⚫心躍る瞬間「ロンドンのバービカン・センターの舞台に立った瞬間」
松下:今月お迎えしているゲストは、俳優の藤木直人さんです。よろしくお願いします。
藤木:よろしくお願いします。
松下:先週は釣りのお話などリラックスタイムのお話をお伺いしましたが、今週も藤木さんの “心躍る瞬間”について伺っていきます。4週目の今日、お話いただくのはどんな瞬間でしょうか?
藤木:僕が“心躍った瞬間”は「ロンドンのバービカン・センターの舞台に立った瞬間」。
松下:それでは時計の針をその瞬間にしていきましょう。
舞台『海辺のカフカ』のお話をいろいろ伺っていきたいと思いますが、この舞台が藤木さんにとっては2作目だったんですか?
藤木:そうですね。
松下:演出が蜷川幸雄さんでしたよね。皆さんが「蜷川さんのもとで(舞台を)やってみたい」とおっしゃる憧れの舞台という印象がありますが、実際にご一緒してみていかがでしたか?
藤木:“憧れ”というよりは、“怖そう”という昔のイメージがあって。
松下:いろんなものが飛んできたり、という伝説はありますけど。
藤木:でも、僕は蜷川さんとご一緒する前に蜷川さんに関連する本などを読んでいたんだけど、それまで自分たちがやっていた舞台から商業演劇へ行く時に、舐められないようにあえて厳しくしていた部分があったらしい。だから、本当はすごく役者さんに対して優しい方で、“誰に対して怒るのか”ということも考えていらっしゃる。
松下:そうなんですね。ひとつの舞台をみんなでやっていく中で、いろんな怒り方やハッパのかけ方みたいなものがあったんでしょうか。
藤木:そうだね。
松下:舞台『海辺のカフカ』はワールドツアーがあって、ロンドンのバービカン・センターで公演されたそうですが、日本ではなく海外、ロンドンのお客さんを前にステージに立つというのはどんな景色でしたか?
藤木:台詞は日本語で喋って英語の字幕を出す、という感じでやりましたが、蜷川さんがそれまで何度もロンドンに行って切り拓いてこられたから、「蜷川の作品が来る」と楽しみにしている現地の人も多かったです。びっくりしたのは、すごくウケた。ドッカンドッカン。
松下:そういう感じなんですね。
藤木:日本だと、蜷川さんの作品って、みんなかしこまって…。
松下:ちょっと背筋を正す感じですよね。
藤木:“村上春樹さんの原作だし”という感じで、シーンとした中で演じていたのに、ロンドンでは台詞を言うたびにみんなが笑ってくれるんです。
松下:へえ!
藤木:なにか、村上春樹さんのシニカルなところが…。
松下:刺さるんでしょうか。
藤木:あとは、役によるのかもしれないけれど、僕が演じたのは、“大島さん”という図書館の司書で、性同一性障害という役で。
松下:難しい役柄じゃないですか。
藤木:女性の運動家が来た時に「僕は女だ」と言う台詞でも、ドッカンドッカンウケる。
松下:そうなんですね。日本では笑いが起きないところでも海外の方々からすると違うんですね。
藤木:もっと単純にお芝居のストーリーに入ってくれる。「蜷川作品を観なくては」とか、そういう感じじゃないのかもしれない。
松下:構えずにフランクな気持ちで観てくださるんですかね。
その舞台を経て、2023年には『ハリー・ポッターと呪いの子』で主演も務められました。ドラマでお会いした時に「大変だよ」とおっしゃっていましたね。
藤木:言ってた? 早替えとか。一幕は特に走り回っているからね。
松下:じゃあ、体力的な面でも大変でした?
藤木:大変! ハリーはいつも怒っている役で、演出家はじめ主要スタッフはロンドンの方だったので、稽古の前の本読みで、キャスト同士で「この(台詞の)意味はこうだと思う」と一行ずつ読み進んでいくようなことを1週間くらいやりました。
松下:すごいですね。
藤木:そこで「ちょっと軽く読んでみようか」と親子でぶつかるシーンをやった時に、「いや、違う。もっと“怒り”だ」となって、もうその時点で喉を痛めちゃって。
松下:ええ! 舞台中、なにか身体に良いことはしていましたか?
藤木:その稽古場の時は、“なんちゃってビーガン”になってた。
松下:“なんちゃってビーガン”って…なんとなくわからないでもないですけど(笑)。
藤木:なぜ“なんちゃって”かと言うと、夜は好きなものを食べていたから。朝・昼だけ。
松下:完全にそういう(ビーガンの)食生活をしてはいなかったんですね。
藤木:だから、全然意味がないんだけれど。
松下:そういう心意気がね。
藤木:“リフレッシュできるかな”と思って、一時期やっていた。
⚫クロニクル・プレイリスト「Vaka / Sigur Rós」
松下:この番組では、ゲストの方の“心躍る瞬間”にまつわる思い出深い曲やその時代の印象深い1曲を“音楽の年代記”=「クロニクル・プレイリスト」としてお届けしています。
さて、今日はどんな曲でしょうか?
藤木:今日は舞台『海辺のカフカ』で使われていた音楽、シガー・ロスで「Vaka」。
松下:この曲が劇中で流れていたということで、そのシーンが思い浮かんだり、思い出がよみがえったりしますか?
藤木:本当に聴くだけで泣きそうになります。『海辺のカフカ』って、とてもセットが素晴らしかったんだよ。アクリル板の箱をライトで飾っていて、それには滑車が付いているから動いて転換していくという。それは、蜷川さんがアメリカの博物館で見たケースからヒントを得て。
松下:そうなんですね。
藤木:その中に、『海辺のカフカ』の舞台のトラックだったり、森だったり、いろんなものを仕込んで動かすという。最後の最後に、カフカ少年が雨の中ポツンと立っていて、いろんな印象的なセットが置いてある中、大島さんを演じる僕が出て行って傘をさしてカフカと喋る、というシーンで終わる。本当にこんなに贅沢な、ありがたいことってないなと。
松下:舞台じゃないとできないセットで音楽なのかなと。
藤木:そう。映像ももちろんすごいけど、舞台の良さって、想像力を搔き立たせてくれる…象徴的なものがあるだけで、すごくシンプルだけど、それがいろんな意味を持ったり。
松下:後で考えてしまう。
藤木:そう。蜷川さんはわりといろんなものを詰め込んだリアルなセットを使うことが多いけど、でもこのセットは本当に幻想的だった。
松下:なぜこの曲にしたのかは、今の説明を聞いているとわかるような気がします。
藤木:その後、ニューヨーク、シンガポール、韓国にも行かせてもらったけど、そういう歴史あるステージでラストシーンに出て行って…。“まだ舞台は2作目なんですけど”みたいな(笑)。“これ、舞台をやっている人からしたら(贅沢で)怒られるやつだな”って。
松下:その役はみんな絶対にやりたかったと思います。素敵な経験だったんですね。
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藤木直人さん公式サイト
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<藤木さん衣装>
トップス 、シャツ:コノロジカ / KHONOROGICA
パンツ:マナベ / MANAVE
お問い合わせ先:ヘムトPR 03-6721-0882
<松下さん衣装>
ワンピース:キース / KEITH 03-6439-1643
スタイリスト:大沼こずえ
ヘアメイク:山科美佳

- ゲストが語る“心躍る瞬間”や“エピソード”
その時に刻まれた思い出の1曲。
または、その時代の印象的な楽曲。