはずのえみるさんの姿はありません。
横断歩道に不自然に停められた1台のトラック。
何故、そうしようと思ったか分からないそうですが、
風見さんがトラックの下を覗き込もうとすると
近所の人に「見ないほうがいい!」と声を上げました。
それでも、風見さんがトラックの下を見ると、後輪の間にえみるさんはいました。

風見さんはトラックを持ち上げてえみるさんを助けようとしました。
でも、どんなに力を入れてもトラックはびくとも動きません。
その瞬間、風見さんは現実のあまりの酷さと自分の非力さに道路にへたりこんでしまいました。
そこから目に入ったのは、エンジンがかかったままのトラックの下から
えみるさんを救い出そうとしている奥さんの姿でした。

それまでの風見さんは、死亡交通事故のニュースにふれれば、
「悲惨だな」「辛いだろうな」と思っていました。
ただ、えみるさんの死まで、まさか自分や自分の家族の身に、
そんなことがふりかかるとは想像もしていなかったといいます。

交通事故は突然、起こる。
気を許せば誰かが加害者になり、誰かが被害者になる。
そのことを肝に命じて、毎日の生活を送らなければいけません。


  
   ー 前編から続く ー 

今回は「フリッカーテスト」という
心理学・生理学的な数値を利用する交通事故防止策を追跡する後編。

フリッカー値による疲労計測を、
雇用するドライバーの交通安全に活かせないかと考えたのが、
東京 武蔵野市 東京ユニオン物流株式会社 安全環境衛生室に勤め、
交通心理士でもある 岡本秀郎(おかもと・しゅうろう)さん。

現在、運送業を営む会社はドライバーの健康や疲労を
点呼時に確認することが義務づけられています。
しかし、それはどうしても自己申告に頼ることになってしまい、
自分の疲労をきちんと把握しているか?
疲労があると思っていても正直に管理者に報告をするか?
という2つの問題がありました。

その壁を取り払わないと本当の事故防止には繋がらないと。
疲労を客観的に測る簡易的なシステムが無いか探していたところ、
岡本さんはフリッカーヘルスマネジメント株式会社 
代表取締役 原田暢善さんが開発したアプリにいきあたったのです。

そこでメールを送ったことから2人は直接会い、
原田さんは、その時点の技術を、岡本さんと意見交換をして改良。
Flicker Health Management System(FHMシステム)を確立させました。

東京ユニオン物流では、
このFHMシステムを交通事故防止に利用し、
長い営業所では3年になるといいます。

使用は朝と夕方の点呼時。
疲労を数値化して計測値も出ますが、
その人の過去の計測値から算出した標準値に対して、
どれだけ落ちたか? を評価して「疲れています」「元気です」
「管理者に相談しましょう」という判定までしてくれます。
それを基に点呼する人が実際に面談をして判断するというように
東京ユニオン物流では補助的な情報として使っているそうです。

やはり、こうしたシステムは得られた情報を、
どう取捨選択してどう生かすのかが重要なポイント。

東京ユニオン物流では去年1年間のデータを解析。
朝のフリッカー値と1日走った走行の正確さというのに相関があるとか、
急フレーキの回数と相関があるとかが出るので
そこから事故防止に繋げられると考えていると
岡本さんはおっしゃっていました。

国交省は今、疲労に対する事故の対策に、
補助金を供出したりして高度な管理を目指しています。
フリッカーヘルスマネージメントも国交省の補助対象。
しかし、こうしたツールを使っている運送会社は、まだ一握りだろうとのこと。

プロドライバーの危険運転をなくす手段として
より正しく心身の状態を判断できるツールがを
運輸業界各社が活用するようになることが待たれます。

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