network
リポビタンD TREND NET

今、知っておくべき注目のトレンドを、ネットメディアを発信する内側の人物、現代の情報のプロフェッショナルたちが日替わりで解説します。

25.11.04

来年度からスタートする高校無償化のメリットとデメリット

null

ネットニュースの内側にいるプロフェッショナルが、注目のニュースを読み解きます。
今日は、ダイヤモンド・ライフ編集長の神庭亮介さんにお話を伺いました。
神庭さんが注目した話題はこちらです。


「来年度からスタートする高校無償化のメリットとデメリット」

手島:自民・日本維新の会・公明の3党は10月29日、高校の授業料を来年度から無償化することで合意しました。そこで、高校無償化の詳細とメリット、デメリットなどについて神庭さんに解説してもらいます。


ユージ:神庭さん、高校授業料の無償化で、具体的には何がどう変わるのでしょうか?


神庭さん:もともと「就学支援金制度」というものがありまして、公立や私立の高校に通う生徒に対して一定額が支給されていました。ただし、所得制限がありまして年収910万円以上の世帯は昨年度まで支給額0円でした。この所得制限を撤廃するというのが最大のニュースです。まず今年4月からの第1段階で、所得制限なしで全世帯に11万8,800円支給していたのですが、来年4月からはさらに上限解放されて、最大45万7,000円を支給することになりました。45万7,000円というのは私立の全日制に通う場合で、私立の通信制の場合は33万7,000円です。外国人学校は無償化の対象外ということだそうです。


手島:かなり手厚く感じますが、評価はどうなのでしょうか?


神庭さん:Xでは賛成意見として「子育て世帯としてありがたい」「子供4人いるけど、無償化めちゃくちゃ助かる」「私立は不登校の子や発達障害の子には欠かせない存在。無償化がなかったら高校行けない」といった声があがりました。一方で、反対意見としては「私立まで無償化するのはやりすぎ」「富裕層が得するだけ」「バラマキで財政が悪化する」といった投稿もみられました。


ユージ:今回の無償化、メリットがかなり大きいのかなと思いますが、とくに子育て世帯ですかね。どうでしょうか?


神庭さん:一番のメリットは、保護者の金銭的メリットかなと思います。子ども1人を私立高校に通わせたら最大137万1,000円、2人なら合計274万2,000円が浮くわけですから、子育て世帯にとっては非常にありがたいです。「勉強が得意なのに、家庭の事情で高校進学を諦めざるを得ない」という子を減らせるかもしれません。マクロで見ると、教育は国家にとって最も効率の良い投資だと言われていて、子どもの学力テストの得点が高い国はGDP成長率が高いという研究もあります。ところが、日本の公的支出に占める教育費の割合は8%です。OECD諸国37カ国で、イタリア、コロンビア、ギリシャに次いでワースト4位です。膨らむ一方の高齢者の社会保障費に比べると、子どもへの教育はおざなりになっています。そうした世代間格差を是正する効果は期待できそうです。


ユージ:確かにそうですよね。では、考えられるデメリットはありますか?


神庭さん:これも、結構あります。1点目は、無償化と言いつつ、実際は「税負担化」だということです。今回の合意を進めるには約6,000億円が必要で、そのための財源を見つけて、現在世代や将来世代が負担しないといけません。そして、2点目は誤解されがちですが無償化といっても、あくまで「授業料分」だけだということです。私立に通わせると授業料以外にも、入学金、寄付金、施設維持費、修学旅行など色々と費用がかかります。3点目としては、受験競争が過熱する可能性があることです。比較的余裕のある家庭は、無償化で浮いた分を塾代に回します。そうすると、教育課金レースがかえって激化するかもしれません。そして4点目は、少子化対策の効果が薄いことです。韓国は日本より早く2021年に高校を完全無償化していますが、昨年の合計特殊出生率は0.75で日本の1.15人に比べてもだいぶ低いです。


神庭さん:最後に5点目、これが一番大きな問題なので詳しく説明したいですが、公立高校が地盤沈下してしまいます。


手島:どういうことでしょうか?


神庭さん:「どうせ授業料タダなら公立じゃなくて私立に行かせよう」と考える親子が増えることで、公立離れが加速します。実際、全国に先駆けて無償化に踏み切った大阪では、今年度の入試で142校中79校が定員割れしました。偏差値68の名門進学校の寝屋川高校まで倍率1倍を割り込んでしまい、「寝屋川ショック」と話題になりました。同じく先行する東京都でも37%の公立高校が定員割れしています。私立高校からすると少子化で苦しんでいるところに神風が吹いたようなもの。国が出してくれるんだからと早速、便乗値上げに動く学校もあります。どこもインフレで大変なので、これが適正な価格転嫁なのか、便乗値上げなのか保護者からすると区別がつきにくいというところもあります。


手島:そういったことを防ぐためにも、どんな対策が求められるでしょうか?


神庭さん:無償化の副作用を和らげるためにも、私立ばかり優遇するのではなく、公立を守ることも考えないといけないと思います。以前から申し上げていますが、一刻も早く公立高校のデジタル併願制を導入すべきです。公立高校は1校しか受けられない単願制の自治体がほとんどです。これだと、第1志望が公立の子は落ちたら滑り止め私立に行くしかありません。DA方式という仕組みを使ったデジタル併願制を導入すれば、たとえ第1志望が不合格でも、第2志望や第3志望など公立の中で「滑り止まる」ようになります。こういう併願制という武器があれば、公立高校も少しは私立高校と対等に渡り合えるようになるということです。問題はいつからやるか?石破前総理は4月に単願制の見直しを指示しました。産経新聞によれば、政府は2027年度の学習指導要領の改定にあわせて、デジタル併願制を導入することを検討しているということです。スピード感を持って、ただし、いま一生懸命勉強している子どもたちが混乱しないように、丁寧に改革を進めて欲しいなと思います。


  • X
  • Facebook
  • LINE
Top