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25.11.03

精神障害の労災認定が過去最多、求められる対策は?

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ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルがニュースを読み解きます。
コメンテーターはダイヤモンド・ライフ編集長の神庭亮介さんです。
今朝、取り上げるテーマはこちら!


【精神障害の労災認定が過去最多、求められる対策は?】

手島:政府が発表した「過労死等防止対策白書」で、2024年度の精神障害による労災の認定件数が1000件を超えて、過去最多となりました。そこで今朝は、精神障害の労災認定が増えている背景や、求められる対策について、神庭さんに解説してもらいます。まずは、白書の内容について詳しく教えてください。


神庭さん:仕事によるストレスが原因でうつ病などの精神障害を発祥し、労災認定された人は1055件で過去最高でした。労災、労働災害というのは仕事中の怪我だけでなく、過労死や精神障害でも認められています。それが請求件数、認定件数ともに2010年度の3倍以上に増えてしまっています。原因になった出来事としては「対人関係」が群を抜いて多く、「仕事の量・質」「パワハラ」などが続きました。一口に「対人関係」と言っても色々ありますが、細かく見てみると「上司とのトラブル」がスバ抜けて多かったです。かなり間が空いて「同僚とのトラブル」「顧客や取引先、施設利用者などからの著しい迷惑行為」と続きました。


ユージ:業種ごとの特徴はありますか?


神庭さん:業種別だと、請求件数がダントツで多いのが「医療・福祉」で全体の3割を占めます。「製造業」や「卸売・小売業」も目立ちます。白書によれば「重度の病気やケガ」は建設業が高いです。「悲惨な事故や災害の体験、目撃」「同僚等から暴行・いじめ・嫌がらせ」は医療が特に高いです。「仕事内容・仕事量の大きな変化」はIT産業や芸術・芸能分野が特に高い「1カ月に80時間以上の時間外労働」は自動車運転従事者や外食産業が高いです。「2週間以上の連続勤務」は建設業が高いです。「上司とのトラブル」「パワハラ」は教職員が高いといった傾向が見られる状態です。


手島:他に注目すべき点はありますか?


神庭さん:自殺以外の労災請求件数は男女とも右肩上がりですが、令和に入ってから女性が男性を上回っています。特にカスタマーハラスメント、カスハラでは女性がターゲットにされやすいです。一方で自殺事案は男性が圧倒的に多く、2011年〜2022年までの12年間で労災が支給決定された事案のうち、男性が95.3%を占めました。長時間労働も影響していると見られます。


ユージ:今回、精神障害の認定件数が過去最多になった背景は何ですか?


神庭さん:まず分母となる請求件数が増えたことが挙げられます。厚労省は2023年度に、心理的負荷による精神障害の労災認定の基準を改正。カスハラの他、「感染症など病気や事故の危険性が高い業務に従事」したことを評価基準に追加しました。これによって、「私も対象になるかも?」と労災請求をする人が増えました。より長期で見ても、10年、20年前に比べて労働者がSOSの声をあげやすくなったことは間違いないです。精神障害の労災認定が2010年度の3倍という数字だけ聞くと、「酷い!」「どうなってるんだ!」と思う人もいるかもしれないが、自殺事案は過去10年で見ても横ばいです。自殺という最悪の結末を迎える前にSOSを出し、労災認定を受けることができたというポジティブな受け止める事もできるのかなと思います。


手島:高市政権は労働規制の緩和を推進していますが、今後、過労やストレスによる労災が増える可能性もあるのでしょうか?


神庭さん:「24時間働き詰め」のバブル時代から、日本人の労働時間は長期的に減り続けています。働き方改革の効果もあり、特に正規社員の若者を中心に労働時間自体が減っています。それにもかかわらず精神障害による労災認定が増えているということは、単純に労働時間だけ減らせばいいというわけではないという事です。逆に言えば、労働規制を緩和したら即、過労やストレスが増えるとも言い切れないです。


ユージ:どんな対策が求められていますか?


神庭さん:「いじめを減らそう」と同じで「精神障害の労災認定を減らそう」と考えるのは間違いです。それだと、声をあげにくい抑圧的な労働環境を招きかねないです。数合わせではない本質的な対策が必要だと思います。日経クロステックによれば、システム開発会社のSCSKの平均残業時間は月にたったの3.3時間です。SCSKではただ「残業を減らせ」と声掛けするだけでなく、削減した残業代を特別ボーナスとして社員に全額還元するなど、本気の改革を進めてきたことが効果をあげました。労働時間だけでなく、労働の「質」にも目を向けないといけないです。チャットツールやAIの普及もあり、1日に飛び交う情報量は10年前と比べても飛躍的に増えています。当然、情報処理に追われる社員の労働密度もめちゃくちゃ上がっています。数字に表れない部分ですが、1日の間にネットに繋がらない時間を一定時間設けるといった対策も必要になってくるかもしれないです。記者の世界ではよく「原稿より健康」と言います。ダジャレですが本質です。命、健康より大事な仕事はないです。あと厚労省は「労働条件相談ほっとライン」や「こころの耳」という電話・SNS・メールの相談窓口も設置しているので「ちょっとヤバイな」という時はぜひ活用してほしいと思います。

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