25.10.20
メルカリが撤退、スキマバイトサービスで今何が起きているのか?

ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルが、注目のニュースを読み解きます。
今日は、ダイヤモンド・ライフ編集長の神庭亮介さんにお話を伺いました。
神庭さんが注目した話題はこちらです。
「メルカリが撤退、スキマバイトサービスで今何が起きているのか?」
吉田:フリマアプリ大手のメルカリは14日、単発・短時間のスキマバイトに応募できるサービス「メルカリ ハロ」を12月18日で終了すると発表しました。そこでメルカリ撤退の経緯や、スキマバイト業界の課題などについて神庭さんに解説してもらいます。まずは、メルカリの撤退の理由から教えてください。
神庭さん:競争の激化が大きな要因です。Business Insiderによると、メルカリ ハロは今年2月の時点で登録者が1,200万人を超えていました。最大手のタイミーが7月末段階で1,190万人だったので、これだけ聞くとうまくいっていたのになんで?と思う人もいるかもしれません。スキマバイトサービスで大事なのは登録者数ではなくて、実際にどれだけの人がマッチングして働いているかの方です。昨年の就業実績で比較すると、タイミーの約1,805万人に対して、メルカリ ハロは約94万人で19倍ほどの開きがあったとBusiness Insiderは報じています。メルカリ ハロはサービスを広げるため、当初は事業者の利用料を無料にしていました。1年経って今年の4月から有料化したところ、結果として事業者からの求人を減ってしまったということがあるわけです。
ユージ:なるほど。熾烈な競争があったんですね。
神庭さん:シェアフルやLINEスキマニなどの競合がひしめく中でも、タイミーの就職者数は頭一つ抜けていて、一強ともいえる状態です。1年9カ月で撤退することになったメルカリは「市場環境の変化やサービスの利用状況などから総合的に判断した」と説明しています。株主からコア事業への集中を求める声も上がっており、フリマアプリやメルペイなどに経営資源を集中したい考えもあるのではないでしょうか。プラットフォーム型のサービスは勝者総取りとも言われます。検索ならGoogle、通販ならAmazonという感じで、スキマバイトといえば…というユーザーの第一想起に入れるかどうかが命運を左右します。リクルートが昨年秋に提供予定だった「タウンワークスキマ(仮称)」の開発を中止するなど、激しい競争のなかで撤退する企業も相次いでいるのが実情です。
吉田:スキマバイトの利用者自体は増えているのでしょうか?
神庭さん:スポットワーク協会によると、2月段階での登録者数は約3,200万人。複数サービスに登録している人も多いので重複はありますが、すごい勢いで成長していることは間違いありません。パーソル総合研究所の調査によれば、直近3年以内にスキマバイトをした経験がある人は6.5%。スキマバイト人口は452万人と推計されています。メルカリ ハロが撤退したことで別のサービスに流れるユーザーはいるでしょうし、今後も淘汰や再編はあると思いますが、これだけ深刻な人手不足が続いている以上、スキマバイト市場自体は拡大していくんじゃないかなと思います。
ユージ:このように拡大していく中、課題はどうでしょうか?
神庭さん:先ほどのパーソル総合研究所のアンケートでは、働く側の困り事として「仕事の教え方がわかりにくい」「マニュアルがない」「職場の従業員の態度が冷たい」といった悩みが上位に入りました。ただこれは、従業員のことだけ責められないかなと思っています。「時給が低くて人が集まらないのでスキマバイトを入れて何とかシフトを回してる」「でも指導やマニュアル整備はおざなりで現場に丸投げ」みたいな状況を放置している会社の責任も大きいと思います。本来なら会社に向くべき怒りが、立場の弱いスキマバイトの人への冷たい態度につながっているとしたら悲しいですよね。ダイヤモンド・オンラインでは、40代の男性がタイミーで様々な現場に潜入する「タイミーさんが見た世界」という連載が人気ですが、キッチンカーの店長から「喋ってるなら金、払わねえぞ。時給、引くぞ!?」とパワハラされたとか、別の飲食チェーンでは詳しい説明がないままダメ出しを連発されたとか、過酷なエピソードも結構出てきます。
ユージ:働く側をどう守っていくかも大事ですね。
神庭さん:それが一番大事なことじゃないかなと思います。スキマバイトをめぐっては、「事前に聞いていた仕事内容と違う」「始業前に集められたのに、その分の残業代が払われなかった」「当日にドタキャンされた」といったトラブルが多数報告されています。当然ですが、制服への着替えなど始業前の準備や、仕事終わりの掃除なども労働時間に含まれます。また、厚労省は事業主の都合のドタキャンは「労働者保護の観点から不適切」と注意喚起しています。スキマバイトで生計を立てている人の多くは、社会保険の対象からも漏れています。これだけ爆発的に増えている以上、セーフティーネットについても改めて考えていく必要があるのかなと思います。企業側の受け入れ体制も課題です。時間をかけて研修したバイトですらバイトテロを起こして炎上します。短期のスキマバイトだと、なおさら炎上リスクは跳ね上がってくると思います。紙だけでなく動画でもマニュアルを用意する、短時間でもポイントを絞ってしっかり指導する。そういった体制整備を怠ったまま現場に対応を丸投げしていると、そのうちスキマバイトテロでSNS大炎上みたいなことが起きかねないかなと思いますので、そのあたりもしっかり対応いただきたいところです。