硯をつくる職人 製硯師の青?貴史さん
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- 2019/10/20
日本で唯一の製硯師 青?貴史さんが登場!
薫堂さん宛てに、とても美しい文字で書かれた手紙が届きました。小山「〈ほんの百年前の江戸時代。生活から筆が消えると誰が予想できたでしょうか。日本人の最古の筆記具について、掘り下げたく存じます〉とのことです」
手紙を書いてくださったのは、書道でおなじみの「硯」をつくる職人「製硯師(せいけんし)」の青?貴史さんです。今回、ご本人をスタジオにお迎えしました。
小山「初めて聞きました、『製硯師』という仕事があることを」宇賀「硯をつくったり、修理や復元をする方、ということですね」
小山「日本に何人くらいいるんですか?」
青?「製硯師の肩書きを名乗っているのは僕一人だけなんです。父が付けてくれたんですけど、それまでは硯をつくっているお兄さん、と言う感じでしたね」宇賀「硯は一つをつくるのにどのくらいかかるんですか?」
青?「だいたいオーダーメイドですが、1つつくるのに平均60時間から80時間くらいですね。内容によっては、2年から3年かかることもありますね。頑張って、月に2、3個です」
小山「筆で文字を書く時って、にじみとか、どのタイミングで墨をまた付けるかとかは、あまり考えなくていいんですか?」青?「これは毛筆の面白さで、にじむタイミングとか、にじまないように書くとかは、道具でもってコントロールができるんです。たとえば、紙も『食欲がある紙』と『食欲がない紙』があるんですよ。薫堂さんがいまお持ちの紙は食欲がある紙なので、裏を見ると墨が抜けていますよね? 墨をうんと食べちゃう紙なので、墨を磨る時はにじみにくくなるように、ゆっくり磨ってあげるんですね」
小山「なるほど、その時点から墨って変わるんですね!」
青?「硯は墨を調理するための調理器具だと思った方がいいですね。喉越しのいいお味噌汁をつくるのか、それともシチューをつくるのか……。食欲のある紙には、コクのあるシチューのような重い墨をつくってあげればいいんです」
小山「食欲のある紙っていうのは、青?さんがつくった言葉ですか?」
青?「そうですね。たとえば綺麗に書きたいっていう時は、食欲がない紙を使った方がにじみにくいですね」
硯づくりの工房
青?さんは硯職人、そして浅草の書道用具専門店「宝研堂(ほうけんどう)」の4代目でもあります。宝研堂の2階にある硯づくりの工房へ、スタッフが事前にお邪魔してきました。
石を掘り、硯のかたちへ命を吹き込んでいく青?さん。製硯師を志したのは、16歳の頃です。「最初はお小遣い稼ぎで。祖父が、今僕が座っているこの椅子で、硯をつくっていたんです。僕はその左側で、製作に必要な道具をつくっていたんです。例えば漆を溶いてあげたり、磨くための石を整えたり。祖父と父がこの6畳ない工房で並んで硯をつくっていて。硯が好きというよりかは、父と祖父の仕事をしている姿が好きだったんですね」
お祖父さん、そしてお父さんの背中を見て育ち、製硯師の道に入った青?さん。どんなことを2人から教わったのか聞いてみると……。「素敵な指南なんていうものはほとんどなかったです。24年間、硯製作に携わらせてもらって、ずっと心に生きているのは……石が硯に変わってそれがお客様の手に届くまで、『どのように石と向き合っていくか』。石は地球がつくってから、1億何千万年もかかっています。中には自然由来のヒビや夾雑物、人間の『こうであってほしい』という考えの及ばない状況が、石の中にはあります。それをどのように調理して、千年残って愛される硯に仕立てていくか。そういった石との向き合い方を2人から吸収することができたのは、非常に恵まれた環境だったと思います。
石を切り出すと爪で弾いて、その音から内部にあるヒビの位置などを確認。石の声に耳をすませながら何種類ものノミを使い分けて、硯のかたちへと石を削り出していきます。仕上げには数十時間、磨きの作業を行い、硯に命を吹き込むのです。「硯の完成というのは、僕はないと思っています。建築物と同じで、ずっと修理しながら何千年も人の生活に寄り添って生きていくものなので、ある時期の完成形という見え方はあっても、育ち続けるものなので、完成はないと思います。なので、僕は自分の硯に名を切りません。僕はあくまで調理人という立ち位置です」
二大名硯で書道を
小山「青?さんは、きっと硯はいくつもお持ちなんですよね?」青?「いや、ほとんど持っていないんですよ。普段、手元で使っているものは3面くらい。その中でも、変わらず16歳の頃からずっと使っているのは、祖父がつくった硯です。ずっと手元に置いてあります」
小山「お茶の世界では、お茶碗とか茶杓をお預かりして、また次の世代へ渡すっていう言い方をするじゃないですか。硯もやっぱりそうなんですか?」
青?「祖父がつくった硯はもともととある書家の先生がお持ちになっていて。それを『これは青?さんが持っていた方がいいよ』と、くださったんです」
小山「そうなんですね」
青柳「硯は、これで誰かに手紙を書きたい、気持ちを届けたいと思わせてくれる道具なので。やっぱり、どなたかを思わせてくれる時間を与えてくれる道具という面がはあって。情報量の多いコミュニケーションツールとして、今でも生きているんじゃないのかなと個人的には思います」
宇賀「久しぶりに墨をすりたくなってきましたよね?」小山「青?さん、今日、すらしてもらえるものってお持ちですか?」
青?「今日は二大名硯を持ってきています。一つは歙州硯(きゅうじゅうけん)という石です。どうぞ、お手に取ってみてください」
小山「これが、硯のベースですか?」青?「いえ、これはもう完成しています」
小山「えっ、これ、硯ですか?」
宇賀「私たちが想像していた硯と全然違いますね!」
青?「硯の定義は、墨を磨り下ろすことができる“磨墨器具”であることなので。磨り下ろせれば成立するんです」
小山「でも、これ、こぼれませんか?」
青?「なみなみと水を溜めるとこぼれますが、基本的には書く分だけ磨る、という概念でつくられています」
青?さんが持ってきてくださったもう一つの二大名硯は端渓硯(たんけいけん)。歙州硯よりさらに薄く、小ぶりな硯です。
宇賀「ちょうどスマートフォンくらいの大きさですね」
青?「水は2、3滴で大丈夫です。水は醤油差しが2、3滴の操作ができるので、非常に便利ですよ。墨で磨るのも、僕は2分も磨らないですね」
青?さんのアドバイスを受けて、実際に墨を磨ってみる薫堂さんと宇賀さん。
青?「のの字を書くように磨ってみてください」宇賀「全然力を入れていないんですけど、すごく滑らかで勝手に手が動いていくような感覚です」
小山「あ、僕の方は、あんまり磨る音がしないですね」
青?「薫堂さんは、もうそのくらい磨れば書けますよ」
小山「なんか……ハマりますね」
宇賀「こんなに気軽にできるんですね」
筆をとり、磨りたての紙に文字を書いていく2人。
宇賀「楽しいですね! これまで、習い事や授業でしかやったことがなかったから……こんなに楽しいんだ」小山「学校では普通、墨汁でやっちゃうじゃないですか。あれはどう思うんですか?」
青?「墨汁は大量の墨が必要な時は、便利なものなんです。そういった時は磨るのが大変なので使っていいと思うんですね。ただ、硯は基本的には、1円玉くらいの大きさの字を書くために考案された道具なので。大量につくることを目的として開発されていないんですよ。2千年間、大きくかたちが変わっていません。実際にお手紙を書く時は、墨汁よりも、磨った墨の方が間違いなく書きやすいんですね。墨で書いたものが一千年以上残ることは、写経とかで実証されていますしね」
小山「小筆で手紙を書く時に、上手に書くコツ、あるいは上手に見えるコツってあるんですか?」
青?「僕は筆を持つ時に、上手い下手ってあんまり考えないでほしいんですね。鉛筆の延長線上にある、普通の筆記用具の一つなので。ただ、筆にしかない表現方法というのはあります。上手くよりも、面白く見えるのがいいですね。日本人は筆を持つと綺麗に書かないといけない、と思うんですけど、そうすると肩を張って書いてしまう。普通に、紙の上を筆で遊ぶように、なでるように楽しんでいただきたいですね」
小山「僕、筆じゃなくて硯が欲しいと、いま初めて思いました」
青?「毛筆文化圏の最古の筆記用具ですからね。これを機に、皆さん継承者としてどんどん使っていただきたいですね」
11月17(日)から11月24日(日)まで、東京・御茶ノ水の「亀治郎ギャラリー」で青?さんの個展が開催されます。「日々 製硯師青?貴史の硯展」。青?さんがつくった硯、1年間分の記録が展示されます。今回スタジオにお持ちいただいた二大名硯、さらに月の石でつくった硯(!)も、展示予定だそうです。青?貴史さん、ありがとうございました!
青?貴史Instagram今週の後クレ
今回のメッセージは、東京都<立川郵便局>佐々木光晴さんでした!「私自身が一度異動して立川郵便局に勤めているんですが、その時に馴染みにお客様からお手紙を頂いた事があります。異動先でも頑張って、と。お手紙を頂いた時には、まさかここまで思って頂いてると思っていなかったので、自分が仕事をしてきてお客様の心に残ったのかなと嬉しく感じました。」
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