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25.10.13

「教育訓練休暇給付金」がスタート、リスキリングの現状と課題

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ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルが、注目のニュースを読み解きます。
今日は、ダイヤモンド・ライフ編集長の神庭亮介さんにお話を伺いました。
神庭さんが注目した話題はこちらです。


【「教育訓練休暇給付金」がスタート、リスキリングの現状と課題】

吉田:在職中にリスキリング(学び直し)のための休暇を取る人を支援する新制度「教育訓練休暇給付金」が10月からスタートしました。そこで、リスキリングの現状と課題について、神庭さんに解説してもらいます。まずは、この「教育訓練休暇給付金」とは、どんな制度なのか、教えてください。


神庭さん:働く人が30日以上の「無休」の教育訓練休暇を取得する場合に、賃金の5〜8割程度を受け取れる仕組みです。業務命令ではなくて本人の意思で自発的に取り組むこと、就業規則に基づいて無休の休暇を取得することが条件となります。給付金を受け取るのは労働者ですが、手続きは会社側で対応する必要があります。ちなみに、解雇予定の社員は給付金の対象になりません。仮に企業がリスキリング名目で社員をリストラしようとすると罰則の対象になるということです。


ユージ:リスキリングという言葉はよく聞くようになりましたが、実際どれくらい広がっていますか?


神庭さん:帝国データバンクの調査(2024年)によれば、「リスキリングに取り組んでいる」企業は全体の8.9%、「今後取り組みたい」が17.2%で、合わせても積極的な企業は26.1%にとどまっています。逆に「取り組んでいない」企業は46.1%にのぼります。さらに「意味を理解できない」が9.5%、「(リスキリングという)言葉も知らない」が10.1%という答えもあり、合わせると3分の2近い会社がリスキリングに無関心・消極的という結果になりました。特に中小企業は大企業に比べて取り組み率が低いです。


ユージ:何がネックになっていますか?


神庭さん:企業側からすると、人手不足で代替要員をなかなか確保できない、せっかくリスキリングしてもすぐに辞めてしまうんじゃないかという不安があります。会社のお金で海外留学させたのに、帰国した途端に辞めてしまった、みたいな話は昔からよく聞きます。労働者の側からすると、そもそも仕事が忙しくて時間がない。研修を受けるお金がかかります。その間に給付金が5割、8割補填されるとしても、通常の給与よりは目減りするわけです。リスキリングを頑張った結果、社内で何か評価されるのか、出世できるのかもよく分からない。そうすると、リスキリング?何それおいしいの?状態で、なかなか広がらないのもうなずけるかなと思います。


吉田:リスキリングの成功例はあるのでしょうか?


神庭さん:ダイキン工業は2017年、社内に「ダイキン情報技術大学」を開設しました。新入社員から役員まで、AI活用やデジタル技術を学べるようにしました。2023年度までに1,500人を育成して、今年度末までに2,000人のデジタル人材を育成することを目指しているということです。日立は2020年の段階で、国内のグループ全16万人にデジタルトランスフォーメーションの研修を受講させています。両者とも規模が大きく、人材育成への本気度がうかがえるところです。


ユージ:逆に失敗事例はありますか?


神庭さん:せっかくスキルを学んだけど、社内に生かせるポストがない。で、結局転職しちゃう。社員目線では別に問題ないですが、企業からすると痛手になります。あとは「学びっぱなし」でアフターフォローがなく知識が定着しないパターン。せっかく学んでも実践に生かせなければ意味がないかなと思います。


ユージ:リスキリングは、よく聞く言葉ですが、まだまだ課題がありそうですね。


神庭さん:そうですね。AIの進化は爆速で進んでいます。せっかく知識を身につけても半年どころか1カ月で陳腐化してしまうリスクがあるわけです。アメリカではAIショックがホワイトカラーの雇用に影響を与え始めています。ハーバードでMBAまで取ったのに、4人に1人が就職できないというニュースもありました。リスキリングの方向性を一歩間違えると、努力が台無しになってしまうかもしれないということです。政府としては、生産性の低い産業から生産性の高い産業への労働移動を促すためにリスキリングを奨励しています。それ自体は正しいですが、企業や労働者の側からするとメリットが見えにくい部分もあります。組織開発専門家の勅使川原真衣さんは、コンプレックス産業化していると指摘しています。成長、成長、成長と資本主義だからしょうがないですが、成長しないと脱落する「一億総成長時代」になると疲れると思います。成長の果てに何があるのかをよく考えた方がいいかなと思います。


ユージ:最後に、どんな対策が必要だと思いますか?


神庭さん:AI、データサイエンス、MBAみたいな「キラキラ系リスキリング」だけじゃなくて、地に足のついた資格や「現場系リスキリング」にもっと光を当てたらどうかと思います。ダイヤモンド・オンラインによると、インフラ業界は人手不足が深刻で、電気工事士や電気主任技術者として独立して、年収1,000万円以上を稼ぐ人もいるということです。そういったことにも目を向けて欲しいですし、世代ごとのきめ細かな対応も重要だと思っています。氷河期世代の支援メニューの中にもリスキリングが入っていると思いますが、氷河期の最年長はもう55歳です。若い頃から非正規で職を転々として来て、専門的なスキルを身についていないとなると、今さらリスキリングで間に合うのか心配なところです。最低保障年金など別の対応が必要になってくるかもしれません。あとは追い出し部屋のような形でリスキリング名目のリストラが横行しないように、そこは国がしっかり目を光らせて欲しいなと思います。


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