25.10.29
政府、法人税の『租税特別措置』見直しへ…ガソリン減税の財源か

ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。
本日は、情報社会学がご専門の学習院大学・非常勤講師、塚越健司さんです。
今朝、取り上げるテーマはこちら!
【政府、法人税の『租税特別措置』見直しへ…ガソリン減税の財源か】
吉田:政府は、特定の条件を満たす企業の税負担を軽くする、法人税の「租税特別措置」の見直しを進めることになりました。片山さつき財務大臣は「租税特別措置補助金見直し担当」を兼務することになり、10月22日の会見で、丁寧に見直しを進める考えを示しています。塚越さん、まずは、法人税の「租税特別措置」について教えてください。
塚越さん:あまり聞かない言葉ですよね。「租税特別措置」ですが、特定の政策目的のために、企業や業種を限定して税金を減らす仕組みです。例えば、研究開発費を増やした企業を優遇するものだったり、賃上げを進める企業の税負担を軽くするものです。この特別措置は、2023年時点で78あり、減税の規模は年間およそ2兆9,000億円ということです。結構大きいです。これは税制の原則とされる「公平・中立・簡素」の例外という位置づけです。本来、税金はどんな企業にも同じルールで課されるべきですが、特定分野を後押しするのが「特別措置」です。戦後の日本の税制の基礎となった1949年の「シャウプ勧告」がありまして、ここでは、こうした特例はなるべく減らすよう提言されていたんですが、企業の設備投資や家計の貯蓄を促す目的で広がり、高度経済成長を後押ししたとされています。ただ税負担を減らすというのは表面的には見えにくい支援策なので、言ってみたら「隠れ補助金」です。これにはいろんな課題もあって、先日の自民党と維新の連立合意の文書にも、政策効果の低いものは廃止すると明記がありました。
吉田:この「租税特別措置」について、政府はどういったところの見直しを考えていますか?
塚越さん:「租税特別措置」をすると、当然「税収」が減りますよね。年々税収の減少額が大きくなっていて、2023年度は2.9兆円税収が減っています。それだけ企業に補助がいったことになります。この2.9兆円の中でも、特に大きいのが「賃上げ促進税制」と「研究開発税制」で、この2つで1.7兆円となっています。例えば、「賃上げ促進税制」は、賃上げを行うと減税される仕組みで、企業規模にもよりますが大企業は3%以上の賃上げを行うと減税されます。でも今は物価も3%程度上がっているので、大企業は簡単にクリアできますよね。この制度自体は2013年のデフレの時期にできたのですが、今のこの時期に必要か?という議論がやっぱりあります。これだけで、年間7,000億円程度の減税額になっています。しかも、減税は一度きりですが賃上げの負担はずっと続くので、中小企業には恩恵がいきにくいという課題があります。もう1つの「研究開発税制」は、本来イノベーションを促す目的でできたものです。実際は、自動車のモデルチェンジの費用など、最先端の研究といえないようなものにも広く使われています。また開発にお金のかかる自動車や製薬企業といった大企業に、減税の9割が集中しています。年間9,500億円程度の減税になっています。もっといえば、どの企業がどれだけ減税を受けたかは非公開ということで、1兆円近いお金が減税されているのに、効果がチェックできない、といった批判もありました。いずれにせよ、特にこの2つの減税額が近年増加しているので、本当に必要か?という見直しの議論になっています。
ユージ:「租税特別措置」を見直して、ガソリン減税の財源にあてる案も、出ていますよね?
塚越さん:そうですね。このところ、ガソリン税の暫定税率の廃止が与野党で進んでいます。今のところ、報道だとガソリンに10円補助がついています。11月から段階的に上げていって暫定税率である25円まで、1回補助します。その後に、暫定税率を廃止する方針が報道されているので、いずれにしても安くなっていくだろうと言われています。あとは、維新が言っている教育無償化なども含めると、2.2兆円ほどかかります。財源が必要になるので、今回の「租税特別措置」の見直しを使って、財源にしていこうという話です。経済界や与野党の色々な協議が、これからの焦点かなと思います。
ユージ:「租税特別措置」の見直しについて、塚越さんは、どうご覧になっていますか?
塚越さん:政権が変わって色々な見直しが進むことはいいことだと思います。他にも色々やるべきことがありますし、まずは現金給付案を自民党はやめましたし、そういう意味での見直しという中で財源をつくっていくというのは、いいかなと思います。あとは、ガソリン減税は元々ずっと言われていたので、早くやめちゃって国民に還元することが大事です。ただ、一方で研究開発というのは本当に大切なものもあるので、今までザルっぽかったということであれば、もう少し細かくみていくことも必要だと思います。その上で、高市政権が色々なことをやってこれからも経済対策が出ていくと思うのですが、我々は細かい点をチェックしてください。今回の「租税特別措置」という言葉をまず覚えることが大事かなと思います。