25.10.06
高市総裁の誕生で変わる5つのこと

ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルが、注目のニュースを読み解きます。
今日は、ダイヤモンド・ライフ編集長の神庭亮介さんにお話を伺いました。
神庭さんが注目した話題はこちらです。
「高市総裁の誕生で変わる5つのこと」
吉田:自民党総裁選は4日に投開票され、高市早苗氏が新総裁に選出されました。日本初の女性総理が誕生する見通しです。そこで「高市総裁の誕生で変わる5つのこと」を神庭さんに解説してもらいます。ではさっそく、1つ目からよろしくお願いします。
神庭さん:女性の登用が進むでしょうね。高市氏は「ガラスの天井」をぶち破って女性初の総理に就任する見通しです。総裁選の演説でも、北欧にも劣らないような女性が大勢いる内閣、役員会を目指すと語っていました。「能力のある方を、今までよりはるかに多く女性からも選んで活躍していただく」「天井破りの女性の皆さま、あっちこっちおられるでしょ。もう各地から出てきてください」と言っていたので、これが呼び水になって政治の世界以外にも女性登用が広がることを期待したいなと思います。関連して立憲民主党の辻元清美氏はXで「自民党では初の女性総裁、高市さん、ガラスの天井をひとつ破りましたね。対極の私からも、祝意をお伝えします」とエールを送りました。左派・リベラルの側から「高市さんが女性初って言われてもね…」と腐すような発言もポロポロ出ていましたけど、素直にこういうメッセージを出せる辻元氏は素敵だなと私は思いました。
ユージ:2つ目の変化は何でしょうか?
神庭さん:積極財政への転換です。総裁選を争った5候補の中では唯一の積極財政派です。消費税に関しては主張を後退させましたが、減税や財政出動にも前向きなスタンスです。去年の総裁選でも高市氏が有力という報道で株価が上がり、石破氏に決まった瞬間に下がりました。今回も短期では高市トレードで株価が上がり、円安に振れるのではないかとみられます。去年は「金利をいま上げるのはアホやと思う」と日銀を牽制する発言をして注目を集めました。恐らく財務省と日銀は高市新総裁にガクブルなのではないかと思います。自民党税制調査会の「インナー」と呼ばれる増税派の幹部たちも、この機会に一掃していただきたいなと思います。一方で国債をバンバン刷って減税や財政出動をやりすぎると、国債・通貨・株のトリプル安で「日本版トラス・ショック」になりかねない、円安でかえってインフレが加速するのではないかと懸念の声もあります。会見でも早速、赤字の中小企業の支援を打ち出しており、これがバラマキにならないかちょっと心配するところです。高市氏の総裁選勝利の立役者である麻生氏は財政規律を重視しているので、そこは一定の重しになるのかなと思います。高市氏自身も「責任ある積極財政」と言っていますから、言葉通りの財政運営を期待したいと思います。
吉田:3つ目の変化は何でしょうか?
神庭さん:連立の拡大が視野に入ってくるということです。公明党の斉藤代表は総裁選前の段階で「保守中道路線の私たちの理念に合った方でなければ、連立政権を組むわけにいかない」と言っていました。高市総裁に決まってからも公明党は高市氏の歴史認識や外国人政策に懸念を示し、さらに維新との連立も牽制しているということです。「公明党支持者の不安や懸念の解消なくして連立政権はない」とまで言っています。とはいえ自民党にとって公明党は生命維持装置です。どんなに踏まれてもついていく「下駄の雪」と言われていますから、そう簡単に連立を離脱することはないんじゃないかなと思います。小泉氏だったら維新との連立が最有力だったのですが、維新の「小さな政府」路線は高市氏の政策と噛み合いません。公明党の警戒感もあり可能性が下がっています。代わりに連携が強化されそうなのが国民民主。高市氏の積極財政路線とも国民民主と相性がいいということで、高市氏はガソリン税の暫定税率廃止や年収の壁の引き上げも言っています。例えば、玉木氏が財務大臣で入閣するウルトラCが起きたら面白いですが、選挙区の棲み分けがあるので、なかなか連立交渉のハードルは低くないかなとは思います。
ユージ:4つ目の変化はどうでしょうか?
神庭さん:外交・安全保障です。高市氏は、経済はリベラルで安保はタカ派、という安倍路線の正統後継者です。中国メディアは早くも「極めて保守的で右寄り」と警戒感をあらわにしていますが、変にナメられるより警戒されるくらいでちょうどいいのかなと思います。高市氏は靖国参拝について「適時適切に判断する」と述べ、明言を避けています。保守的なスタンスは守りつつ、最大の貿易相手国である中国の存在も考慮して玉虫色の言い方をしているのかなと思います。そして、今月下旬にはアメリカのトランプ大統領の来日も控えています。関税交渉は、石破政権で一区切りついたのですが、今後トランプ大統領とどう向き合うかも課題になっていきそうです。
ユージ:最後、5つ目の変化は何でしょうか?
神庭さん:解散総選挙があるかも?ということです。高市総理なら自民党は参政党や日本保守党、国民民主党に逃げた安倍政権時代の岩盤保守層を一定数取り返せる見込みです。さらに「初の女性総理」効果で無党派や中道寄りの票も狙えるので、自民は今よりも議席を増やせる可能性が高い。逆に野党の方はこんなに早く解散がくると思っていないので、不意を突かれる格好になります。「また政治空白をつくるのか!」という批判の声は当然上がるでしょうが、年内解散もあり得るシナリオの1つとして想定しておいた方がいいかもしれないですよね。