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作品4 ひでお 兵庫県 18歳の作品

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題名 『ホームは地球、そして宇宙』


【 一 】

けだるい学年末テストも終わり、卒業式を待つばかりの、この「自由登校」という微妙な、何のためにあるのかわからない猶予期間。気が付くと、早いもので高校三年生になっていた僕は、何もやることがなかった。

十八歳になったとはいえ、休日の行動パターンは十二歳のころからあまり変わらないから不思議だ。適度に夜更かしして、いつもより一時間ほど遅く起床する。顔は、なかなかお湯になってくれない水でチャチャッと洗うが、後頭部に出来た渦巻状の寝癖は面倒くさいので直す気になれない。自室に戻り、閉め切っていた遮光カーテンを開けると、最近滞留していた雲は久しぶりに遠出したようで、清々しい透き通った青が久々に顔を出していた。

【 二 】

家族のみんなは既に会社や学校に行ってしまっているため、誰もいないガランとしたリビングを通り、ベランダに出た。
十三階の高さから外の世界を見渡すと、どうやら世間はいつもと変わりなく急いでいるようで、僕が住んでいるマンションの横にある、駅につながる真っ直ぐな道には、トレンチコートを着た企業戦士が、足早に戦場に向かっていた。
寒いからなのか、皆背中を少し丸めている。みんなどこか急いでいて、ストレス臭い。世の中にはわけのわからぬまま急いでいる人がいるけど、サラリーマンは少し違う。あの人たちは守るものがあるから、急がなければならない。俺がこうやってぐうたらしてられんのも、ひたすら社会の理不尽に耐え続けているオトンやオカンがいるから成立しているのであって。そして他人のために耐え忍ぶことは時に馬鹿らしく、しんどい作業なのであって。

まぁ僕ら中高生も、耐え忍んでいることはいっぱいあるんだけど。しかし、未だ行動パターンは変わらないが、経験を積んでいくうちに自分の中で親の存在が大きくなっていることは確かだ。いやほんと、キレイゴトなんかじゃないよ。・・・今度オトンにプレゼントでもくれてやろうか。ちょっと照れくさいけど。でもよくよく考えてみると、そのお金の出所も、元をたどればオトンが稼いだお金なんだよな。


【 三 】
企業戦士に少し痛い哀愁をもらった僕は、部屋の中に入るとキッチンに向かい、紅茶を入れるため湯を沸かした。
ガスのスイッチを押すとチチチと音がして、少しクセになりそうなガス独特の匂いが鼻をついた。マグカップにティーバッグをセットし、しばし待つ。お湯がこぽこぽと音を立て始めたら、すぐさまお湯を投入し、砂糖を入れてスプーンでくるくるとかき混ぜる。鼻を近づけ、すぐさま鼻腔の記憶を紅茶の香りに書き換えた。出来た紅茶を右手に持ち、自室に戻ると机にマグカップを置いた。
そして、出来かけの小説やらどうでもいい散文が書かれたルーズリーフをまとめて引き出しに押し込むと、消しゴムのカスをゴミ箱に捨てた。昨日は一日中小説を書いていたから、消しカスの散らかりようは半端なかった。消しカスがまとまる消しゴム、買おうかな。


【 四 】

椅子に座り、紅茶を一口飲み、携帯を探した。
机のそばに転がっていた携帯を見ると、放置していたため電源が切れていた。見たくないけど、現実と向き合おう。そう思いプラグを差し込み、命を吹き込む。すぐさま新着メール問い合わせを実行した。

「新着メールはありません」

はい、わざわざ丁寧にどうも。
まだ来ないんかー。ほんまへこむわ。実は四日前、二歳年上の女の子にメールしたのだが、鉄砲玉のように返信は未だない。その前までは、順調に毎日メールしてたのに、どうしてなんだろう。やっぱ、絵文字は少なめにすべきだったかなぁ・・・

その後何回も問い合わせたが、携帯君は同じ回答を繰り返すだけだった。ふと何となく、こんなちっちゃなことに執着している自分が恥ずかしくなってくる。そして考えてみると、その女の子からメールが来ないことに慣れて、あまり痛みを感じないことに気付いた。

こんなもんか、俺があなたを思う気持ちって。なんかもう、どうでもいいや。いつものあきらめ癖がもぞもぞと顔を出した瞬間、俺が練りに練って考えたアプローチスケジュールは海のもくずとなり、さらに、やることがなくなった。自分勝手に予想していた未来も自滅して、木っ端微塵になった。




【 五 】

僕は紅茶を無理矢理飲み干すと、腕を組んで考えた。バイトもしていなく、クラスのみんなが、なんとなく通っている車の教習所にも行かず、書きかけの小説もあまり進展しない。僕は今、何をすべきなんだろう。というか、何がしたいんだろう。頭からちょっとケムリがでそうなくらい考えた。実際にケムリが出た。でも僕の頭からは何も生まれない。

ここはちょっと視点を変えてみるべきだな。
それじゃ僕が「していないこと」はなんだろう。勉強も人並みにやった。部活も人並みにやった。趣味も遊びも人並みだし、人並みに怒り、悲しんだ。
適度に人を好きになったし、それ以上に人を嫌いになった。流されがちな僕には、していないことすら見つからない。

考えが煮詰まってきたので、背伸びをした後、クローゼットを掃除しようと思った。あまり外出はしないほうなので、まだ着ていないがたたんでいなかったためにクシャクシャになった服が押し込んであった。う・・・これはひとまず後回しにして、制服のポケットの中を整理した。内ポケットに入っていたわけのわからん紙くずを捨て、胸ポケットを探ると、四角の、硬いものに触れた。

定期入れだ。
中にはあと一ヶ月ほど使える定期が入っている。見ると、改札機にかざす時に傷ついたのだろう、長細い傷跡が何本も走っている。考えてみると、高校三年間、僕自身だけじゃなく、僕を支える色んな物が傷ついている。
たとえ安物でも、この定期入れを作ろうと思った人がいて、「めんどくさいな」と思いながらも自分の時間を削って、定期入れを作ってくれて、この定期入れの革のために死んでいった生き物がいる。知らない人たちが僕をいつの間にか支えてくれていて、知らない人たちがいつのまにかまわりまわって、どこかで噛み合っていくかけがえのない歯車になる。
社会の歯車になりたくないとか言ってた時期があったけど、自分がまわって相手もまわれる、そんなことが少しカッコイイと思うようになった。


【 六 】
よし、この定期入れを、悔いが残らないように、目一杯使おう。ちょうど散歩したいと思ってたところだし。僕は定期入れをポケットに入れると、お気に入りのスニーカーを履いて外に出た。冬にしか調達できない冷たくて清んでいる空気を肺に入れると、駅に向けて歩き出し、みんなと同じように背中を丸めた。傷ついた定期入れとの、ちょっとした卒業旅行。

駅に向かって歩いていき、駅前の広場に着くと、中学生がなにやら集まっていた。試験なのだろうか。「もうイヤやー」といいながら体を揺らして寒さに耐えている。ピリピリとした緊張感が何となく伝わってくる。三年前の自分を投影したが、対象が初々しく、なんとなくイメージがあわない。
改めて、時間の怖さを感じる。受験生の皆さん、月並みなことしか言えないけど、後悔しないようにね。

ホームに上がると、いつもと時間帯が違うからか、全体のニュアンスが微妙に異なった。大学生風の人が大半だ。テキストと睨めっこする物、健康的な歯を見せて友達と談笑する者、音楽と二人きりになって虚空を見つめる者。ストレスフルな早朝とは打って変わって、穏やかな空気に満ちている。ホームはいつも入れ替わる宇宙のようなもの。いつも何かしらの発見がある。一日中ここにいられる気がしてくる。

けれどやはり人間、いつまでも宇宙をさまよっているわけにもいかない。いつか定住できる星を見つけなければ疲れてしまい、いつまでも不安定なままだ。今日みたいなぐうたらな日は違うが、僕は朝のラッシュ時には同じ位置で電車を待つ。みんなもそう思っているのか、他の乗客も毎朝それぞれ同じ位置で電車が来るのを待つ。
そこで偶然同じ列で電車を待つ人は、お互い意識はしていないが、同じメンバー、同じ景色を見ることになる。そこにはある種の連帯感が生まれていく。これからどこかに向かう空間を共有する。抜けたかったら、いつでも離れていい。


【 七 】

この三年間、決まりきった時間でぐるぐる回る登下校で、顔を合わせるそのいつものメンバーの中に最近何となく気になる人がいた。いつも大きなカバンを抱えて、しんどそうな顔してやってくる、美容師の専門学校生であろうネェチャンだ。
カッチョイイ黒髪の前髪パッツンショートボブで、いつもパンク歌手みたいな服装で乗り込んでくる、どこか異世界から来たような雰囲気を持つネェチャン。ただ何となく気になる。別に一目惚れしたわけでも、知り合いというわけでも、そのネェチャンが痴漢にあって僕が助けてウハウハ、みたいなことを期待しているわけでもない。
好きでも嫌いでもない、ただ何となく気になる存在。朝、物憂げに窓の外の景色見ているあの表情がなぜか、頭から離れない。今頃どうしてんだろうなぁ・・・。なんとなく、軽い妄想も交えながら、考えてみる。僕のアイデアはこういうくだらない考え事からきている気がした。

そして降りたこともない駅で降りて、全く知らない土地をあてもなくブラブラと一日かけて歩き続けていた。
目的はなく、行き先もない非生産な時間を過ごす。気が付くと、ビルとビルの間、赤々と輝く夕日が落ちていくのが見えた。暗くなるうちに帰ろうと思い、駅に向かった。

一瞬視界に入り、まさかと思った。よくよく見て、確信した。

駅前の広場に、パッツンショートボブが寒そうに肩をすぼめて、立っていた。

「お願いしまーす。新しく開店しましたー」

どうやら、美容院のチラシを配っているらしかった。僕が通りかかる。

「どうぞー。ありがとうございまーす」

単一な営業スマイルでそう言われた。僕は何となく恥ずかしく感じて、「どうも」としか言えなかった。
少し歩いて振り向き、マクロな視点で後ろを見ると、パッツンは見事に景色の中に入り込み、歯車が噛み合い、そこで生きていた。世界に一歩踏み出してみれば、世の中は平板なんかじゃない。そんな気がした。


【 最終章 】

月日が流れ、少々疲れ気味のパンク歌手は、新米美容師になった。また新しい世界を切り開いていくんだろうな。なんだかとっても、楽しそうだなぁ。

僕だって、決して例外じゃない。
人は良くも悪くも変わり続けていく生き物。意識はしていなくとも、いつのまにか視点は変わっている。
そして、絶対に今の自分に立ち止まってはいられない。どこかを目指して歩いていく。だからこそ、面白いと思うんだ。

僕は上機嫌で改札を通ると、ホームに続く階段を駆け上がった。ひゅうと冷たい風が吹きつける。

寒い。もうちょっと厚着してこればよかった。




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