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題名 『朱い鳥』
其処は枯れ木の森だった。呪いが掛けられていると信じられ、誰も近付くことはなかった。
その森をずっと進んで行くと、やがて青々とした葉が生い茂る森に入る。そしてその森をさらに奥へ進むと、薄暗い藪の中に足を踏み入れることになる。また進むと、その藪の向こうに明るい黄緑色の草原があるのがわかった。
そこを目指して進んでいたとき、ふっと何かがよぎった気がした。何かは草原にいるらしい。
そのうちそれが、朱いものだとわかった。朱いものは風に吹かれた木の葉のように、あちこちを動いていた。
『朱い鳥』
【 一 】
明るいの草原の上を彼女は舞っていた。ただ独りであちこちへ動き回りながら踊る様子は、まるで風に舞う木の葉のようだった。ただ一つ違っていたことは、真白な肌に赫いドレスを着ていて、一面黄緑で埋め尽くされた草原の中で映えていたことだった。
彼女は少し茶色がかったブロンドの髪を頭の後ろにまとめていた。瞳はその身にまとったドレスと同じくらい朱い色をしていた。
同じ時、藪の中を誰かが歩いていた。その人は男だ。どうやら彼は道に迷ってこの藪を出られなくなってしまったらしく、闇雲に彷徨っていた。
彼は不意に立ち止まり、顔を上げた。その視線の先には、先ほどの朱い踊り子が居た。正確には、赫いドレスを着た女だ。いつのまにか彼は草原の方まで来ていたらしい。
その場で立ち止まったまま、彼女の踊りを眺めていた。彼は足を踏み出し、太陽の光をいっぱいに浴びた草原へ出た。
ほんの少し眩しさに目を細めながら、彼は真っ直ぐ彼女を見ていた。その美しさにただ見とれていた。
彼女が一瞬こちらの方を向いた。そのまま踊り続けようとしたが、彼がそこにいることに気付いたのか、動きを止めて彼の方を見た。そのまま二人は、互いの存在を認識するかのように相手を眺めていた。
彼はゆっくりその左手を彼女に伸べ、ダンスを申し込んだ。彼女は少し驚いていたようだが、柔らかい笑みを浮かべるとその誘いを受け入れ、彼の左手に自分の右手を重ねた。
【 二 】
二人は手を取って踊りながら、話をした。
彼はこの森に迷い込んで此処に辿り着いたと言った。そして彼女に、何故此処に居たのか、と尋ねた。
彼女は曖昧に微笑んだまま、返事をしようとはしなかった。踊り子ではないのか、という質問には、すぐに否定した。ただ、自分は踊りたくて踊っていたのだと言った。
彼は表情をあまり変えないまま、彼女は楽しそうに笑って、踊っていた。
突然、彼は踊るのをやめた。彼女は引っ張られるようにして止まった。声をかけても彼は答えようとせず、表情の浮かんでいない顔のまま、彼女をじっと見ていた。何か迷っているようだ。
彼は、握っていた彼女の手を離すと今度は腕を引き寄せ、彼女をその胸に抱き留めた。彼女はあまりに唐突なことに驚いていたが、抱き締めている彼の温かさが心地よく、そのまま身を預けた。
彼は一緒に暮さないかと言った。ずっと一人で暮らしているのは寂しい、と。
彼女は小さく頷いた。私も一人だったから、と。彼女はこれまで誰かと一緒にいたことはなく、寂しいという感情もよくわからなかった。だが、彼がどこか痛そうな声だったこと、そして何より自分がとても嬉しかった。だから、頷いた。
彼は抱き締めていた手を離すと、そっと彼女の手の甲に口付けた。その時、彼女は今まで感じたことのない想いを抱いた。
【 三 】
二人は草原を後にした。
二人は手を取って長く続く森を抜け、外の世界に出て行った。
不思議と帰路で迷うことはなかった。
彼の家は森を抜けて少し歩いたところにあった。彼女の赫い服はとても目立つものではあったが、彼の家は人がほとんど住んでいない辺境にあるため、誰かが見るようなことはなかった。
二人は一緒に生活し、いつも行動を共にしていた。
ある日二人は、離れたところにある街まで出かけた。彼女は楽しそうにはしゃいでいた。
そのうち、周囲にいた人々が彼女の朱い瞳を珍しそうに見始めた。中には不吉だと言って避けて行く人もいた。彼女は悲しそうな顔をして俯いた。彼もそんな彼女を見るのは悲しかった。彼は彼女の手を引いて街を出た。
彼女は家に帰ってからもずっと落ち込んだままだった。慰めようとしても、彼女はただ窓の外を眺めるだけだった。彼はそっと彼女を抱き締めた。
彼女は泣いた。彼は彼女の髪をそっと撫でた。
「愛してるよ」
彼はいつの間にかそう言っていた。彼は彼女が驚いて顔を上げたとき、やっとそれに気が付いた。彼はすぐに彼女に背を向けて、顔を赤くした。彼女はその背中に額をもたれかけた。
「私も愛してる」
彼女はそう言った。ごく自然な、優しい言葉だった。もはや、二人は互いにかけがえのない存在になっていた。
二人はそっと口付けた。
【 四 】
あの時から四カ月程経っていた。
楽しいく会話を弾ませていたある日の午後、乱暴に家の扉が開けられ、何人もの武装した兵士たちが入ってきた。二人は驚いて立ち上がった。 彼は庇うようにして彼女の前に立った。
兵士たちは彼女を捕まえようとしていた。だが、二人にはその理由が全くわからなかった。兵士たちは、二人が一度だけ訪れたあの街で、朱い眼を持つ女がいると聞きつけてやってきた、と言った。
彼女はすっかり怯えて彼にしがみついた。兵士たちは尚も差し迫ってくる。見兼ねた彼は、一瞬顔をしかめると、パチンと指を鳴らした。
彼女は目を丸くした。目の前には全く知らない景色が広がっている。困惑した顔で彼を見ると、彼は、自分は魔術師だと告げた。黙っていたことを気にかけているのか、彼は目を逸らしていた。彼女はただ、凄いとだけ言って目を輝かせていた。そして、落ち着くとありがとうと言って、微笑んだ。
彼はずっと彼女を守ろうと思った。心の中でそう誓った。
とりあえず二人は、たどり着いたその街に住むことにした。ところが、すぐに追手がやってきた。何処へ行っても何故かすぐに見つかってしまい、あちこちを転々と移動していた。その度に、彼も彼女も笑わなくなった。
とある場所で、薄暗い廃墟に隠れていたとき、彼女はもう逃げることに疲れたのか、泣き崩れた。
彼女は精一杯の思いで、彼に頼み込んだ。いつだって私を助けてくれたけどもういい、と。彼が彼女に黙っているように言っても、彼女はやめようとしなかった。
私はこれ以上貴方に辛い思いはしてほしくないの。私があの人たちの所へ行けば、もう貴方は追われることはない。だからもう魔術を使わないで…と。
彼は彼女が言葉を発する度に止めようとしていた。だが、結局彼女は言い切るまで黙らなかった。
彼女は、彼が魔術を使う度に辛そうにしていたのに気付いていたのだろうか。そうだとしても、彼は彼女の望みを受け入れなかった。
彼は力ずくで彼女を引き寄せると、無理矢理唇を塞ぐ。彼女は逃れようともがいたが、すぐに力が弱まり、ゆっくり瞳が閉じられ、気を失った。
彼は彼女の口に睡眠薬を入れたのだ。彼は仕事上、こういうことに慣れていた。だが、このために使うとは思わなかっただろう。
彼がその唇を離すと、気を失っている彼女はなんとか彼にしがみついた状態で崩れ落ちた。彼は彼女を軽く支えたまま、ぼんやりと遠くを見ていた。
パチン、と指を鳴らす音が響いた。
【 五 】
目を開けると、彼女は座っていた。まだ意識がはっきりしていないのか、ぼんやりしたまま辺りを見渡した。
其処は両岸を濃い緑の木々に覆われた、静かな川だった。目の前には俯いた彼が居た。
二人は小さめの舟に乗っていた。舟を漕ぐオールはなく、川に流されるままに舟は進んでいる。
彼女は小さな声で彼の名前を呼んだ。一度では彼は反応せず、二度目では川の方に視線を移しただけだった。
彼女は左腕を伸ばし、彼の頬に触れようとした。ゆっくりと弱々しく動かし、まさに触れようとしたそのとき、彼の姿は消えた。まるで其処には最初から誰も居なかったように跡形もなく消えていた。ただ、彼女一人を乗せた舟が静かに進んでいるだけだった。
彼女は突然のことに動きを止めたまま、彼が居たはずの場所を見つめていた。彼の名を呼ぼうと口を開いた。
しかし、呼ばれることはなかった。
口を開いた直後、彼女の目は大きく開かれ、口から出たのは声にならない微かな呻き声だった。彼女の顔は痛みにしかめられていて、体はゆっくり後ろへ倒れていく。腕だけはまだ、何かを掴もうとしているかのように、伸ばされたままだった。
半分ほど体が倒れ、彼女の朱い瞳が空を捉えたとき、彼女は見た。空中に彼が佇んでいる。幻ではなく、紛れもない実体だった。ただ一ついつもと違っていたのは、顔に表情が全くなかった。まるであの時のように。
彼はただ見下ろしていた。その瞳に感情はなく、その冷たさは透き通っているように見えた。髪や服が風に揺れている。
彼女はただ見上げていた。その顔に表情はなく、ただ漠然と見上げているだけの様に見えた。あの朱い瞳に驚愕を浮かべている。
彼女の中には沢山の疑問が浮かんでいた。だが、すぐに消し去った。
ただ、心の中で彼の名前を呼んだ。彼女はついに、舟の上に倒れた。その影響を受けて川に波紋が広がる。
彼女の心臓のあるところには、銀色に輝くナイフが、深々と刺さっていた。彼女が着ていた白い服を傷口から溢れる赫い血が、いつかのドレスのように赫く染めている。
伸ばされた腕は、届かなかった。結局彼に触れることはなく、それでも、消えていく力を掻き集めて伸ばした。せめて想いだけは届くように、と。そして、彼の名前を呼んだ。
「***・・・。」
薄れていく意識の中で、閉じゆく瞳は彼だけを映して、一筋の涙が頬を伝った。彼女は自身が愛したただ一人の人の名前を呼んで、永遠に目を開けることはなくなった。伸ばした腕は力を失い、音を立てて、舟の上に落ちた。また、波紋が広がった。
其処にはもう、風の吹く音と、水の流れる音しかなかった。
【 - Wing/Before ’then’ - 】
真白に輝く光の中、その人は両手を広げた。
真白な肌に赫い服を着た、朱い髪を持つ女だ。
瞳を閉じたまま顔を上へ向けると、その両腕は朱い翼に変わっていた。
周囲に朱い羽根が舞う。
彼女は目を開くと、朱い翼を羽ばたかせた。そして、光の中から飛び出していった。
【 六 -1- 】
彼はゆっくり舟へ近づいた。
舟の上に降り立ち、数秒前に息を引き取った彼女を見下ろしていた。
彼女は美しかった。だが、悲しい顔をしていた。
彼の顔はまだ崩れないままで、やはり、ただ見下ろしているだけのようだった。
舟の上に赫い血が広がっていく。
【 六 -2- 】
彼は身を屈めて、彼女の頬に触れようとした。手を伸ばし、彼女に近づく。しかし、あと一歩というところで彼女の体は薄れてゆき、触れることは出来なかった。彼は体を起して、再び彼女を見下した。
彼は、極秘部隊の魔術師だった。極秘部隊は表に出ない仕事、要するに暗殺といった類の仕事をしていた。今は、朱い鳥を捕らえるという特令を受けていた。全て政府のためだ。
朱い鳥は魔力を持ち、人の姿をとることもできた。そして、幸運をもたらすと言われていた。そのために絶滅したとも考えられている。だが、幸運などあくまで伝承だったようだ。そして、朱い鳥はもう絶滅した。彼女が最後の生き残りだったのだ。
だが、彼は彼女を愛してしまった。守りたかった。けれど、それは難しいことだった。守りきれなかった。沢山のことを隠したままに、彼女を殺した。だから、もう触れることは許されないのだろう。
彼の顔にはどんな感情も浮かんでいない。
【 -Wing/Perhaps- (とある未来) 】
彼女は鳥籠の中に俯いていた。美しい朱い翼の片方は折れていて、もう片方も傷付いていて、飛べそうではなかった。
薄暗い部屋に置かれた鳥籠の周りには、何人もの人が様々なモノを手にして取り囲み、口々に話している。
無理矢理捕らえられた彼女の朱い瞳からは、涙が止めどなく溢れていた。
【 六 -3- 】
彼は屈み込んで彼女の心臓に突き刺した銀のナイフを引き抜き、川に落とした。彼女の胸からは、また夥しい量の血が流れ出した。
「さよなら」ーさめた声だった。彼の頬を一筋の雫が伝った。
そして、彼は音もなく消えた。
舟は川を流れていた。舟には小さな朱い鳥が乗っていた。しかし、その鳥の胸からはその体と同じくらい赫い血が流れていた。もう息はない。
舟はゆっくりと川を流れ、やがて大きな滝の底へ落ちていった。
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作品を読んだら是非、緋桜さんに感想文を
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<桜田門からの注意!>
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