みらい図鑑

Vol.57 「木製の万年筆」 大阪府

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今回のタカラモノは、万年筆。
ただの万年筆ではありません。“木製の”万年筆です。

使うのは、希少価値の高い「紫壇」、「黒壇」など、選りすぐりの銘木。
自然のままの木目の表情を大切にしながら、
昔ながらの轆轤(ろくろ)を使って木材を加工する、「挽物(ひきもの)」と呼ばれる技法に
よって、1本1本、風合いの違う木製の万年筆が誕生します。



木製品を作り続けて50年以上。
「平井木工挽物所」の平井守(ひらい・まもる)さんのお話です。

「必ず、木というのは“目”がありますので、素直な木じゃなしに、
私どもは轆轤で1個1個つくりますので、とにかく変わった木がいいんですよ。
世界に1本しかない、ということを自負していますので、
そういうものを選んで選んで、探して求めて作っております。」

素直にまっすぐ育ったモノよりも、クセがあって、変わったモノのほうが面白い・・・。
まるで、人間のことを言っているようですよね。

万年筆に使う木は、木を知りつくした平井さんが、自ら選定し、裁断。
図面も線引きもなく、完成形が最初から見えているかのように寸分違わず削り出していきます。
製作は全て手作業で行われるため、一日で製作できるのは、わずか4、5本なんだそうです。



胴軸の部分からキャップ、首軸まで、同じ木を使うため、柄が自然な流れを描き、
仕上がりの美しい万年筆。
平井さんは、木の魅力について、こんな風に語っています。

「木にはぬくもりがあるんですよね。
木というのは、自分が使っていたらだんだん馴染んで来ますので、
愛着が生まれるというか、自分のものになっていくのが魅力だと思うんですけどね。」

使う人の“こころ”を投影するかのような、木製の万年筆。
春、そんな文房具を使い始める新生活は、いかがでしょうか?

Vol.56 「桜のおわん」 神奈川県

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日本を代表する花と言えば、桜。その魅力は、“花”だけではありません。
今回は、桜の“木”にクローズアップ。

桜の木を使って、ひとつひとつ丁寧に「お椀」を作っている工房が、
神奈川県の小田原市にあります。



木工所をかまえ、原木の加工から塗装までの一貫生産で、
木工製品・漆器・小田原漆器の製造販売を行っている会社、
「薗部産業」、代表・薗部利弘(そのべ・としひろ)さんにお話をうかがいました。

「桜はですね、やさしい、柔らかい感じの材料です。
同じ素材でも重たい時もあるし、軽い時もあって、木目も個々にみんな違うんです。
それを景色として楽しんで頂いて、みなさんに使って頂ければありがたいなという想いで
作りました。」

使う木材は、木を切るのに適した時期があり、春に芽吹く前に伐採。
そして、製品になるまで、なんと6ヶ月もかかるというから驚きです。



材料の“板”からお椀を作るのは、実は難しい、と薗部さんは語ります。
お椀の形にくり抜き、乾燥から加工まで、職人の技が必要。
塗装の工夫も試行錯誤しながら、一つ一つ改善していったそうです。




桜のお椀を手に取った人からは、さまざまな声が届いているようです。

「“かわいい”とかそういう声が多いんですが、使っている方に聞くと、
手に取った感じがとてもいいとか、今まで味噌汁を飲まなかったお子さんが、
このお椀を買ったら、味噌汁を毎日飲むようになったとか、
嬉しい声をたくさんいただいています。」

桜のお椀は、平成10年から小田原の小学校でも使用。
お椀は使ってもらうのが一番!と、小学生が扱いやすいサイズに仕上がっています。

お椀のひとつひとつ異なる“木目”を景色として楽しみながら頂く食事。
きっとお箸も進みますよね。

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