25.10.28
高市総理が設置を表明した社会保障改革を議論するための「国民会議」

ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルが、注目のニュースを読み解きます。
今日は、ダイヤモンド・ライフ編集長の神庭亮介さんにお話を伺いました。
神庭さんが注目した話題はこちらです。
【高市総理が設置を表明した社会保障改革を議論するための「国民会議」】
吉田:高市総理は先週の所信表明演説で、社会保障制度に関する「国民会議」を設置する考えを明らかにしました。新政権による社会保障の行方や課題について神庭さんに解説してもらいます。
ユージ:改めて、所信表明で高市総理は何を語ったのか、教えて下さい。
神庭さん:社会保障の給付と負担のあり方について国民的な議論が必要だと指摘。超党派かつ有識者も交えた国民会議を設置して「給付付き税額控除」について議論すると述べました。また、赤字の医療機関や介護施設への支援は「待ったなし」だとして、賃上げや物価高対応のために診療報酬や介護報酬の改定のタイミングを待たずに補助金を投じる考えを示しました。この他、OTC類似薬を含む薬の自己負担の見直し・電子カルテを含む医療機関の電子化。現役世代の社会保険料負担を抑えるなどの政策を打ち出しました。
吉田:いくつか難しい言葉が出てきましたが、まず「給付付き税額控除」について改めて教えてください。
神庭さん:減税と給付金を組み合わせたハイブリッドな仕組みです。「10万円減税しますよ」という話になった時に、そもそも税金を10万円収めていない人はそのメリットを十分に受けられません。仮にその人が税金を3万円だけ収めているとしたら、まず3万円分減税したうえで、10-3で残り7万円は給付する。低所得者向けに、引ききれなかった税金を現金給付する。マイナスの税金という意味で「負の所得税」とも呼ばれます。
ユージ:なるほど。そうなると、どんな効果が期待できるのでしょうか?
神庭さん:中低所得層の生活を下支えし、「貧困の罠」を防ぐのが狙いです。生活保護を脱するために頑張って働くと、税金や社会保険料の負担も増えます。働くだけ損だから生活保護をもらった方がマシだ、となるといつまでも貧困から抜け出せなくなってしまいます。そういった事態を防ぐために、アメリカやカナダ、イギリス、韓国などが給付付き税額控除というシステムを導入しています。高市氏は総裁選でも給付付き税額控除の必要性を訴えており、立憲民主も以前から公約に掲げています。先月には、自民・公明・立憲の3党が制度を具体化するための協議を始めることで合意しています。課題としては、すでにある生活保護や基礎年金と、どう整合性を取るのか?生活保護や年金に上乗せして支給すると、バラマキになりかねません。社会保障全体の改革が必要になるので、数年単位の時間がかかるとも言われています。
吉田:次に、「OTC類似薬を含む薬の自己負担の見直し」これはどういう意味でしょうか?
神庭さん:OTCというのは「Over The Counter」の略です。処方箋なしで薬局のカウンター越しに買える薬をOTC医薬品といいます。今回焦点になっているOTC「類似薬」、これはOTC医薬品、市販の医薬品とほぼ同じ成分・効能だけど、医師の処方箋が必要な薬のことをいいます。湿布や花粉症の薬など「薬局で買うより安い」と病院に通う患者さんも多いです。「薬局より安い」というのは、もちろん健康保険料や公費が入っているからです。だから患者は3割、1割の自己負担で済むわけです。裏を返せば、それだけ医療費がかさんでいるということでもあります。日本維新の会は、OTC類似薬を保険適用から除外すると医療費を1兆円節約できると主張しています。参院選でも適用除外を公約に掲げていました。20日に自民と交わした閣外協力のための合意書でも、OTC類似薬の自己負担の見直しが明記されています。高市氏の所信表明は、この合意に沿った内容と言えると思います。
ユージ:かなり「維新」の主張が影響しているように見えますね。今後も高市政権の社会保障政策に影響してくるのでしょうか?
神庭さん:当然影響すると思います。ただし、高齢者の医療費窓口負担を「9割引」から「7割引」に見直すといった維新の主張を、高市自民がどこまで飲み込めるかは未知数です。自民と維新の合意書には「医療費窓口負担に関する年齢によらない真に公平な応能負担の実現」と書かれてはいます。「7割引」とか「自己負担3割」みたいな具体的な数字は出てきません。高市氏の所信表明も、その辺は明言せずふわっとさせていました。高齢者の窓口負担を引き上げれば、高齢支持者は反発します。OTC類似薬の保険適用除外に関しても、自民党の有力な支持母体である日本医師会が「医療機関の受診控えによる健康被害」が出るとして反対しています。
ユージ:だから、維新の要望がそのまま通るとも限らないんですね。
神庭さん:その通りで、今後の政局に大きく左右されるかなと思っています。読売新聞の世論調査で高市内閣の支持率は71%と歴代5位の高さを記録しました。しかも18〜39歳の現役世代80%ということで若年層の人気がものすごい。1つのシナリオとしては、現役世代の強い支持を背景に、維新と二人三脚で痛みを伴う社会保障改革を断行できる可能性があります。こうなるといいですけど、もう1つは、支持率が高いうちに、さっさと解散に踏み切る可能性です。仮に自民が衆院で単独過半数を回復できた場合、維新にそこまで頼らなくてもいいよね、となって社会保障改革の優先順位が下がってしまうリスクも考えられます。今後の政治の流れが、社会保障にも少なからず影響しそうです。