25.10.02
“ホームタウン”認定交流事業は、なぜ正しく広まらなかったのか?

ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。
本日は、情報社会学がご専門の学習院大学・非常勤講師、塚越健司さんです。
今朝、取り上げるテーマはこちら!
【“ホームタウン”認定交流事業は、なぜ正しく広まらなかったのか?】
吉田:国内の自治体をアフリカの国の「ホームタウン」に認定する交流事業をめぐり、JICA=国際協力機構は、誤った情報に基づく自治体への抗議などが相次ぎ、過度な負担が続いているとして、9月25日に事業を撤回すると表明しました。本来、日本とアフリカを結ぶための交流事業が、なぜ正しく広まらなかったのか?塚越さんと考えます。
ユージ:塚越さん、まず「ホームタウン」認定交流事業の本来の目的は何だったのでしょうか?
塚越さん:この話題は多く報道されたので、経緯を簡単に振り返ります。まず、8月にTICAD=アフリカ開発会議が開かれました、それに合わせてJICA=国際協力機構が発表したもので、4つの自治体とナイジェリアなど4つの国がパートナーとして認定されました。アフリカと日本の関係は長くあります。今回、教育や文化・産業・人材面の交流を目的に友好都市よりもより多くの連携をするということで、ホームタウンという言葉を使いました。もちろん移民や特別なビザは含まれません。
吉田:では、どんな誤った情報が広まってしまったのでしょうか?
塚越さん:大きなところでは、ナイジェリア政府が政府発表として特別なビザが発行されるといった誤った情報を流してしまって、BBC等も報道してしまいました。これが大きかったのかなと思います。日本からの声明を受けて削除されましたが、日本のSNS等でこの情報が拡散されました。これに合わせて日本では、これが移民促進事業で、アフリカから移民が押し寄せるとか、治安が悪化するといった誤情報が拡散。日本政府やJICAも訂正したのですが、自治体への抗議が殺到したり、JICA本部の前で抗議デモが起きたりと、いわゆる「炎上騒動」になりました。個人的には、こういう時代に「ホームタウン」という名前だったり、相手国に情報伝達がうまくいっていなかったことが問題として挙げられると思います。あと、相手国に誤った情報発信をしてしまったというところで、このあたりはちょっと大きかったのかなと思います。
ユージ:最近特に、こういった誤情報の拡散が目立つように感じますが、その背景には何があるでしょうか?
塚越さん:急激にインバウンドも増えて、外国の方も増えて「外国人」という言葉に対する感覚が変わってきました。実際、今回「ホームタウン」の言葉が含まれたXへの書き込みは、8月後半からの一ヶ月で、リポストを含めると441万件と非常に多いです。全体としては、やはり経済的な不安を背景にした、一種の思い込みだったり、意図をもって拡散したインフルエンサーなども背景にあったかなと思います。ただ私は、政府の問題もあると思います。元々、外国人に関して、ポジティブで多文化共生を周知するのではなく、これまでずっと経済的な側面だけを重視して、技能実習生などを事実上の移民労働者として認めず、まさしく経済的な動機だけで受け入れて、日本人とどう一緒に暮らすかなど、真剣に向き合ってこなかったこれまでのツケもあると思います。どんな政策を掲げても、結局現場の実務は地方自治体やNGO、NPOに任せることになります。政府は適切な橋渡しができず、サポートできないので現場も混乱します。一方の国民も「多文化共生」の言葉が掲げられても、実際、海外の人とどう暮らしていくのかなど、トラブルも起きていて現場任せになっているわけです。こういう状態の中で色々な不安があって、正しい情報と知らずに何らしかのバイアスが自分の中でかかって、こういう情報に飛びついちゃうということもあると思います。なので、もう少し海外との関係も考えないといけないですし、周知しないといけません。日本はアフリカから尊敬されているのですが、こうしたことがあると関係に傷がつきます。今、中国がどんどんアフリカと関係を深めている中で、日本はいわば「オウンゴール」の感じになっちゃって残念だなと思います。あとは、アフリカと日本はとにかく繫がりが深くて、日本には2〜3万人のアフリカの人がいます。中古車をアフリカに売る貿易の方も沢山いて、アフリカ国内では場合によっては7割以上が日本車で、「日本の車はいい!」と言われたり、亡くなった安倍元総理は2013年に「ABEイニシアティブ」という政策を打ち出して、アフリカの留学生を受け入れて、日本企業でインターンをしてもらってアフリカに帰りました。日本とのビジネスを前提にして起業したりとそういう交流をいっぱいしていました。安倍元総理は、結構頑張っていました。こういうことは、結構大事だと思います。
ユージ:正しい情報が、間違った情報に潰されてしまうような時代でもあって、発信する側・受け取る側は、何を考えればいいでしょうか?
塚越さん:受け取る側は、リテラシーが大事だと思います。色々な問題があったと思います。これからは、政府や国が隣に生きている外国人とどうやって生きていくか、それを周知していく。トラブルも含めて、我々も色々な議論をして少しずつでいいから受け入れていく。一緒に考えていく、という気持ちを国が持たないと我々もその気持ちが回っていかないので、ここを大事にして欲しいなと思います。